ディスラプターに負けたくない久納と鉾木の「Think Big IT!」〜大きく考えよう〜(2)(2/3 ページ)

» 2018年01月26日 05時00分 公開
[久納信之/鉾木敦司,ServiceNow Japan]

テスラが起こした「コトのイノベーション」とは?

 ディスラプターと呼ばれる、既存の企業や、時には業界全体をも破壊する勢いのある新興企業――米国のUberやAmazon、AirBnBなどが例としてよく挙げられるが、最近は身近なところでも規模の大小に関係なく“破壊”とも言える起業が数多くあることに既に気付かれているのではないだろうか?

 彼らの革新的なビジネスを、視点を変えて見てみると実は共通点がある。それは、製品(モノ)だけを売っている存在ではないということだ。彼らは製品やアプリケーション、さまざまなサービスなどを組み合わせて利用者に新たな体験(コト)、すなわちサービスを売っている。そして何よりそれが高い収益を上げている。 

 例えば、電気自動車の急先鋒、テスラ・モーターズを題材に、そのサービスの秀逸性を考えてみたい。テスラ・モーターズは、当初から(ガソリンエンジン車ではなく)バッテリー駆動の電気モーター車を開発。電動自動車特有の静音性や滑らかな加速感を実現し、革新的なドライビングエクスペリエンスを既に製品化している。

 しかし、テスラの革新性は、このモノ(製品)のイノベーションにとどまらない。彼らはコトのイノベーションも同時に成し遂げている。それは自動車メーカーとその車のオーナーとの関係性におけるイノベーションだ。

 実は、この事実は2017年のある出来事をきっかけに、さらに広く世に知られることになった。2017年9月にフロリダ半島にハリケーン“イルマ”が直撃した際に、テスラ社はフロリダ半島内の自社製の車のうち、バッテリー容量の低スペック車(60kwh)に対して、その制限設定を自主的に無償でリモートから解除し、高スペック車(75kwh)にアップグレードしたのだ。このお陰で当該車のオーナーは一度の充電で連続避難できる距離が大幅に伸びた(338km→400km)という。

 もちろんこれは地域限定、期間限定の措置であったのだが、ここで広く詳らかになったことは、テスラ車は、バッテリー容量の低スペック車(60kwh)も高スペック車(75kwh)も、ハードウェア的には同一スペックの車体が製造販売されており、ソフトウェア的設定のみで制限/解除が施されている点だ。なので、この設定を変更しさえすれば即座にその制限値が変わる仕様なのだ。

 従前より、「9000ドルの追加料金を支払えば、即座にバッテリー容量をアップグレードできるサービスを提供していた」とのこと。このサービスを無理やりiPhoneになぞらえると、64GBモデルと128GBモデルのiPhoneが実は同一ハードウェアスペックで、追加料金を支払えば64GBモデルのiOSの制限解除がリモートからなされ、Apple Storeに持ち込む必要もなく、即座に128GBモデルにアップグレードできるという話だ。これは今現在では到底考えられないと思うので、このテスラのアプローチがいかに革新的かご理解いただけると思う。

 バッテリー容量に限らない。例えば、AT車特有のクリープ現象は、当初テスラ車には具備されていなかったが、一部ユーザーからの強い要望で追加実装された。ソフトウェアを更新することで、ある日を境にテスラ車はクリープ現象を起こすようになったのだ。しかし、今現在でも全オーナーがクリープ現象を有効にしているわけではないと聞く。

 整理するとこういうことだ。

 テスラは、車の性能や挙動の制御をソフトウェア化した。そして、そのソフトウェアはリモート配信によって定期的にアップグレードされていく。オーナーは、テスラ車内のダッシュボードに搭載されているGUIディスプレーを通して、その時点で具備されている機能のオン/オフを選択できる。そしてそれは、いつでも変更可能だ。必要に応じて有償アップグレードに対する追加料金を支払うこともあるだろう。

 要約すると、従来の自動車メーカーとその車のオーナーの関係性は、数年に一度の買い替えの時期に、数年に一度フルモデルチェンジされた新車を提案するだけの接点しか持たなかった。これが一般的であった。

 しかしテスラは、オーナーとの接点を既述の仕組みを通じて継続的なものに転換させた。こうして、工場の製造ラインを増やすことなく、オーナー自身にカスタマイズを通じたきめ細かな選択肢を与えた。オーナーに追加予算ができれば、これを即座に取り込む有償アップグレードという受け皿を作り、オーナーが自車に求める期待や、市場が自動車に求める価値が、シーンや時代と共に変化しても、それに追従していくインフラを整えた。この一連の仕組みがサービスとして提供されている。まさにコトのイノベーションだ。

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