ミッチェル・ハシモト氏に、自動化とクラウド、そして日本について聞いたHashiCorp共同創業者インタビュー(2/2 ページ)

» 2017年09月29日 05時00分 公開
[三木泉@IT]
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KubernetesはHashiCorpにとって敵なのか

――Kubernetesの勢いがこれほどまでになるとは、誰も予想していなかったと思いますし、ハシモトさんもそうだったと思います。今、Kubernetesをどう捉えていますか?

ハシモト氏 インフラおよびアプリケーションのライフサイクル管理とデリバリについて、私たちが必要と考えているコンポーネントでいえば、Kubernetesはこれに当てはまると思います。「インフラの自動化」「セキュリティの自動化」「アプリケーションの自動化」の全てが必要です。Kubernetesはアプリケーションの自動化というカテゴリに属します。それでも、Terraformのようなツールを使って(インフラを自動化し)、Kubernetesが稼働するためのクラスタを立ち上げる必要があります。この点で、役割分担がうまくいっていると考えます。

 スケジューラは、今後5〜10年間のうちに広がっていくべきものと考えています。既存のアプリケーションをパブリッククラウドに移行しただけでは、大したコスト削減になりません。しかし、クラウドは、スケジューリングやダイナミックスケーリングを活用することにより、全く新しい基盤を提供し、これが将来、コスト効率を大幅に高める要因となります。もちろん、デプロイも高速化します。

 そこで、私たちはKubernetesとできる限り統合していこうとしています。HashiConf '17ではVaultに関する連携を発表しました。Terraformでは既に統合を行っていますが、Consulでも統合を進めます。

 NomadはKubernetesと機能が重なる部分がありますが、協力を進めていきます。なぜなら、スケジューリングというもの自体が普及すれば、データセンターのあるべき姿についての私たちの考えが実現に近づくからです。

 私たちがスケジューラ製品だけを提供する企業だったとしたら、Kubernetesをもっと敵視していたでしょう。しかし私たちは他に5つのツールを持っています。ですから、「Kubernetesに勝たなければ」とか、「Kubernetesが私たちを完全に潰してしまう」などとは考えなくてよいのです。

 私たちもKubernetesも、スケジューラを推進しています。Kubernetesに勢いがあるということは、スケジューラに対する人々の理解を深めてくれているとも解釈できます。

――Kubernetesの運用が難しいと言われていることは、進歩を阻害することにつながると考えませんか?

ハシモト氏 確かに私たちは、Kubernetesが複雑だと考えています。Nomadはこれに比べてはるかにシンプルに使えます。単一のバイナリですから。Kubernetesの場合、さまざまな依存性の問題が存在します。とはいえ、Kubernetesは多くの機能を備えています。

 HashiConfで講演したNomadユーザーの大部分も、「複雑さをコントロールしやすいからNomadを選んだ」と言ってくれています。豊富な機能が要求される環境には(Kubernetesを導入し)、そうでもない場合にはNomadを入れることで、Nomadにおけるスケジューリングの高速さというメリットを享受できます。Nomadではスケジュールにより、100万のジョブを数分で配置して使えます。

 Kubernetesは業界の強大な支持を受けています。そのことを重要と考えるユーザー企業なら、そちらを導入するメリットは大きいでしょう。

 私たちは、もちろん全ての用途でNomadを使ってもらえればいいと思っています。しかし、適切な用途で使ってもらえず、期待に沿えない結果になってしまうのなら意味がありません。

 私たちが大切にしている重要な原則は、「自分たちの製品に何ができるかについて、誠実であるべき」というものです。ユーザーが幸せになることが、私たちの幸せにつながります。私たちは6つのソフトウェア製品を持っていますので、「ある製品が気に入らなくても、他の製品を試してもらうことができる」という言い方もできます。

チームの規模にかかわらず、役立つ部分があることが魅力

――「マルチクラウド」の話ですが、小規模な企業では「単一のパブリッククラウドでいい」というところが将来も支配的であり続ける気がしますが、どう考えますか?

