しょうもないROI算出に時間を使ってはいけない久納と鉾木の「Think Big IT!」〜大きく考えよう〜(4)(3/3 ページ)

» 2018年02月23日 05時00分 公開
[久納信之/鉾木敦司,ServiceNow Japan]
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ROIを求められたら、あなたはどう振る舞うべきか?

 さて、そろそろ当連載の主役である「あなた」を主語にして考えてみよう。あなたは、これからどう振る舞うべきか? 一緒に考えてみたい。

 まず、今回述べたAとBの問題は、ぜひ押さえておいていただきたいと思う。それでもファイナンス部門を筆頭に、「サービスデスクやITサービスマネジメントに関する費用を正当化せよ、ROI算出せよ」と求められる場合は、「ITサービスマネジメントはITサービスを提供するに当たって必須の機能である、サービスの一部でありサービスそのものである。よって、サービス本体と一体化してROIを算出すべきだ」という理論武装をしてもらいたい。ジューサーのメンテは、フレッシュジュース作り、ひいては美容や健康という目的と一体なのだと。

 その際に、SLA策定がキーとなる。明文化されたサービス内容が主張の裏付けとなるのだ。定義・明文化されたサービスとその提供レベル、そして、日々のオペレーション内容やサービスデスクの機能を、サービス本体とひも付けて明確に記述する。そうすれば、ERPサービスのレベルとコストの相関性(正当性)が詳らかになる。SLAの明確な定義と策定の手法は、ITILのフレームワークを参考にしてほしい。例えて言うなら「毎日正午までに100杯のフレッシュジュースを清潔に提供し続ける」ことをコミットするための管理コストを、相関関係と共に明文化するのだ。

 ファイナンス部門から「新規サービスを構築するたびに、毎回毎回ITサービスマネジメントの費用を計上する必要があるのか?」という反ばくを受けた場合、あるいは受けることを回避するためには、ITサービスマネジメントを共通基盤化し、その上で各種サービスへのマネジメント機能を論理インスタンスとしてマルチテナント化させるような柔軟な仕組みもぜひ検討してほしい。

 こうすれば、新規サービス立ち上げ時の追加コスト(限界コスト)を抑制し、かつサービスごとの管理費用を、そのユーザー数やSLAに応じて全体費用から案分するようなコストモデルも実現しやすくなる。1台のジューサーで、午前と午後それぞれにフルーツ派と野菜派にジュースを提供し、それぞれ何杯提供したかに応じて、ジューサーの管理費用を案分課金したって良いのだ。

 もしあなたがIT部門のメンバーだとして、こうした課題に取り組むことが、あなたが技術者としてだけではなくビジネスパーソンとして数段レベルアップすることに貢献できるのではないかともくろんでいる。なぜならこの取り組みは、時代の流れを読む目、時代に即したモデル/フレームワークを選ぶセンス、アーキテクチャとコストモデルを相関させるスキル、ファイナンス部門や業務部門のマネジメントに対してビジネス用語で説得する交渉力と深く関連しているからだ。

 筆者の知っている複数の日系グローバル企業では、ERPサービスに含まれる必須の機能としてサービスデスク設置に取り組んだ。無駄なROIの算出などせずに、ERPの一部として予算取りから設置、オペレーションまで推進しているので、明らかにIT部門としてのスピード・俊敏性が高いレベルにある。それだけではないERPを活用した会社としてもビジネスのスピード感が高い。その一方で、決して無駄に費用を費やしていることもないのだ。あなたは、あなたが属する会社でもこのような貢献を主導できるはずだと思いたい。

 「ビジネスのためのIT」と叫ばれて久しいが、クラウド、モバイル、IoT、AIなど、ITがビジネスに直接的に働きかける機会は、今後ますます増える。そこへ向けて、あなたのヒントになれば幸いだ。熱く語ったら喉が渇いたので、フレッシュフルーツジュースを飲むこととしよう。

著者プロフィール

久納 信之(くのう のぶゆき)

ServiceNow ソリューションコンサルティング本部 エバンジェリスト

米消費財メーカーP&Gにて長年、国内外のシステム構築、導入プロジェクト、ITオペレーションに従事。1999年からはITILを実践し、ITSMの標準化と効率化に取り組む。itSMF Japan設立に参画するとともにITIL書籍集の日本語化に協力。2004年からは日本ヒューレット・パッカード株式会社、その後、日本アイ・ビー・エム株式会社においてITSMコンサルタント、エバンジェリストとして活動後現在に至る。「デジタルビジネスイノベーション=サービスマネジメント!」が標語・座右の銘。EXIN ITILマネージャ認定試験採点を担当。著書として『アポロ13に学ぶITサービスマネジメント』『ITIL実践の鉄則』『ITILv3実装の要点』(全て技術評論社)などがある。

鉾木 敦司(ほこき あつし)

ServiceNow ビジネス推進担当部長

日本ヒューレット・パッカード株式会社に19年間勤務。顧客システム開発プロジェクト、ハードウェア・プリセールス、ソフトウェア・プリセールス、プリセールス・マネージャー、ソフトウェアビジネス開発に従事。2017年より現職。一男三女の父であり、30年後も多くの日本企業が世界中で大活躍する野望実現のため、サービスマネージメント・プラットフォームの重要性啓蒙活動にいそしむ。電気情報通信学会発表論文に『OSS市場と市販製品の動向-市場成熟度が製品シェアに与える影響』がある。


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