ユーザーが要件を次々と追加、変更したために失敗したプロジェクトの責任は、要件追加をやめなかったユーザーにあるのか、それとも、それをコントロールできなかったベンダーにあるのか……。2017年8月に第二審判決が出た「旭川医大vs.NTT東日本 病院情報管理システム導入頓挫事件」のポイントを、細川義洋氏が解説する。
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またも「ユーザーの要件追加、変更」が原因でプロジェクトが失敗した。
2017年8月31日、札幌高等裁判所で1つの判決が出た。第一審と第二審の判断が正反対になった「旭川医大vs.NTT東日本 病院情報管理システム導入頓挫事件」は、多くのメディアでも取り上げられて話題になっている。
この判決は本連載でも何度も取り上げているプロジェクト管理義務について多くの示唆を与えてくれるものであり、学ぶ点も多い。今回から3回にわたって、事件の概要を振り返り、そこにある知見を掘り起こしていく。
初回は、この裁判のキーワードである「ベンダーのプロジェクト管理義務」が、どのように解釈されて適用されたのかを考察する。
まずは判決文を見ていただこう。
旭川医科大学は、2008年8月に、電子カルテを中核とする病院情報管理システムの刷新を企画し、NTT東日本に開発を依頼した。
しかし、プロジェクトの開始直後から、現場の医師たちによる追加要件が相次ぎ、プロジェクトが混乱した。NTT東日本は、1000近くに上る追加項目のうち、625項目を受け入れた上で、仕様を凍結(もうこれ以上要件の追加、変更は行わないことで合意すること)し、納期も延長することになった。
ところが、仕様凍結後も現場医師らの要望は止まず、さらに171項目の追加項目が寄せられ、NTT東日本は、このうちの136件の項目を受け入れたが、開発はさらに遅延し、結局、旭川医大が期日通りにシステムを納品しなかったことを理由に、契約解除を通告した。
これについてNTT東日本は、「プロジェクトの失敗は旭川医大が要件の追加、変更を繰り返したことが原因だ」と損害賠償を求めたが、旭川医大は「NTT東日本が納期を守らず、テスト段階での品質も悪かった」と反論し裁判になった。
事件の概要は、ひとことで言えば「要件の追加、変更にベンダーが対応しきれなかった」というものだ。第一審から「ベンダーがプロジェクト管理義務を果たしていたのか」が大きな議論となった。
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