企業とフリーランスのエンジニアをつなぎ、フリーランスエンジニアの活躍を支えるPE-BANK代表取締役社長 櫻井多佳子氏に、フリーランスエンジニアを取り巻く状況や、向き/不向きなどを伺った。
櫻井多佳子氏は、フリーエンジニアサポート企業「PE-BANK」の代表取締役という立場ながら、同社が全国各地で開催するイベントは、どんなに小さな規模のものでも自ら足を運んでおり、「社内で1番、全国のエンジニアとつながっている」と言われている人物だ。
そんな櫻井氏に、2017年の総括と2018年の展望、そしてフリーランスという働き方についてお話を伺った。
――2017年は御社にとって、どのような年でしたか?
櫻井氏 2016年ごろから始まった、いわゆるエンジニアの「売り手市場」傾向がより一層強まり、東京のみならず全国的に人手不足の状況が続きました。仕事があれども提案できるエンジニアがいない、という状況を打開するため、いろいろな手段で契約エンジニアの獲得を試みました。しかし、以前と同じ方法が通用しなくなり、試行錯誤を繰り返す。そんな苦戦を強いられた1年でした。
2017年は、ある意味で「エンジニアに対しての営業」に注力した年と言えます。
――「営業」ということは、御社にとってエンジニアも「お客さま」という位置付けになったということでしょうか?
櫻井 いいえ。当社は、もともと「エンジニアもスタッフも共同でやろうね!」という、どちらかといえば「エンジニアは仲間」というスタンスです。一緒にクライアント企業から仕事を受注して、エンジニアの皆さんは開発業務に専念し、当社のスタッフはその他の間接業務を引き受ける――それぞれの役割を分担しながら、案件に取り組んでいます。
しかし、最近はその「仲間」を確保できない。2017年9月に30期がスタートしたばかりですが、30年間フリーランスエンジニア向けの支援事業をしてきて、これほどエンジニアの確保が厳しい時期は、なかったと記憶しています。
景気回復に伴う企業のITへの投資が復活傾向にありますが、かつてはIT業界を志望する若者が多かったのに、現在はそれほどでもない。それも、エンジニア不足の状況を招いている1つの要因かもしれません。
実際の現場は既にそのようなことはないのですが、「IT業界は残業が多い」「エンジニアの仕事は過酷」というイメージを持たれ、「プライベートも充実させたい」という若者たちにIT業界が魅力的に映っていない可能性もあります。
いまだに「エンジニア=35歳定年」説が信じられていて、年齢が高くなると管理職を任され、現場でのモノづくりができなくなると思われているのかもしれません。
――2018年は、どのような展開をお考えですか?
櫻井 恐らく2020年あたりまで、エンジニア不足の状況は変わらないでしょう。地方によっては企業の求人の動きに違いが出始めていますが、東京およびその近郊ではこれまで以上にエンジニア不足が深刻になると思われます。われわれも手をこまねいているわけにはいきません。
――エンジニア確保の具体的な方法は検討されているのでしょうか? 支払い単価を競合よりも上げるとか?
櫻井 エンジニア獲得の競争のためだけに、単価を極端に吊り上げることは考えていません。あくまでも、エンジニアそれぞれのスキルや働きに応じた「適切な」金額を提示していくつもりです。
当社はそもそも、「フリーランスエンジニアが快適に働ける環境を用意しよう」というのがスタートでした。
ですから、フリーランスエンジニアが不安に思うこと、例えば「突然、入院して生活に窮したらどうしよう……」といったような不安を解消するために共済会を創設するなど、さまざまな取り組みをしてきました。共済会では入院中の保証も部分的に行っています。
孤独になりがちなフリーランスエンジニアたちを「つなげる」のも、当社の役割の1つです。先日は某有名テーマパークでエンジニアを集めたイベントを開催し、日本全国から集まったフリーランスエンジニアたちが、情報交換したり交流したりして、大変盛り上がりました。東京と九州のエンジニアが顔を合わせる機会なんて、めったにありませんから。大きな刺激になったと思います。
現代は「SNSがあれば、どこにいる人とでもつながれる」と思われがちですが、じかに会って話をすると、やはり違います。仲間との出会いやふれあいは、「フリーランスで頑張っているのは自分だけじゃない」と、リアルに感じていただけるようです。
こうした当社の良さをエンジニアの皆さんにもっと理解してもらうことが大切。2018年も基本方針は変えず、あくまでも誠実にやっていこうと考えています。
――「案件が増えている」ということは、フリーランスエンジニアにとって、より多くの選択肢の中から自分に合った仕事を「選べる」。さらには、正社員、契約社員、派遣社員、そしてフリーランスといった働き方も「選べる」ようになったといえるでしょうか?
櫻井 エンジニアの働き方が多様化していることは、当社に限らず、世の中としても歓迎すべきことだと思います。
かつてのフリーランスは、「自分の実力でより高収入を得たい」という人たちが多かったように思います。しかし現在は、「育児をしながら働く」「家族の介護のために実家にUターンをして仕事をする」など、「ライフスタイルに合わせて働き方を選ぶ」人も増えています。
一部の企業に限られるかもしれませんが、在宅ワークやテレワークといった試みも行われており、今後はそうした「ワークスタイルも選べる」ようになるかもしれません。
その他にも、企業がオープンスペースを設けて「社員とフリーランスのエンジニアがコラボレーションできる環境を作る」など、新しい取り組みも始まっています。
決まった働き方しか知らないエンジニアたちに「こういう世界がある」と知ってもらえればうれしいですね。
――IPA(独立行政法人 情報処理推進機構)から発行された『IT人材白書』の2016年に初めて「フリーランス」という項目が設けられました。IT業界では、フリーランスという働き方の認識が広まりつつあるように感じます。長年フリーランスエンジニアに向き合ってきた櫻井さんは、どのような人がフリーランスに向いていると思いますか?
櫻井 技術スキルと意欲さえあれば、誰でもフリーランスになれますが、あえて言うなら、自身の仕事に「責任感」を持っている人が向いているといえるでしょう。
フリーランスを「フリー(自由)」と勘違いして、自分勝手に仕事を進めたり、契約を途中で投げ出したりしてしまう人がいます。いや、冗談ではなく本当にいるんですよ(苦笑)。
技術に見合った報酬を得る。そのための仕事を選べる。でも、選んだ仕事のクライアントから「信用」されなければ、そのうち選べなくなります。そのためにも責任感は大切です。
フリーランスになれば、自分のキャリアも選べます。
当社は契約に際して最低2時間は面談をして、経歴や希望を聞くのですが、たまに短い期間の仕事がズラッと職務経歴書に記載されているエンジニアがいます。「どうしたの?」とたずねると、「会社の指示でいろいろな案件に回されて、気付いたらこうなっていました」というのです。こういう人は、フリーランスになった方が仕事を戦略的に選択できますね。
現在、政府の働き方改革の一環として、企業の社員における兼業や副業の普及拡大のガイドライン作成が進められており、大企業では副業を容認するケースも出始めています。そうなると、社員かつフリーランスエンジニアという働き方も選べるようになるかもしれません。今後はフリーランスエンジニアへのハードルが下がっていくのではないでしょうか。
「正社員かフリーランスか」が先にくるのではなく、エンジニアとしてのキャリアプランを考えた上で、多様な働き方の1つの候補としてフリーランスを検討していただくのが良いのかな、と思います。
――ありがとうございました。
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