企業におけるデジタルトランスフォーメーションでは、変革を「なぜ行うのか」を共有することで求心力が生まれる。米国のCIOが、変革のためのさまざまなコツについて語った。
ガートナーの米国本社発のオフィシャルサイト「Smarter with Gartner」と、ガートナー アナリストらのブログサイト「Gartner Blog Network」から、@IT編集部が独自の視点で“読むべき記事”をピックアップして翻訳。グローバルのITトレンドを先取りし「今、何が起きているのか、起きようとしているのか」を展望する。
デジタルトランスフォーメーションを大規模に実行するには、技術チームは適切なスキルやノウハウを備えていなければならないが、取り組む仕事の目的を共有することも必要になる。
米国の民間非営利健康保険団体Blue Cross Blue Shield AssociationのメンバーであるBlue Cross Blue Shield of Illinois, Montana, New Mexico, Oklahoma and Texasで、シニアバイスプレジデント兼CIOを務めるスティーブ・ベッツ氏は、2017年10月、米国のオーランドで開催されたGartner Symposium/ITxpo 2017で「CIOストーリー」と題したプレゼンテーションを行い、「技術イノベーションを管理し、新しいコラボレーション方法を推進する上では、従業員がデジタルトランスフォーメーションを『なぜ行うのか』を理解することが重要だ」と語った。
ベッツ氏は、デジタルトランスフォーメーションの取り組みで学んだ教訓を述べる中で、こうアドバイスした。
「移行を進める過程でも、常に結果を出さなければならないことに変わりはない。変革を担うチームを率いるときには、ITリーダーはさまざまな移行プロジェクトをバランス良く進めるとともに、ビジネス部門に約束した成果を達成し続けなければならない」
求められる成果は企業や組織によって異なるが、ベッツ氏の場合は、自社のメンバーに新しいヘルスケアソリューションを提供することだ。
現在のポストに就いて間もなく、ベッツ氏は自社のIT部門がどのように機能しているのかを把握するために、IT部門とその現状を理解しようと努めた。すぐに分かったのは、自社の業務を支えてきたコアシステムが柔軟性を失い、急速に変化する医療業界の要求に十分に対応できなくなっていたことだ。
さらにベッツ氏は、自社の組織における階層構造がイノベーションを妨げ、職員のIT活用の効果を限定していることに気付いた。社内の現状をより深く可視化するため、同氏は関係マッピングソフトウェアを使い、職員がどのように協力して業務を行っているかを調べた。このツールは、部門内および部門間で最も強力な関係を構築している職員を特定した相関図を生成した。そのおかげでベッツ氏はこれらの職員と連携し、自社の未来を築く試みができた。こうした部門内や部門間の関係の把握は、ベッツ氏が変革の道のりを考える上で重要だった。
ベッツ氏が見いだした最大の課題の1つは、適切な人材を確保し、大規模なトランスフォーメーションを実現することだった。ベッツ氏は、人材採用が必要な職務や外部から新たに採用された人材、全く新しい職務がいずれも多かったことから「トランスフォーメーションを成功させるには、IT部門と人事部門が緊密なパートナーシップを組む必要があった」と説明した。さらに、「IT部門が人事部門と協力し、移行を支える人事部門の力を補うことが重要だった」と強調した。
ほとんどの企業がミッションステートメントを持っているが、ベッツ氏とそのチームにとっては、ミッションは日々の業務に浸透している。職員は「青い血を流す(bleed blue)」、つまり、Blue Cross Blue Shield Associationに属する同社が掲げる「病気のときも健康なときも保険加入者を支える」というミッションを体現しているという。「このミッションは決してお題目ではなく、われわれの仕事の核だ」(ベッツ氏)
目的の確認と共有から出発することで、職員の共感を呼ぶ形でトランスフォーメーションを進められる。「われわれIT部門には、そうした目的の求心力を技術によって生かし、変革につなげる責任がある」とベッツ氏は付け加えた。
ベッツ氏は「目指す変革の内容を大胆なステートメント(宣言文)として表現するとよい。それが広く注目されて職場に変革の機運が生まれれば、そのステートメントが社員にとって進むべき明確な道しるべとなる」と述べた。
また同氏は、自社の職員が仕事を行う場所や方法を見直し、総面積14万平方フィート(約1万3000平方メートル=約3900坪)の新しい共同作業用デジタルラボスペースを設置したという。このスペースはモダンなITツールを提供し、パーティションで小さく区切られた作業ブース群に代えて、デスクの島が幾つも配置されている。職員が顔を合わせ、アイデアを共有しやすい“たまり場”的なスペースを作る狙いだった。
このデジタルラボスペースは、当初こそ職員が及び腰であまり利用されなかったが、見る見るうちに人気が出て、この新スペースの利用を認められた職員の80%が「このスペースはコラボレーションを向上させる」という見方で一致するようになった。職員は時間とともに、新スペースでチーム作業に前向きかつスムーズに取り組めるようになった。
「このスペースに足を踏み入れると、自分にスイッチが入るわけだ」(ベッツ氏)
デジタルトランスフォーメーションに着手して間もなく、ベッツ氏はある日曜の午後にスマートフォンを使って、幾つか自分の銀行の用事を足し、買い物をし、請求の支払いを行った。だが、自社のアプリを使っていて、改良の必要があることに気付いた。そこで直ちにIT部門に電子メールを送り、後日ミーティングを行った。ミーティングではアプリの問題を検討し、アップデートの計画を立てた。
エクストリームプログラミング(XP)の開発手法を利用した重点的なアプローチにより、IT部門は変更の実装期間を14カ月から14週間に、さらには14日間に短縮した。トランスフォーメーションの初期段階におけるこの成功例は、仕事のやり方を変えることで、保険加入者にプラスの影響を与えられることの証明となり、会社全体でトランスフォーメーションへの意欲が高まった。それ以来、新しい仕事のやり方によって組織としての俊敏性を根本的に向上させるとともに、保険加入者のニーズに対応するという目的を一貫して追求してきた。
ベッツ氏は、「デジタルトランスフォーメーションは“始まりの終わり”を迎えている。小さな成功を積み重ね、取り組みに弾みをつけてここまで来た」と説明した。だが、道のりはまだ終わっていないと同氏は語った。
「こうしたトランスフォーメーションを進めていくには、粘り強さが欠かせない」
出典:Transforming IT with a Purpose(Smarter with Gartner)
Marketing Communications Analyst
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