ソースコードを下さるなんて、社長さんたらお人よしね――「コンサルは見た!」シリーズ、Season3(全9回)のスタートです。
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「コンサルは見た!」とは
連載「コンサルは見た!」は、仮想ストーリーを通じて実際にあった事件・事故のポイントを分かりやすく説く『システムを「外注」するときに読む本』(細川義洋著、ダイヤモンド社)の筆者が@IT用に書き下ろした、Web限定オリジナルストーリーです。
「わが社のソフトを採用しないとは、どういうことですか?」
「ジェイソフトウェア」の三浦大樹は、額を汗が流れ落ちるのを感じた。目の前に座る自分の娘と変わらない年頃の女は、澄ました顔のまま言いようのない威圧感を三浦に与えている。
「言葉通りですわ。わが社の次世代カーナビ『バルサII』のアプリケーション開発は、自社で行います。従って、今後御社にお手伝いいただくことはございません」
女の声には抑揚というものがほとんどなかった。
女の名は木村美智子。カーナビゲーションシステムで国内シェア70%を誇る「プレミア電子」のシステム企画部長だ。
「ちょ、ちょっと待ってください。約束が違う」
三浦の声が高くなった。
「約束?」
木村が首を傾げる。
「とぼけないでください。御社とわが社の間の基本契約で、『御社が開発するカーナビゲーションシステム“バルサI”のアプリケーションに、わが社のカーナビ用ソフト『ボカ』を最低5年間採用し続ける。その代わり、わが社は御社に“ボカ”のソースコードを全て提供する』と約束したじゃないですか!!!」
「確かに(ニヤリ)。ソースコードまで提供していただけので、わが社は主要製品『バルサI』に、ボカを自分たちなりにカスタマイズして載せられました。しかしそれは、あくまで旧世代のバルサの話です。新製品『バルサII』は別のカーナビ製品ですから、基本契約の範疇(はんちゅう)外でございましょう?」
「そ、そんな……。じゃ、じゃあわが社は、これからどうすればいいんですか。われわれは御社がボカをずっと採用していただけると見込んで、他の仕事をほとんど断ってバルサ向け製品改造に取り組んできたんですよ!」
「それはお気の毒に。でも、私どもには関係のないお話ですわねえ」
木村は涼しい顔で、そう言い放った。
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