米Googleが2017年3月初めのクラウドイベント「Google Cloud Next 17」で強く主張したのは、「オープン」であることだ。だが、他のメガクラウドベンダーもオープンさを強調してきた。では、Google Cloud Platformがオープンさで他社と根本的に異なることはあるのか。また、オープンさがビジネスとどうつながるのだろうか。
米Googleが2017年3月初めに米サンフランシスコで開催した「Google Cloud Next 17」で、パブリッククラウドサービス「Google Cloud Platform(GCP)」について最も強く主張したのは「オープン」であることだ。だが、他のメガクラウドベンダーも、自社サービスのオープンさを強調してきた。そこで湧いてくる疑問は2つある。「GCPがオープンさで他社と根本的に異なることはあるのか」、そして「オープンさがビジネスとどうつながるのか」だ。本記事では、この2点を探る。
Google Cloud Next 17の3日目の基調講演は、GCPのオープンさを強調するためだけに費やされた。では、具体的に何をオープンだと主張しているのか。まず、Googleのインフラ担当バイスプレジデントであるEric Brewer(エリック・ブリュワー)氏は、次のように話している。
「最終的に、顧客にとって最も大切なのは自由だ。何を意味しているかというと、同一のコードがオンプレミスでもGCPでも、(他を含めた)複数のクラウドでも動くということだ。あなたは自身のコードをオンプレミスで動かすか、クラウドで動かすかを自身で決められる。クラウドに移行したいなら、移行時期や手順を自分で選択できる。そして、クラウドで何か気に入らないことがあったら、去ることができる。自由とは、去る自由を意味する。だが一方で多くの場合、利用する自由をも意味する」
「(GCPにおける)戦略は非常にシンプルだ。私たちはオープンなクラウドであり、高速なイノベーションを重ねていく。あなたたちに(GCPを)去る自由と、使う自由を与える。そして、(こうした姿勢が多くの人に理解してもらえる方に)私は賭けている」
Googleはこの講演で次のようにも表現している。
「『オープンはクラウドにおいて特に重要』だというのは、非常に強力なメッセージだ。(中略)ハイブリッドマルチクラウドは、私たちにとって経過点ではなく、顧客に力を与えるためのゴールだ。顧客はニーズに合ったサービスを選択できる。私たちはあなたたちが知っていて、使っているツールをサポートする。それとともに、Googleしか提供できないようなツールやインフラをあなたたちが活用できるようにしていく」
筆者の持論は、「オープンさとは比較級である」ということと、「オープンさは移行コストに反比例する」ということだ。これに照らして、上述のグーグルの説明を補足すると次のようになる。
パブリッククラウドは、「いつでもやめられる」という点ではほとんどのサービスがオープンだ。だが実際には、顧客の長期利用へのコミットを前提とした料金優遇や、自社の他のサービスを使うことを前提とした付加価値サービス(サーバレスコンピューティングサービスがいい例)、さらには独自の仕組みに基づくサービスなどで、柔らかな囲い込みを図っているケースが多い。
Googleは、顧客が仮想CPUとメモリのリソースを自由に設定して仮想マシンを構成できる(「カスタムマシンタイプ」)ことを、GCPの基本的な特徴として、以前からアピールしてきた。
長期利用についていえば、GCPの「確約利用割引」という事前コミットに基づく割引は、他のメガクラウドの事前コミットに基づく料金割引に似ているようでいて異なる。通常のパターンは、事前コミットに基づく割引を受ける際には、特定の仮想マシンタイプを選択し、これを一定期間利用することを事前に約束する。だがGCPでは、仮想CPUとメモリの利用リソース量をコミットすることになっている。従って、利用者は事前に調達したリソースをさまざまに使い回しができる。
よりユニークなのは「継続利用割引」だ。1カ月の25%以上利用したインスタンスの料金が、利用期間に応じて自動的に割引される。事前コミットに基づく割引に比べればディスカウントレベルは低くとも、顧客は1年後や3年後の利用量を想像し、「賭け」をする必要がない。また、利用している仮想マシンの一部または全部をいつでも自由に停止でき、ペナルティはない。
一方、独自のサービスによる柔らかな囲い込みを回避するという点では、オープンソースソフトウェア/ツールを最大限に推進していくというのがGoogleのスタンスだ。Cloud SpannerおよびBig Queryはオープンソースではないが、ANSI SQLでアクセスできることをうたっている。
