IT活用の在り方がビジネスの成果に直結する現在、ITインフラの運用管理にも一層のスピードと柔軟性が求められている。これに伴い運用管理者には「求められたリソースを迅速に配備する」など「サービスブローカー」としての役割が求められているが、いまだ仮想環境の運用管理などに手を焼いている企業が多いのが現実だ。ではサービスブローカーへの変革を実現できる最も効率的な方法とは何か? 統合インフラに幅広いラインアップを持つDell EMCへのインタビューに、その1つの回答を探る。
デジタルトランスフォーメーションのトレンドが国内でも進展し、社外向け/社内向け問わず、ITサービスを開発・改善する「スピード」がビジネス差別化の一大要件となりつつある。これに伴い、ITインフラの運用管理者には、開発者や事業部門を支援すべく、ITサービスを安定運用したり、要望に応じて仮想サーバやストレージなどのITリソースを迅速に配備したりする「サービスブローカー」としての役割が求められている。
だが現実には、運用効率化やコスト削減を狙ってサーバ仮想化を導入しているものの、「障害原因の特定に時間がかかる」「求めるパフォーマンスを担保できない」など、いまだ運用管理に手間取っているケースが多い。その他、運用管理ノウハウの属人化、人的リソース・スキル不足など、「リクエストに迅速に応える」以前に、多くの課題を抱えている状況だ。
こうした中、あらゆる運用課題を解決できるとして注目を集めているのがハイパーコンバージドインフラだ。低予算でスモールスタートして必要に応じて拡張できる、単一の管理ツールでインフラをシンプルに管理できる、仮想サーバなどITリソースを迅速に配備できるなど、“パブリッククラウドライクなインフラ”をコスト効率良く導入できるとして支持を集め、国内でも導入企業が急速に増加している。IDCジャパンの調査によると、国内コンバージドシステム全体のCAGR(販売年間平均成長率)は2015年〜2020年で13.8%。うちハイパーコンバージドシステムが2020年の国内コンバージドシステム市場に占める割合は、2015年の9.4%から26.5ポイント上昇して35.9%になるという。
ただ、@IT編集部が2016年12月〜2017年1月にかけて行った読者調査によると、ハイパーコンバージドインフラについて「十分に理解している」と答えたのは4.2%、「ある程度理解している」と回答したのは17.7%(有効回答数594)にとどまるなど、まだ十分に理解が浸透しているとはいえない状況にあることが分かった。加えて、ハイパーコンバージドインフラは複数のベンダー製品が存在し、それぞれ強みや方向性が異なる。では年々複雑化するインフラ、増大し続ける運用負荷といった課題を効率的に解決するためには、ハイパーコンバージドインフラをどのような基準で選び、適用すればよいのだろうか?
ハイパーコンバージドインフラ/コンバージドインフラに幅広い製品ラインアップを展開している米Dell EMC コンバージドプラットフォームズ&ソリューションズ バイスプレジデントのサブラマニャン・カーティック(Subramanian Kartik)氏に、あらためてハイパーコンバージドインフラの基本的なメリットと適用の考え方、また企業ITの目指すべき姿を聞いた。
編集部 昨今、国内でもハイパーコンバージドインフラの導入企業は急速に伸びています。本製品を取り巻く、日本を含めた市場環境をどのように見ていますか?
カーティック氏 ハイパーコンバージドインフラで鍵となるのは、やはり専用ストレージを採用する従来型インフラや、コンバージドインフラとは異なり、ソフトウェア定義型ストレージを採用していることです。これによって汎用的なハードウェアを使って低価格なシステムを作ったり、シンプルに管理したりすることができるようになりました。
そしてムーアの法則通り、メモリやCPUは低価格化する一方で、性能や処理スピードは年々向上しています。かつては高価なSANファブリックでしかできなかったことが、今はソフトウェア定義ストレージで可能となっているのです。現在、多くの顧客企業がインフラのシンプル化と運用効率向上、すなわちコスト削減と運用のスピードアップを求めているわけですが、スタックのシンプル化と低価格化が、そうした顧客ニーズにぴったり合致したのが今だといえるでしょう。
編集部 確かに現在は、多くの企業がシンプルなアーキテクチャと運用スタイルを望んでおり、そうした文脈でハイパーコンバージドインフラは受け入れられていると思います。しかし単に「ソフトウェア定義型のストレージだから」というだけでは、必ずしも「管理が簡単になる」とは言えないのでは? 例えば導入、維持、パフォーマンス担保などの面で、ソフトウェア定義型ストレージである故に、ユーザー企業にとって複雑性が増してしまう側面もあるのでは?
