注文書=検収です、お金を払ってください!「訴えてやる!」の前に読む IT訴訟 徹底解説(43)(3/3 ページ)

» 2017年07月14日 05時00分 公開
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日本人は海外ベンダーの考え方を学ぶべき

 こうしたトラブルを防ぐには、正しい時期に注文し、明確な「検収基準」を示すこと。そして、約束が守られないと分かったら、速やかに会社としての「正式なクレーム」を入れ、その「記録」も残しておくことだ。

 しかしこれらを守ってもまだ、オフショア開発には多種多様な問題が発生する。

 瑕疵担保責任の有無にかかわらず、納入後の不具合に対応してくれない場合が多いし、明らかに間違いと分かる仕様書を提示しても、指摘せず間違ったまま作ってくることもある。

 これは、欧米や中国などのベンダーは、契約書に忠実な傾向が強いことによる。

 日本のベンダーが重視するのは「お客さまの成功」である。例えば、ユーザーの提示した要件の誤りが後になって分かったら、多少の無理をしても何とか対応してしまう。これは、(責任はともかく)「ちゃんとしたものを作らなければ、作業をした意味がない」と日本人が考える傾向が強いからと思われる。その間に多少の契約外作業があってもやってしまうことが多い。

 しかし海外のベンダーは、「ユーザーの成功」よりも「契約を全うすること」を大切にする。

 間違っている要件定義書を修正することは契約外の作業だし、「これは間違っているから正しく解釈して開発しよう」などという考えは「契約違反」になると考える。もちろん、全てのオフショアベンダーがそうだというわけではないが、こうした傾向が日本よりも強いことは事実だろう。

 オフショア開発が日本に根付いて長い年月がたつが、いまだにトラブルが多々発生している。日本のベンダーやユーザー企業が知らなければいけない「日本でしか通用しない考え方やルール」は、まだまだ多いようだ。

細川義洋

細川義洋

ITコンサルタント

NECソフトで金融業向け情報システムおよびネットワークシステムの開発・運用に従事した後、日本アイ・ビー・エムでシステム開発・運用の品質向上を中心に、多くのITベンダーおよびITユーザー企業に対するプロセス改善コンサルティング業務を行う。

2007年、世界的にも希少な存在であり、日本国内にも数十名しかいない、IT事件担当の民事調停委員に推薦され着任。現在に至るまで数多くのIT紛争事件の解決に寄与する。


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