だが、オープンソースへの取り組みについては、MicrosoftもMicrosoft Azureでコミュニティとの連携を強める活動を活発化している。Amazon Web Servicesも遅ればせながら、Javaの生みの親として知られるJames Gosling(ジェームズ・ゴスリン)氏を迎え入れるなど、動きを見せつつある。
根本的な違いは、Googleの場合、これまで数々のオープンソースプロジェクトに対し、自ら大量のコントリビューションを行ってきた実績があること。Google社員は、2016年だけでGitHubに、オープンソースプロジェクトに対する29万近くのコミットをしたという。
特にコンテナオーケストレーションのKubernetesと機械学習ライブラリのTensorFlowは、グーグル自体が生み出したものであり、どちらも大きな広がりを見せている。
クラウドネイティブアプリケーションの開発/運用と機械学習/AIが、今後クラウドの2大ユースケースになっていくことを考えると、KubernetesとTensorFlowの存在は重要な意味を持つ。ちなみに前出のBrewer氏は、TensorFlowおよびKubernetesについて、「高速にイノベーションを起こしていくことのできるエコシステムを構築するために、スタートしたプロジェクトだ」と説明している。
Linux FoundationのエグゼクティブディレクターであるJim Zemlin(ジム・ゼムリン)氏も、Google Cloud Next 17における講演で、「Kubernetesは実質的にクラウドのLinuxになりつつある」と話している。一方、機械学習ライブラリについては、コンテナオーケストレーションに比べ、勢いの違いが見えにくい。だがGoogleは、コミュニティ参加者やコントリビューションの数を強調、他のオープンソースライブラリに比べ圧倒的に活発だとしている。
オープンソースソフトウェアは基本的にどこでも動かせる。これは、ユーザーにとってのメリットに直結する。だが、他のクラウドでも動かせるため、GCPにとっての差別化にはつながらない。どこでも動かすことのできるオープンソースソフトウェアをGCPが全面的にサポートしながらも、クラウドサービスとして差別化できるとするなら、そのポイントはどこにあるのか。
機械学習については、Google Cloud Next 17の展示会場で、Google Cloudデベロッパーアドボケイトの佐藤一憲氏が見せていたデモに、ヒントの1つがある。
このデモは、言語認識API、画像認識APIなどを駆使し、菓子の好みを言葉で伝えると、多様な菓子が散らばっている中からロボットアームが選んでとってくれるというもの。GCPのパートナーであるブレインパッドが、ある工場で不良品検出のために導入した仕組みに基づいているという。
機械学習では多くの場合チューニングが必要になるが、その場合でも、顧客はブレインパッドのような企業に面倒な作業を任せられる。また、Cloud ML Engineでは、「ハイパーパラメータチューニング(Hyperparameter Tuning)」という機能を提供しており、他社にソリューションを提供する企業、あるいは自社で機械学習/AIに取り組む人たちの効率を高められるという。
展示ブースでは他にも、おびただしい数の画像から近似画像を瞬時に探し出して表示する(あらかじめラベル付けするのではなく、その場で逐一比較する)デモ、さらにマンハッタンの約500カ所で提供している街中レンタルバイクについて、利用データおよび天候データから、曜日、天候などに応じ、どこでどれくらいの需要が発生するかを予測するシステムを見せていた。
2つのデモでは、瞬時にスケールするデータウェアハウスサービスのBigQueryが、大きな役割を果たしていると佐藤氏は説明する。どちらも機械学習とBigQueryの組み合わせであり、Hadoopを使う場合は、例えば30分程度かかるような計算を5秒程度で行え、さらに、BigQueryはクエリ時に検索したデータ量に基づく課金であるため、Hadoopなどに比べて圧倒的に低いコストで利用できるという。
このように、オープンなソフトウェアを使いながらも、予測分析や機械学習にかかる手間や時間、コストを抑えられるのであれば、ソフトウェアを動かす場所としてGCPが積極的に選ばれる可能性が高まってくる。
TensorFlowについては、2017年5月初めにGoogleが開催した開発者向けイベント、Google I/OでSundar Pichai(スンダ―・ピチャイ)氏が独自プロセッサ「Tensor Processing Unit(TPU)」による処理の高速化について発表、「Cloud TPU」と名付けてこれをGCP上で提供開始した。
Pichai氏はさらに、ニューラルネットをニューラルネットが指揮することでトレーニング/評価プロセスを自動化する「AutoML」について説明、「より良い機械学習モデルの開発は、非常に時間のかかる作業だ。機械学習の専門家を中心とした、少数のエンジニアおよびサイエンティストが苦労を重ねなければならない。これを、数十万人の開発者が扱えるものにしたい」と話した。
