本連載では、ツールによる可視化を通じ、WANの世界を垣間見てみます。今回は、Office 365のWAN通信を可視化してみます。また、VoIPのトラブル対応についても考えます。
MicrosoftはOffice 365で、各国のデータ保護に関する法規制順守の観点から、ユーザー組織の本社所在地によってデータの保管拠点を変えています(MicrosoftのこのWebページで、本社の所在地とデータの保管拠点の関係が確認できます)。
日本に本社を持つ企業の場合、本記事執筆時点では、「Exchange Online」「OneDrive for Business}「SharePoint Online」「Skype for Business」といった主要サービスについては、大阪と東京(埼玉)にデータを保管しているとしています。一方、「Microsoft Team」「Yammer」など、日本にデータを保管していないサービスも見られます。
このため、日本にしか拠点がない日本企業は、データの保管場所(=アクセス先サーバ)がパフォーマンス上の問題を引き起こすことを考えにくいかもしれません。しかし、世界各国に拠点があり、統合的なデータ管理を行う場合は話が少々違ってきます。
下の図は、本連載に協力してもらっている米国企業、ThousandEyesの、ある日時におけるSharePoint Onlineへのアクセス状況を可視化したものです。データの保管場所は米国であることから、世界各国から米国の単一(仮想)IPアドレスのサーバ群にアクセスしています。
このこと自体が、Office 365へのアクセスのパフォーマンスに、直ちに大きな影響を与えているでしょうか? そうではないことが、同じ図から理解できます。
例えば、ロンドンやパリからのアクセスパケットは、ロンドンのエッジノードから、Microsoftの世界をカバーするプライベートネットワークに入って、米国のサーバに到達しています。東京からのアクセスも、インターネットを経由するものの、東京でMicrosoftのプライベート網に入っています。
すなわち、インターネットを経由する部分を少なくすることによって、遠く離れた他国に存在するサーバとデータのやり取りをすることを原因としたパフォーマンス低下や遅延を回避するようになっています。
実際、この図に示した日時で、100msを超える転送遅延が発生している地点はありません。
一方、問題が皆無というわけではないことも分かります。図には赤い円が4つ見られます。これらを見てみると、Microsoftのプライベートネットワーク内に存在する複数の転送ノードで、一部パケットロスが発生しています。ただし、このケースではいずれも、大きな問題にはつながっていません。
では、次にSkypeも関係のあるVoIP(Voice over IP)通話の品質低下と、その原因と考えられる事象を、可視化によって確認してみましょう。
音声通信の品質は、MOS値(Mean Opinion Score)で表現できます。MOSは元来、人間の主観的な評価によって決められますが、機械によって自動的に測定するツールも存在します。
下の図の上半分では、ThousandEyesのテストエンドポイントでRTP通信のテストを実施し、自動測定したMOS値の平均を時系列的に表示しています。1で示した箇所では、この平均MOS値が瞬間的に低下しています。
図の下半分では、MOS値の平均が低下した時刻における通信経路の状況を見ています。あるルータでパケットロスが生じ、3拠点のVoIPに影響を与えていることが分かります。
IP電話やIPビデオ会議などにおける音声通信の悩ましい点は、ネットワークの状況に品質が影響されやすく、エンドユーザーにも気付きやすいことにあります。何らかのツールを使って自動的にテストを実施し、その結果を後から振り返れるようになっていれば、契約通信サービスを変更するなどの恒常的な効果をもたらす対策が、どこで必要かが判断しやすくなります。
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