等身大のNutanix、同社プレジデントが「AWSのおかげ」と話す理由サディーシュ・ネア氏に聞いた

Nutanixが現在掲げる「エンタープライズクラウド」という言葉は分かりやすいとはいえない。そこで「等身大のNutanix」を理解するため、同社プレジデントのサディーシュ・ネア氏にさまざまな疑問をぶつけてみた。

» 2018年04月05日 05時00分 公開
[三木泉@IT]

 Nutanixは、ハイパーコンバージドインフラ(HCI)ベンダーとして生まれたが、その後「エンタープライズクラウド」に注力するようになった。これは表面的に理解するだけなら分かりやすい。

 だが、Nutanixが今後どういう顧客に、何をどう提供していくのかを考えると、分かりにくい部分が出てくる。ベンダー的視点で言い換えれば、具体的には既存のどのような市場を攻略し、あるいはどのような新しい市場を切り開こうとしているのかが把握しにくい。「エンタープライズクラウド」という言葉が曖昧(あいまい)だからだ。

 そこで2018年1月下旬、同社プレジデントのサディーシュ・ネア(Sudheesh Nair)氏にインタビューし、数々の突っ込んだ質問をしてみた。以下ではこの内容を集約してお届けする。

ソフトウェアベンダーへの移行は分かりやすいが……

Nutanixプレジデントのサディーシュ・ネア氏

 筆者はいい加減に、「Nutanixには分かりにくい部分がある」と言っているわけではない。HCIという、ハードウェア/ソフトウェア一体型のアプライアンスを提供する企業から、比較的短い年月のうちに、ソフトウェアベンダーへと変身しようとしている。この部分は、同社が行動で示しているので分かりやすい。

 Nutanixは今でも、ハードウェア/ソフトウェア一体型の製品を販売している。だが、2018年2月より、同社は営業担当者に、ハードウェアの販売でインセンティブを与えることをやめた。これにより、営業担当者はNutanixのハードウェアを売らなくてはならない理由がなくなり、同社のソフトウェアを他のサーバベンダーのハードウェアと組み合わせた販売が促進される。

 自社のハードウェアの販売を完全にやめるわけではない理由については、Nutanix CEOのディーラジ・パンディ氏が以前、筆者に「ハードウェアとソフトウェアが最終的に1社でサポートされることを望む顧客がいるからだ」と説明していた。その一方で、純粋なソフトウェアベンダーへの移行をなるべく円滑にしたいからだと考えても、間違いはないだろう。

 NutanixのHCIアプライアンスは、当初からシンプルなサーバを使っており、ハードウェアで差別化しようという意図がもともと同社にないことは明らかだ。ソフトウェアベンダー化により、ハードウェア製品に縛られることなく、自社のソフトウェアの価値をより広く提供できるようにするのは、自然な流れだといえる。

Nutanixは既存ストレージベンダーと戦おうとしているのか

 では何が分かりにくいか。例えばストレージだ。

 HCIにおけるストレージ機能は、同一HCIクラスタで実行される仮想化環境の仮想マシンを支えるものというのが基本的な役割だ。だが、Nutanixは段階的にストレージ機能を拡充してきている。ブロックストレージ、ファイルストレージ、オブジェクトストレージのアクセスプロトコルへの対応を進めることで、事実上、HCI外の多様なサーバやアプリケーションからもNutanixのインフラにアクセスできるようにしている。つまり、従来のストレージ製品と基本的には同じことができるようにしようとしている。

 では、これは既存ストレージ製品と対抗し、この市場からパイを奪うことを目的としているのだろうか。ユーザー視点で言えば、既存ストレージと比較・検討すべきものなのだろうか。

 この質問に対し、ネア氏は「安価な既存製品の代替選択肢を提供するつもりではない。クラウド的なIT消費を実現することが目的だ。例えばパブリッククラウドでは、ストレージサービスをあまり意識的することなく、サーバと組み合わせて使える。これと同じで、多様なアプリケーションで、ユーザーがストレージをサーバと共に、自然に使えることを目指している」と答えた。

 言外の意味としては、パブリッククラウドにおけるストレージサービスが既存ストレージ製品と逐一機能を比較した上で導入するものでないのと同様、Nutanixソフトウェアのストレージ機能も、既存ストレージの評価軸で考えるものではないということがある。

 ネア氏は、ストレージ機能に限らず、Nutanixが自社ソフトウェアで提供する全ての機能が、クラウド的なIT消費を実現するためにあると話す。これでもまだ曖昧だが、同氏は次のように説明する。

