「SD-WANは消え去る」という人がいるが、そんなことはない。「SD-WANニーズは今後もますます高まる」と、確実に言える。理由はシンプルだ。硬直的なWAN運用は、ますます機動性と効率が求められる企業のビジネスに合わなくなってきているからだ。
「SD-WANは消え去る」という人がいるが、そんなことはない。「SD-WANニーズは今後もますます高まる」と、確実に言える。理由はシンプルだ。硬直的なWAN運用は、ますます機動性と効率が求められる企業のビジネスに合わなくなってきているからだ。
SD-WANの世界では2017年、Viptela、VeloCloudの主要スタートアップ企業2社が買収された。一方、日本国内では、通信事業者および関連企業によるSD-WANサービスの発表が相次ぎ、提供形態が多様化している。現在の状況は、「SD-WAN」という言葉が知られ始めたころと比較すれば、明らかに異なる。だが、「ユーザー組織にとってはメリットが分かりやすくなってきた」ともいえる。本記事では、こうしたSD-WANの「今」についてお届けする。
SD-WANの世界の変化を象徴する動きの1つが、VMwareによるVeloCloudの買収だ。
VMwareは2017年11月、VeloCloudの買収を発表した。これについて、以前Nicira Networksに所属し、現在はVMwareのバイスプレジデント兼アジア太平洋地域CTO(最高技術責任者)を務めるブルース・デイヴィ(Bruce Davie)氏に「VMware NSXでWANもカバーしようとしてきたのではないか、なぜSD-WAN専業ベンダーを買収したのか」聞くと、同氏は「VMware NSXでもできたが、時間を買ったのだと思う」と答えた。
一方、VeloCloudの買収は、VMwareにおける通信事業者向け製品・サービスの充実という側面がある。これについては、買収発表当時の記事で指摘した。以前Nicira Networks、VMwareのネットワーク部門でトップを務め、現在はベンチャーキャピタルAndreessen Horowitzのジェネラルパートナーであるマーティン・カサド(Martin Casado)氏に2017年末インタビューした際、同氏もこの見方に同意しながら、「(逆に)VMwareはこれまで、通信事業者向けビジネスに強くなかった。VeloCloudの今後の成否は、これをどう補えるかに左右される」と話した。
VMwareが、SDN技術であるVMware NSXと、VeloCloudの製品・サービスを、どう役割分担させるのかは明確になっていない。もちろん、「NSXによる仮想ネットワークをWAN経由で延長するためにVeloCloudを併用する」というのは、分かりやすい用途の1つだ。だが、それだけだろうか。
VMwareは、SD-WANにおける多様な利用モデルをカバーするため、選択肢を広げていきたいのではないだろうか。例えばIoTエッジデバイスのネットワークセキュリティを考えた場合、単一の技術で多様なIoTニーズに対応しきれるとは言いにくい。
本記事の冒頭で、「ユーザー組織にとってはメリットが分かりやすくなってきた」と書いた。だが、「逆にSD-WAN製品・サービスの機能や提供形態が多様化してきたため、分かりにくくなってきたのではないか」と感じている読者もいるだろう。いや、分かりにくくはなっていない。理由は次の通りだ。
SD-WAN製品が分かりにくくなってきたと感じる人は、おそらく機能の〇×表を作成し、「最も多くの〇がつく製品・サービス」を選ぼうとしている。だが、SD-WAN製品・サービスを画一的な評価軸で比較することはできない。WANに関する悩みは、ユーザー組織ごとに異なるからだ。
言い換えると次のようになる。SD-WANは、「WANを見直す」きっかけと考えたい。自社のWANをあらためて見直してみて、現在のままでいいと考えるなら、SD-WAN製品・サービスを導入する必要はない。何か課題があるなら、これを最も効果的に解決してくれるような特徴を持つ製品・サービスを選べばいい。
SD-WANは、ユーザーの視点からいえば、主に次の3つの形態で提供されるようになってきた。
その上で、SD-WAN製品・サービスが解決を目指す課題を網羅的に並べると、次のようになる。もちろん、全てのSD-WAN製品・サービスが、下記の全てを解決あるいは改善できるわけではない。提供形態および各製品・サービスの力点によって、できることとできないことがある。下記は、自社のWANに課題があるかどうか、SD-WAN製品を考えてみる価値があるかどうかを確認するためのチェックリストとしてお考えいただきたい。
まとめると、WANの見直しにおける最大のポイントは、「自社のWANが、時代遅れになっていないか」、あるいは「ビジネスの邪魔になっていないか」ということにある。
企業におけるWAN利用は、過去10年あまりで大きく変化した。その象徴的な存在はOffice 365だ。企業が全面的に採用するのであれば、全拠点の全社員がOffice 365を利用することになる。その時に、従来のようなWAN構成でいいのか。これが、WANを見直す出発点の1つになる。
もう1つ付け加えるなら、WANだろうが何だろうが、柔軟性のないITインフラは、今後のITとビジネスが融合する時代についていけない。だから、大まかにいえば、今後ビジネス上どのような変化が起こったとしても、機動的に対応できる柔軟なWAN運用の仕組みを構築したいかどうかが、SD-WAN検討の究極的な分水嶺となる。
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