オフショア先に発注したプログラムに多数の不具合が見つかった。しかしオフショア側は「金額入りの注文書」を作業完了後に発行したのだから検収完了であり、料金は支払えと言う。国境をまたいだ裁判の行方やいかに――?
IT訴訟事例を例にとり、トラブルの予防策と対処法を解説する本連載。前回は、ベンダーはどこまで業務知識を持つべきかを取り上げた。
今回は「オフショア開発」にまつわる裁判を解説しよう。
ソフトウェア開発を海外のベンダーに発注する「オフショア開発」には、さまざまなリスクが伴う。
言語の壁があって仕様がうまく伝わらない、日本人なら言わなくてもやってくれる異常系の処理などを「仕様書にないから」と実施しない、開発後に不具合を指摘してもなかなか改修に応じてくれない――同様の経験をした読者も多いのではないだろうか。
とはいえ、人件費の差など、オフショア開発にはメリットもある。今後、日本のユーザー企業やベンダーが海外のベンダーとの取引を減らすことは考えにくい。
今回は、オフショア開発を舞台にした裁判を紹介する。オフショアだけに限った話ではないが、日本人とメンタリティや文化が異なる海外のベンダー相手の場合に、多く発生しがちな問題だ。
まずは、判例から事件の概要を見ていただこう。
ソフトウェア開発業者(以下 元請けベンダー)が、ある共済組合から業務系システムの開発を受注し、中国のオフショアベンダーにその一部を再委託した。金額は合計で約1600万円で、このうち一部作業の完成代金として126万円が支払われた。
ところが、オフショアベンダーの成果物には多数の不具合があり、元請けベンダーも技術者を動員して修補に当たったが、結局、不具合は解消しきれず、共済組合は元請けベンダーとの契約を解消した。
元請けベンダーは、結局、オフショアベンダーの成果物は検収に合格しなかったと主張し、残金の支払いを拒否したが、オフショアベンダーは残金の支払いを求めて訴訟を起こした。
少し補足をすると、オフショアベンダーとの契約は8本に分かれていたが、そのいずれについても、作業自体は行われていた。そしてオフショアベンダーの成果物に数多くの不具合はあったものの、元請けベンダーは各作業終了後に注文書を出して支払いの意思を示していた。
ところが、不具合がいつまでも解決しなかったためにユーザー企業から契約を解消された元請けベンダーがオフショアベンダーへ支払いを拒み、オフショア側がこれに納得しなかった、というわけだ。
多数の不具合を残したまま支払いを要求し、「ユーザー企業が契約を解消してもこちらは譲らない」という姿勢は、海外のベンダーならではといえようか。
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