「情シスのあるべき姿」とは――フジテック CIO、10の言葉「ビジネスに寄与する情シス」の具体像(1/3 ページ)

デジタル化のトレンドが進展し、IT活用の在り方が収益に直結する時代になった現在、情報システム部門には「ビジネスへの寄与」が強く求められている。だが「ビジネスへの寄与」とは具体的に何をすることなのか、詳細に語られることは少ない。その1つの回答を、ガートナー ジャパンが2017年3月16、17日に開催した「ガートナー エンタプライズ・アプリケーション戦略&アプリケーション・アーキテクチャ サミット2017」に登壇したフジテック CIO 友岡賢二氏の講演に探る。

» 2017年03月28日 05時00分 公開
[内野宏信,@IT]

今、情報システム部門に「期待されている価値」とは?

 ITの力で新たな価値を生み出すデジタルトランスフォーメーションの潮流が高まる中、「言われたものを、言われたままに作る」「担当システムの安定運用を担う」といった、従来型の情報システム部門にありがちな“受け身のスタンス”が、あらためて問い直されている。

 近年はパブリッククラウドの浸透によって、必要なリソースをいつでも迅速に入手できる環境が整っている。顧客企業と共にビジネス企画を考え、アジャイルやDevOpsのアプローチでITサービスを共に開発・改善するサービスも、複数のベンダー、SIerが提供している。こうした中、事業部門主導でIT活用を進めるケースも増えていることを受けて、「なかなかリクエストに応えてくれない」、場合によっては「ビジネスのブレーキにすらなっている」情シスの在り方を指した“情シス不要論”もささやかれているのは周知の通りだ。

 だが本来、情シスはベンダーやSIerよりも自社ビジネスに詳しいはずだ。また、ビジネス展開のスピードを担保する上では、細かなシステム改修でも一定以上の時間とコストが掛かる外部サービスを利用するより、内製した方がよほど合理的といえる。つまり「不要」とされているのは、社外パートナーとの単なる仲介役のような「ビジネスに寄与できない情シス」であり、情シスが期待されている本来的な役割は、IT活用の在り方が収益を左右する時代にあって、一層重要性を増しているといえるだろう。

 では具体的に、「ビジネスに寄与する」とはどういうことなのだろうか?――ガートナー ジャパンが2017年3月16、17日に開催した「ガートナー エンタプライズ・アプリケーション戦略&アプリケーション・アーキテクチャ サミット2017」に登壇した、フジテック 情報システム部 執行役員 情報システム部長 CIO(最高情報責任者:Chief Information Officer) 友岡賢二氏の講演、『現場・現物・DevOps:答えは現場にある〜フジテックのモバイルファースト、クラウドファーストの取り組み』に、その回答を探った。

左手には最新のテクノロジーを、右手には現場の課題を蓄積せよ

 フジテックは1948年創業のエレベーター(昇降機)メーカー。昇降機の研究・開発から販売、生産、据付、保守・改修までを担い、2017年3月現在、世界25の国・地域で事業を展開している。国内では東急プラザ銀座、虎ノ門ヒルズなどをはじめ、全国で多数の同社製品が稼働。こうした事業において、ビジネスのカギを握っているのが「現場の効率化」だ。

ALT フジテック 情報システム部 執行役員 情報システム部長 CIO 友岡賢二氏。松下電器 情報部門、ファーストリテイリング IT Director を経て2014年から現職

 「エレベーターというと、工場で製造して現場で据え付ける、といったイメージもあるかもしれないが、設置する建物が一軒一軒異なるため、エレベーターの仕様もそれぞれ異なる。従って受注生産として、工場から運んだ部品を現場で組み上げ、据え付ける形を採っている。さらに、いったん据え付けると長期間使われるため、保守・改修作業にも効率とともに精度の高さが求められる」

 こうした点で、「いかに現場業務を効率化するか」が収益・ブランド・社会的信頼を担保する上で大きなポイントであり、情報システム部門にとっても「現場をどう支援するか」が重要なミッションになっているのだという。

 そのために、まず友岡氏が挙げたのが「現場に溶ける」ことだ。「溶ける」とは、情報システム部員が作業現場に足を運び、現場の状況を聞くだけではなく、“求められていること”をくみ取り、実現し、現場スタッフと「心を通い合わせる」ことを指している。

 「現場スタッフの声を聞くだけではなく、自分の目で見ることが大切。現場にあるさまざまな矛盾や非効率を発見すると、『なぜこんなことをやっているのか』という疑問が浮かぶ。自身でつかんだ疑問であれば、おのずと何とかしなければと考える。すると、解決法を主体的に考え始める。その上で手を動かして解決策を作って現場に持って行き、直接、現場スタッフの反応を得る。こうした活動を通じて、常に“現場に喜んでもらえるもの”を提案している」

 例えば現場スタッフ用のモバイルアプリケーション「現場写真アップロード」もその1つだ。同社では友岡氏が着任した直後、2014年3月から「Gmail」「Googleカレンダー」「Googleスプレッドシート」など各種SaaSを導入。同年6月からBYOD(Bring your own device)をスタートさせ、同年9月にはコミュニケーションツール「Google ハングアウト」も導入した。これを利用してアプリを開発。保守・改修スタッフが、特定のエレベータ部品の型番や仕様などを知りたい際、その場でスマホを使って部品の写真を撮り、グループチャットにホスティングすると、それを見たバックオフィスのスタッフがすぐに必要な情報を送れる仕組みだ。

 「従来はフィーチャーフォンを使って、知りたい情報を把握しているバックオフィスの担当者、1人1人に電話をかけて聞いていた。場合によっては1人目、2人目、3人目まで電話に出ず、4人目でようやく分かるといったケースも少なくなかった。しかも4人目で解決したにもかかわらず、最初に電話をかけた3人から後で電話が掛かってくる。『さっきの件だけど』『ああ、もう解決したよ』といった非効率なやり取りが頻繁に生じていた。これを解決したことは非常に喜ばれた」

 こうした活動の上で重要なのが、「最新のITツールの知見」を日常的に収集・蓄積するスタンスだという。「左手には常に最新のITツールの知見をため込む。右手には現場の課題を蓄積する。これらが何かのタイミングでマッチングする時が来る。このマッチングを起こすことを常に心掛けている」。

 情シスが効率化をリードするために、事業部門側からシステム開発要請書を出すスタイルを廃止し、逆に情シス側から開発要請書を提案して承認してもらう形に変えた。

 「事業部門側から開発要請書を出されてしまうと、情シスとしてはNoと言えない。また、そのスタイルだと要請書のエクセルシートが山のようにたまっていき、『いつまでたっても情シスは対応してくれない』といったことになりやすい」ためだ。何よりこのスタイルだと、「情シスが何らかイノベーションを起こそうと考えても、“事業部門側が考える範囲”にイノベーションの可能性が制限されてしまう」。

 「事業部門は『“情シスなら”こういうことには対応してくれるのではないか』といったフィルターを通して考える。だからこそ『現場に溶ける』――自分の目で現場を見て、矛盾や疑問をつかみ、テクノロジーを知る視点で解決策を考え、提案することが大切。例えば、部品の写真を撮ってグループチャットで情報を取り寄せられるモバイルアプリのアイデアなど、ただ待っていても出てこないのではないか」

 コスト削減の一環として、情シスを本社から切り離して情報システム小会社とする企業も多い。だが友岡氏は、「情報システム子会社は開発要請書がないと業務が回らない宿命にある。この点で、(自社業務のイノベーション創出を狙うなら)情シスと本体は一体であった方が望ましいと考える」とも指摘した。

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