 「米国企業の間では、社内データセンターを外部企業に買ってもらい、逆にサービスとして提供してもらいたいというニーズが根強い。資産を経費化できるからだ。AccentureやCap Geminiなど、多数のシステムインテグレーターがこうしたサービスを行っている。例えば(石油関連企業)Chevronは、ベイエリアのデータセンターを、最近Microsoftに売却した。これはクラウド的なIT消費の一種だといえる。日本でも同様なことは起こっているだろう。一方、SalesforceをはじめとするSaaSは、日本でも人気がある。企業は、特にSaaSを通じて、『クラウド』というものを経験し、味わっている。こうして、自社のITを残すところなくクラウド化したいという渇望が、多数の企業に広がってきた」(ネア氏)

 「そこで、次に課題として浮上するのは、社内の(既存)アプリケーションをどうするかということだ。例えば金融機関では、メインフレームを含めて2000〜5000のアプリケーションがある。これを全てクラウド化したいと考える。しかし、パブリッククラウドに移行できないアプリケーションが多数ある。やりたいのにできないわけだ。私たちのソフトウェアは、こうしたアプリケーションをクラウド化できる。ここにNutanixの価値がある」(ネア氏)

 つまり、ネア氏が主張したいのは、「Nutanixは、既存アプリケーションを(オンプレミスおよびオフプレミスでの)クラウド的な消費形態に移行し、利用するための基盤として価値を発揮する」ということだ。

 「もし、Amazon Web Services(以下、AWS)がいなかったら、Nutanixは現在のような成功を収めることはなかっただろう。AWSは企業に、『これまでとは異なるITの消費形態やユーザー体験がある』ということを伝えてきた。このおかげで、Nutanixのような存在が求められるようになってきた」(ネア氏)

 Nutanixの「エンタープライズクラウド」へのシフトには、上記のような市場における変化に加え、競合他社との関係の変化、そして自社内の変化が関係しているという。

 競合他社との関連では、まずマインドシェア、次にマーケットシェアを獲得してきたが、今後テーマとなってくるのは「ウォレットシェア(各ユーザー組織の予算に対するシェア)」だという。

 「既存ITベンダーは当初、ユーザー組織に対し、『Nutanixは中小企業やデスクトップ仮想化だけのための存在であり、真剣に検討するに値しない』と言いふらしていた。ところが2年近く前から、主要企業は態度を変え、『NutanixはHCIにおけるマーケットリーダーだ。だが、私たちにも製品がある。そして、ネットワークやセキュリティなど、HCI以外の要素も必要だ、当社が持っている他の製品を含めて、より投資対効果に優れたソリューションを提供できる』と言うようになった。これはNutanixにとって大きな変化だ」

 HCIは、マインドシェアの戦いとマーケットシェアの戦いを経て、ウォレットシェアを巡る総合力の戦いに突入しつつあるのだという。今後競合他社との関係では、Nutanixが技術に優れた企業ということを示し続けるだけでなく、あらゆるアプリケーションに対応し、総合的に自らの価値を示していかなければならないと、ネア氏は話す。これにはパートナーとの関係も含まれる。例えばAccentureのような、データセンターの運用代行を行う企業が、Nutanixを積極的に採用してくれることが重要だとする。

 第3の、自社における変化については、次のように説明する。

 「技術的には、上流への取り組みを進めてきた。HCIから仮想化に歩を進め(ここではNutanixのハイパーバイザー「AHV」を意味している)、運用、自動化、そしてマルチクラウドなどに力を入れてきている」(ネア氏)

 ネア氏が強調するもう1つの大きな変化は、本記事の冒頭でも触れたハードウェアとソフトウェアの分離による、水平方向への拡大だ。

 「リセラーは、例えばNutanixのソフトウェアにCisco Systemsのサーバを組み合わせ、さらにCitrix Systemsのデスクトップ仮想化を加えて顧客に提案できるようになった。これは、先ほど話した総合力の戦いにも欠かせない。Accentureが例えばCisco Systemsと、サーバに関する優先的な供給契約を結んでいると仮定すると、Accentureは当然、何をするにもCiscoのサーバを使うことをまず考えるからだ」

「安いNetApp、Dell EMC」では勝てるわけがない

 既述のブロック/ファイル/オブジェクトストレージプロトコルへの対応というトピックに戻って、ネア氏は次のように説明した。

 「NetAppやDell EMCの既存顧客を狙うためにやっているわけではない。『あらゆるアプリケーションでクラウド型消費を実現する』ということこそがカギだ。私たちが顧客に、『当社のストレージ機能はNetAppやDell EMCより安いです』と訴えたところで勝てるわけはない。私たちが勝てる可能性は1つ、クラウド的な利用体験を提供することだ。アプリケーションからストレージをシームレスに利用できる、クラウド的な使い勝手を、ユーザー組織は喉から手が出るほど欲しがっている。私たちは、ストレージだけでなく、AHVや運用ツールなど全ての側面で、一般的な企業が既存システムを含めたあらゆるアプリケーションを、クラウド的な考え方に基づき、安心してシンプルに動かせるようなプラットフォームを提供していく」(ネア氏)

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