ハシモト氏 大企業では、買収などによって複数クラウドの利用に対応しなければならなくなることもあり、マルチクラウド対応は歓迎されています。しかし、小規模な企業の場合、複数のクラウドを利用するメリットはない場合が多いと思います。単一のクラウドを選んで使いこなした方が、生産性を高められると思います。

 私たちのツールは、単一のクラウドしか使わないからといって、生産性が低くなるというものではありません。私たちは、開発者が5人しかいないようなスタートアップ企業から、5000人もいるような企業まで、活用できるソフトウェアを目指しています。

 例えばVaultは非常に複雑な使い方ができます。しかし、スタートアップ企業は、このツールができることの95%を無視して、単純にシークレット情報の保存場所として使うことができます。このようにして使い始めながら、5000人規模になって法規制順守や複数人による承認のプロセスなどが必要になったら、こうした機能を果たすために使えるようになっています。

 私たちは企業のスタンスとして、「最終的にはマルチクラウドに向かう」と考えています。しかし、マルチクラウドに向かうことを促進しようとはしていません。

――チームの大小に関係なく役立てることができるというのが、HashiCorpのツールの魅力ということですよね。

ハシモト氏 そう考えています。製品群全体で幅広いテーマをカバーしていますが、全てを使う必要もありません。「完全なソリューション」を提供したいとは思っていません。6つの製品があるので、開発者が1人であればVagrantだけを使い、10人くらいになったら、「サーバのプロビジョニングにTerraformを活用するのもいいかな」と考え、30人程度になったらセキュリティ管理が面倒なので、Vaultを使うなど、チームの成長とともに製品利用を拡大してもらうことができます。

 エンタープライズ版の販売では、この点が役立っています。開発チームの規模に応じ、顧客の抱えている課題が明確に分かるため、「この規模ならこのツールだけを使ってもらえればいいです。他の製品は無視してください」と言えるからです。

日本の読者に伝えたいこと

――最後に、日本の読者に伝えたいことを教えてください。

ハシモト氏 これまで18カ月に1回程度は日本に来ています。ですが、今回は特別です。HashiCorpのフルタイムの従業員として、日本で5人を雇いました。今回もミートアップを開催しますが、HashiCorp単独でやるのは初めてです。

 これも、私たちが日本におけるプレゼンスを強化する活動の一環です。明確にお話しておきたいのは、私たちが巨大な日本拠点を作りたいとは思っていないということです。本社もまだ、比較的小さな会社ですから。

 現時点では、正式なHashiCorpの社員が日本にいるということが重要です。日本に住み、日本語を話すスタッフが、トレーニングや販売活動について、コミュニティやパートナーを支援します。

 セーフティという観点でも重要です。HashiCorpは今のところうまくいっていますが、最悪のシナリオとして、この会社が消え去ってしまうことを想定しましょう。そうした場合に、顧客やユーザーが戸惑ってしまわないようにしたいと思います。

 オープンソースソフトウェアであるという点では、安心感を提供できます。また、顧客に対しては、何が起こった場合でも、HashiCorpのトレーニングを受けたパートナーが契約を全うできると言えることが重要です。

 私たちは突然現れて、「うちのソフトウェアを買ってください、そうすれば永遠に全てがうまくいきますよ」などと言ったものの、しばらくして消え去るようなことはしたくありません。サステナブルなエコシステムを築き上げたいと思っています。

 私たちは、売り上げを得ることが、コミュニティを前進させるための手段だと考えています。「商業的な成功ができなかったために、オープンソースソフトウェアにおける改善が過去最少だった」などとは言いたくないのです。現実にはその逆ですが、この状態をキープし続けたいと考えています。

 日本は重要です。日本からは100万単位のダウンロードがあります。米国以外では最大の地域の1つです。私たちはまず自分たちの住む国である米国で活動し、次に欧州へ行きました。活動を進めるのが容易だったからです。次に注目したのが日本で、ここにオフィスを作りたいと考えました。ユーザーがいるからです。

――HashiCorpのツールをもっと日本の人たちに分かってもらうために、言いたいことはありませんか?

ハシモト氏 日本だけではありませんが、私たちのツールは、使う人の効率を高めるためにあります。1人が5〜10倍の仕事を、いままでよりも簡単に実行できるようにしたいと考えています。これは全ての製品にいえることです。あなたの仕事がデプロイメントであるか、セキュリティであるか、インフラ担当であるかに関係なく、抽象化とDevOpsを通じて、効率化という最終目標を達成することです。活動をスケールするために人を雇い続けるのではなく、「人々の効率をスケールする」ということが、私たちの製品の中核を成す考え方です。



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