GCPで、機械学習/ニューラルネットについて専門知識を十分に持たない一般的なソフトウェア開発者が、これを効率的に活用できるような仕組みがサービスとして提供されるなら、これは重要な差別化要因になる可能性がある。
これらは、前述の「私たちはあなたたちが知っていて、使っているツールをサポートする。それとともに、Googleしか提供できないようなツールやインフラをあなたたちが活用できるようにしていく」というメッセージを実証する、良い例だといえる。
関連してもう1つ興味深いのは、GoogleがGoogle Cloud Next 17に合わせて発表したKaggleの買収だ。Kaggleはプログラマーのためのオープンソースコミュニティに似た「場」を、データサイエンティスト/データエンジニア向けに作り上げてきたからだ。
Kaggleは恒常的に、多様なデータ解析コンテストを開催してきた。また、2016年7月には、多様なデータセットを提供する「open data platform」を開始した。「データのあるところに(データ解析関連の)人が集まる」と言えるのなら、データを活用するのに便利だという理由で、GCPに魅力を感じる人々は出てくるだろう。
他のクラウドプロバイダーでもデータを提供する取り組みは見られる。だが、Googleの場合は、これをオープンソースコミュニティ的な活動としてやろうとしているところに、ユニークさがある。
一方、Kubernetesについては、これを使ったコンテナ基盤サービス「Google Container Engine」を提供している。
一方Googleは、完全にオープンソースソフトウェアだけを取捨選択して組み合わせ、コンポーネントベースでクラウドネイティブアプリケーションのプラットフォームを構築できるようにする取り組みも行っている。Cloud Native Computing Foundationでの活動を通じて、関連ツールをキュレーションし、ユーザーが安心して動かせるような選択肢を増やすことを考えているようだ。
それよりも現時点で興味深いのは、Pivotalとの協力関係だ。GCPではPivotalを2016年の最優秀グローバルテクノロジーパートナーに選んでいる。両社は共通の顧客に対し、協力してサポートに当たっているようだ。Pivotal Cloud FoundryはまずAWSに対応し、次にMicrosoft Azure、そして3大メガクラウドでは最後にGCPへの対応を行った。この順番は、Pivotalの持つ大規模顧客のニーズを反映したものだという。Pivotal関係者によると、Pivotal Cloud Foundryのクラウドプラットフォームへの対応作業は、AWSではPivotalが独自に行い、Azureでは2社が協力して実施、GCPではGoogleが行ったという。
関連して、GoogleはGoogle Cloud Next 17で、大規模システムの運用について、CRE(Customer Reliability Engineering)の活動を拡大する発表をしている。CREとは、グーグル社内で存在してきたSRE(Site Reliability EngineerあるいはSite Reliability Engineering)という職種/活動を、一部の顧客に対して提供するもの。CREでは、拡張性、セキュリティなどの点で、一部の大規模なサービスを提供する顧客のために、サービス設計、実装、運用に関して、Googleの経験から来るベストプラクティスを伝える。無償のサービスだ。Pokemon GoのNianticが使った他、日本でも、CREを活用した顧客があるという。
新たな発表では、RackspaceとPivotalがGoogleを補完する形でサービスを提供する。PivotalはGCP上でのPivotal Cloud Foundryを対象として、サポートを提供している。
他にもGoogleとPivotalは、Service Brokerを通じたGCPサービスのPivotal Cloud Foundryからの利用や、Pivotal Cloud FoundryとKubernetesのライフサイクル管理の統合を目指すKuboプロジェクトを開始している。
Pivotalのプロダクト&ビジネスデベロップメント担当シニアバイスプレジデントであるJames Watters(ジェームズ・ワッターズ)氏は、Google Cloud Next 17に際して、「Google Cloudは真にオープンなクラウド戦略を持っていて、これは非常に大きな差別化要因だ」とツイートしている。
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