カーティック氏 単に「ソフトウェア定義型のストレージを採用した」というだけでは確かにその通りでしょう。しかしハイパーコンバージドインフラは、例えばソフトウェア定義ストレージである「VMware vSAN」(以下、vSAN)と、サーバハードウェアを個別に用意して、ただ組み合わせ、VMwareのスタックを乗せて作る、といった単純なものではありません。すぐに使い始められて確実にメリットを享受できるよう、高精度なエンジニアリングを施して統合し、検証済みの状態で納品するものです。
弊社製品で言えば「Dell EMC VxRail」「Dell EMC VxRack」「Dell EMC XC」(以下、VxRail、VxRack、XC)がこれに当たりますが、複雑な設計・構築は全て弊社側で行います。つまりソフトウェア定義型ストレージの複雑性を全て排除し、管理者のスキルを問わずシンプルに使えるようにしたものがハイパーコンバージドインフラなのです。
もう1つ強調したいのは、ハイパーコンバージドインフラの拡張性です。コンバージドインフラは、同じ統合インフラといっても、サーバ、ネットワーク、専用ストレージといった従来型のスタックを統合したものであるため、どうしても初期投資が大きくなってしまいます。具体的には100万〜300万ドルほど必要です。また事前にサイジングを行う必要があるため一定の導入期間が必要な他、ある程度使い込んでいくまでは利用率が低いままになりやすいのが一般的です。
一方、ハイパーコンバージドインフラは、ネットワークにつないで電源を入れるだけですぐ使い始められます。数10万ドルから始めて必要に応じて少しずつ拡張できますから、全容量を使いきれないといった無駄がありません。
編集部 コンバージドインフラとハイパーコンバージドインフラの使い分けはどう考えるべきでしょうか?
カーティック氏 基本的に用途によります。ハイパーコンバージドインフラとコンバージドインフラの最も大きな違いは「データサービスの豊富さ」です。コンバージドインフラは専用ストレージを使う点で、データサービスが非常に洗練されています。具体的にはローカルレプリケーション、リモートレプリケーション、暗号化、重複排除/圧縮などです。専用ストレージにおけるこれらの機能は非常に成熟度が高い。
一方で、ソフトウェア定義型ストレージは、市場に出てまだ2〜3年のため専用ストレージほどは洗練されていません。例えばvSANにしても暗号化機能が入ったばかりです。また、サーバでソフトウェア定義ストレージを稼働させるハイパーコンバージドインフラとは異なり、コンバージドインフラはこれらの処理を専用ストレージが担当するため、サーバに負荷を掛けない点もポイントです。
そうしたアーキテクチャの特性を踏まえると、非常に高度な堅牢性、安定性が求められるSAP、Oracleなど一部の基幹系は、コンバージドインフラが適しているといえます。逆に、信頼性、可用性を自身で備えているようなクラウドネイティブなSoEアプリケーション、豊富なデータサービスに依存しないアプリケーションについてはハイパーコンバージドインフラが向いています。
一言でまとめると、「一部を除いた基幹系と、ティア2、ティア3のアプリケーションはハイパーコンバージドインフラで十分に安定稼働できる」といえるでしょう。弊社ではコンバージドインフラとハイパーコンバージドインフラをラインアップしていますが、共に重要な製品群であり、企業の要望、目的に応じて最適なものを提案したいと考えています。
編集部 しかしソフトウェア定義型ストレージのデータサービスも、今後、進展していくのでしょうね。
カーティック氏 その通りです。多くのソフトウェアベンダーがこの分野に投資をしています。例えばVMwareも大規模な投資をしてvSANのサービスを進化させようとしています。今後はソフトウェア定義型のストレージも、専用ストレージと同レベルのデータサービスを備えるようになることが期待されます。
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