一つ考えておきたいことは、元請けベンダーはオフショアベンダーに対して検収合格を「明示的に」出していないという点だ。
オフショア側は「元請けベンダーが各作業の終了後に金額入りの注文書を発行しているのは、事実上オフショアの作業完成を認めた暗黙の検収だ」と主張している。
これに対し元請け側は、「注文は、あくまでオフショア側が不具合解消を含む作業の完成を見込んでのこと」であり、「注文を拒むとエンジニアを引き揚げさせるというオフショア側の脅迫もあってのことだ」と主張した。
裁判所はどんな判断をしたのだろうか。判決の続きを見てみよう。
本件業務につき、オフショアベンダーの作業終了後に、元請けベンダーはオフショアベンダーに対し、作業期間や作業内容、代金額などが記載された注文書を発行して、それまでのオフショアベンダーの業務の履行を受け入れて代金額の提示を行っているといえるし、また、オフショアベンダーによる業務の履行後特にクレームを申し入れた事実もないのであって、こうした事情に鑑みれば、本件業務につきいずれも黙示的に(中略)検査の合格が示されたと評価することができる。
裁判所は、オフショアベンダーの主張を受け入れる判断を下した。「作業後に注文書を発行したこと」「オフショアベンダーの作業にクレームを入れた事実がないこと」は、事実上の「検収合格」だというのだ。
注意したいのは、裁判所が「クレームを申し入れた事実もない」と述べた点だ。私は、現場にいたわけではないが、多数の不具合が解消されない中、元請けベンダーが何も言わずにオフショアベンダーの作業を見ていたとは考えにくい。
ここでいう「クレーム」とは、「会社としての正式な申し入れ」と考えた方がよさそうだ。恐らく元請けベンダーは、そこまでのことを行わなかったか、あるいはそれが確認できる「記録」が残っていなかったということだろう。
元請けベンダーは、共済組合から一銭の代金も受け取れず、オフショアベンダーに多額の費用を支払う羽目になった。
後から客観的に見ればいろいろ論評できるが、当事者になってみれば、作業完了までに書類を発行することはあるし、「不具合の対応くらいやってくれて当然」と考え、わざわざ正式なクレームを入れないことだってあり得る。
そう、決して人ごとではないのだ。
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