今、「システムのマイグレーション」に慎重になるべき理由デジタル変革前夜のSoRインフラ再定義(2)(1/3 ページ)

デジタルトランスフォーメーションの進展に伴い、社内向け/社外向け問わず、各種ITサービスを支えるインフラにも、ニーズの変化に即応できるスピードと柔軟性が求められている。これを受けて、既存システムをより合理的な仕組みに刷新するマイグレーションが企業課題となっているが、なかなかうまくいかないケースが多いようだ。その真因とは何か? ガートナージャパンの亦賀忠明氏に話を聞いた。

» 2017年08月02日 05時00分 公開
[編集部,@IT]

今も稼働し続ける多数のメインフレーム

 ITの力で新たな価値を生み出す「デジタルトランスフォーメーション」が各業種で議論され始めている。特にIoT、人工知能、ブロックチェーン、FinTechに代表されるX-Techなどの新たな考え方やテクノロジーは、既存のビジネスそのものをディスラプト(破壊)するインパクトを持つ。これを受けて、ITサービスを支えるインフラにも一層のアジリティと柔軟性が求められるようになる。このような背景から、従来型のインフラを見直す動きが企業の間で高まりつつある。

 ここで、大きな課題となっているのがSoR(System of Reord)領域のシステム――中でもメインフレームだ。

 世界ではメインフレームといえば、IBMが市場の約80%を占めているが、この出荷は2016年には30%近くも落ち込んだ。そこで、IBMはメインフレームを時代の変化に対応させることで将来も存続させるべく、クラウドとの連携や、機械学習の搭載といった取り組みを急速に強めている。

 一方、日本国内は状況が異なる。日本ではメインフレームそのものの革新は見られないし、議論もほとんどない。ユーザー企業は、今の業務システムを維持し、安定稼働させることに主眼を置いている。国産ベンダーは、メインフレームは今後も減少し続けることは分かっていても、今でもメインフレームを一定の利益が見込まれるビジネスと捉えて現状を継続している。「ユーザー、ベンダー相互の利害が一致する中で、日本のメインフレームは動き続けている」といえるだろう。

 しかしながら、「お客さまが望み続ける限りメインフレームはやめない」といった、これまでの国産ベンダーの一貫した考え方にも変化が現れつつある。例えば2017年5月、日立製作所が自社のメインフレームのハードウェアを、今後はIBMのメインフレームにすることを発表し、事実上、自社開発から撤退することを表明した。今後、富士通、NEC、ユニシスといったメインフレームはどうなるのか、ユーザー企業はこれまで以上に感度を上げておく必要があるだろう。

参考リンク:メインフレームのハードウェアに関するIBMとの協業を強化(日立製作所)

 では現在、具体的な出荷台数はどのような状況なのだろうか? ガートナーの調査によると、世界では2007年に5000台近くの出荷があったが、これは2016年には約2500台と半減している。日本では2007年に約900台であった出荷は、2016年には約300台となったという。すなわち、この10年で世界ではおよそ半減、日本では3分の1にまで出荷が減少している。

ALT 図1 メインフレーム出荷台数の推移。メインフレーム市場は減少し続けている(出典:ガートナー)

 一方、実際に利用しているユーザー数はこれよりも多い。「日本では今でも1000台を超えるメインフレームが稼働している」とガートナーでは見ているという。つまり、多くの企業が少しずつマイグレーションを進めてきたとはいえ、まだまだ多くのメインフレームが稼働し続けているわけだ。その大半は、銀行のシステムを中心とする社会的なサービスを提供するものであり、数は減っているとはいえ、その重要性は極めて高い。

 ガートナー ジャパンの亦賀忠明氏は、この結果について、「今残っているメインフレームは、これまでもマイグレーションの議論はしたが、変えることができなかったものがほとんどです」と解説する。

ALT 亦賀忠明氏 ガートナー ジャパン リサーチ部門 ITインフラストラクチャ バイスプレジデント 兼 最上級アナリスト

 「メインフレームからオープンへ、という議論は10年以上にわたって続けられてきました。実際にチャレンジした企業も多かったのですが、例えば金融業界では要件レベルがセブンナイン(99.99999%)にも達する“絶対に止まってはならない”とされるシステムも存在します。レガシーシステムのマイグレーションでは、メインフレームからオープンシステムへ、さらにクラウドへといったロードマップがよく示されますが、それぞれ期待できる要件レベルは異なります。メインフレームクラスの信頼性や安定性があるシステムを移行するためには、実際には、オープンシステムもクラウドもリスクが高く、単純にできるものではありません」

 だが、「オープンシステムでも基幹系システムを稼働させられる」という意見もある。これについては、「実際は、オープンシステムで期待できる稼働率は99.99%程度です。相当なスキルをもって、時間、お金をかければ99.999%は達成できますが、それ以上はときに綱渡りとなるチャレンジとなります」とコメントする。

 「『安くなるだろう』という声もありますが、オープンでも高い信頼性を担保するためには、それなりのものを使う必要があります。予想をはるかに超えたコストがかかってしまったという事例もよくあります。この想定外のコストはときに数十億円、場合によっては数百億円にもなることがあります。各業務アプリケーションには固有の要件レベルがあり、それらは往々にして高度なものです。急にこうした要件がなくなるわけでもないので、メインフレームから別のものにマイグレーションすることは、どうしても慎重なものとなります」

       1|2|3 次のページへ

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

スポンサーからのお知らせPR

注目のテーマ

Microsoft & Windows最前線2025
AI for エンジニアリング
ローコード/ノーコード セントラル by @IT - ITエンジニアがビジネスの中心で活躍する組織へ
Cloud Native Central by @IT - スケーラブルな能力を組織に
システム開発ノウハウ 【発注ナビ】PR
あなたにおすすめの記事PR

RSSについて

アイティメディアIDについて

メールマガジン登録

@ITのメールマガジンは、 もちろん、すべて無料です。ぜひメールマガジンをご購読ください。