イマーシブ・テクノロジー(没入型技術)の未来を開くエッジコンピューティングGartner Insights Pickup(53)

「拡張現実(AR)」「仮想現実(VR)」「複合現実(MR)」といった没入型技術が、AIの進化を追い風に実用化を目指している。だが、これらの技術を本格的に活用できるためには、エッジコンピューティングが必要になってくる。

» 2018年03月23日 05時00分 公開
[Christy Pettey, Gartner]

ガートナーの米国本社発のオフィシャルサイト「Smarter with Gartner」と、ガートナー アナリストらのブログサイト「Gartner Blog Network」から、@IT編集部が独自の視点で“読むべき記事”をピックアップして翻訳。グローバルのITトレンドを先取りし「今、何が起きているのか、起きようとしているのか」を展望する。

 企業では今後5年間に、「拡張現実(AR)」「仮想現実(VR)」「複合現実(MR、混合現実とも呼ばれる)」といった没入型技術の導入が、より現実的な選択肢になりそうだ。だが、こうした技術の導入が進むには、ベンダーがより多くの人工知能(AI)機能をクラウドからエッジに移す方法を見いだす必要がある。

 没入型技術に関する議論の根本的なポイントは、この技術がAIに支えられているということだ。Gartnerの主席リサーチアナリストを務めるトゥオン・ニューエン氏はこう語る。「企業は、没入型技術とAIが互いに恩恵を受けていることを念頭に置く必要がある。AIの進歩とともに、没入型技術も進歩し、逆もまたしかりである」

没入型技術を支えるディープラーニング

 ここ数年、AIと機械学習技術はかつてない発展を遂げている。中でも、最も重要な進歩が見られるのがディープラーニングだ。機械学習の手法の1つであるディープラーニングは急速に進化しており、今日の企業が関心を持つAIの発展の大きな原動力となっている。

 ディープラーニングシステムは、膨大なデータセット、相互接続された多数の大規模な計算レイヤー、コンピュートおよびデータ集約型の探索、数値最適化技術を利用して“訓練”される。その結果として得られるディープニューラルネットワークは、自然言語処理やコンピュータビジョン、音声認識において、従来のアプローチを大幅に上回る成果を実現できる。そして実際にそれらを達成している。

 ディープラーニングは、さまざまなサービスの提供に利用できる。その中には、リアルタイム翻訳の音声の解釈、合成、模倣サービスや、書かれたテキストや会話における文脈や心情の解釈サービス、オブジェクト(物体)、動き、感情の認識を目的とした実世界の画像や動画の分析サービスなどが含まれる。

 「没入型技術は直感的、かつ自然に使えるように作られている」とニューエン氏は説明する。同氏はその一例として、家具の組み立てを支援するAIアシスタント搭載のヘッドマウントディスプレイ(HMT)を挙げる。「ユーザーの両手は部品やツールでふさがっているため、テキスト入力やスワイプ、ジェスチャー操作を行う余地はない。そこでユーザーは、アシスタントに『今持っている部品は何?』『次の手順は?』『これはどこに取り付ける?』と尋ねる。アシスタントは質問だけでなく、コンテキストも理解する。そして、音声かディスプレイ上のテキストや画像でユーザーに答えを返す」

ハイプ(誇大宣伝)を避ける

 一方、ニューエン氏はこう指摘する。「ベンダーは、今後数年間の製品について過大な約束をしないことが重要だ。2018年にはAIも没入型技術も進化するだろうが、市場には、AIと没入型技術を誇大宣伝してきた罪がある。その過ちを繰り返すことなく、没入型技術は、いわばまだ青年期の技術だと考えるべきだ。まだ青年期だが、才能と長所がたくさんある技術なのだ」

 さらに、覚えておくべき注意点がもう1つある。AIも没入型技術も、まだ企業で広く導入されるには至っていないことだ。Gartnerの最近の調査では、企業の59%は、AIについてまだ情報を集めている段階であることが分かった。「2018 Gartner CIO Agenda」調査でも、回答者の37%が「AR/VRにアンテナを張っているが、これらに関する具体的な行動計画はない」と答えている。

AIをエッジに

 没入型技術には演算パワーが必要だが、企業は完全に処理をクラウドに任せられない。クラウドへのアップロードとダウンロードに時間がかかり過ぎるからだ。「自動運転車がハイウェイで無線接続を失ったら」と想像すれば、没入型技術に基づくデバイスにはローカルなコンピューティングパワーが必要だとすぐ分かる。

 こうしたシステムは「エッジコンピューティング」と呼ばれ、データソースに近いネットワークのエッジでデータ処理を行う。「エッジコンピューティングは高速、広帯域、低レイテンシを必要とするアプリケーションのデータを、収集、解釈するのに不可欠になると予想できる」(ニューエン氏)

 過去のデスクトップPCに逆戻りするように聞こえるかもしれないが、そうではない。エッジデバイスは、AIのためのポータブルデータセンターに最適な速度で動作する。企業はエッジコンピューティング分野に関心を示しており、この分野は数十億ドル規模の市場になる可能性がある。

 「デジタル領域の拡大が続く中、没入型技術の市場が立ち上がるのは自然な流れだ。5年後には、この技術は本格的な実用化を迎えるだろう」(ニューエン氏)

出典:Immersive Technologies Are Moving Closer to the Edge of Artificial Intelligence(Smarter with Gartner)

筆者  Christy Pettey

Director, Public Relations


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