B2C、B2B問わず、ITサービスがビジネスに不可欠な存在となった近年、UXデザインに対する企業や社会の認識は一層深まっている。にもかかわらず、「使いにくいサービス」が減らない原因とは何か?――今回は、一般的に「ユーザー調査法」と呼ばれる各種手法の使い分け方を紹介する。
「もう迷わない! ビジネスを成長させるUXデザイン手法の使い方」連載一覧
今回は、一般的に「ユーザー調査法」と呼ばれる各種手法の使い分け方を紹介する。これらの調査法は、目的の違いよって大きく2グループに分かれる。
ユーザー調査法 分類 |
目的 | バリエーション |
---|---|---|
ニーズ調査型 | ニーズ・要求の探索 | グループインタビュー、行動調査・フィールド調査、テキストマイニング |
仮説評価型 | プロダクト仮説の評価・検証 | ユーザビリティテスト、A/Bテスト、ログ解析、アンケート |
「なぜ、ひとくくりにされているのか?」と思うほど、目的が異なる。
1グループ目は、ニーズや潜在的な要求を調査するための手法群だ。「要求やニーズを集めたいならユーザーにアンケートしたらよいのではないか?」と考える人がいると思う。しかし、「アンケートで集めた要求やニーズを元にしたプロダクトは、機能が肥大化するだけで売れない」ことが多い。それは「ユーザーは使ったり見たりしたことがある範囲でしか、要求やニーズを挙げることができない」からだ。
では、どうやってニーズを集めればいいか? 下記に3つの代表的な手法を挙げる。
「フォーカスグループインタビュー」とは、提供者主導で作為的にテーマを設定するユーザー座談会のことだ。プロダクト開発側がユーザーに限定的なテーマを与え、話し合ってもらうことでユーザーから本音に近いニーズを得ようとする手法だ。
効果としては、下記の2点を狙っている。
この手法では、プロダクト提供側が主導することで、提供側のバイアスがかかる。それを覚悟の上で、ニーズを得たいテーマを提供側が選定しておくことが重要になる。テーマ選定が不十分な場合、次回以降で説明するペルソナやカスタマージャーニーマップ定義を先に行い、テーマを絞り込んた上で行った方がいい。
「行動調査・フィールド調査」とは、ターゲットユーザーがいる場所に出向き、観察やアンケートを行う方法だ。
その効果としては、「ユーザーの行動」を教本としてプロダクト開発のヒントを得られること、ユーザー理解の土台を得られることがある。
上で述べたように「ユーザーは本当の要求を分かっていない」ことが多いため、「ユーザーの行動の観測」から情報を拾うことを重視し、フィールド上でのアンケートは補足情報として捉える方が良い。またマーケティング目的で宣伝を行うこともあるが、その場合、得られたアンケート結果にはさらにバイアスがかかる点に注意しよう。
「テキストマイニング」とは、商品への直接的な要求の文章を分析するのではなく、ターゲットユーザーの発言情報などから新たなニーズや生活上の課題などを抽出する手法だ。最近では人工知能なども取り入れられ、ユーザーデータのマイニングが進められている。
もう1グループは、人間中心設計手法で立てたUX仮説を評価・改善するための手法群だ。これらの評価法に関しては、「ユーザー行動の、どの段階の品質を評価するのか?」を決めると適切な方法を絞り込むことができる。図1の評価法を絞り込むための分岐については、各評価手法のポイントと共に説明していく。
この分岐については、評価手法のメリット、デメリットを説明しつつ解説していく。
体験中のユーザーが感じた「UXの品質評価、そしてどこに問題があるかの特定はどうすればよいのか? その答えとなるのが、「ユーザーテスト」だ。
問題を正しく特定するためには、図2のような専用のルームで行われる「管理されたユーザーテスト」が有用だ。それは、リアルタイムな観測が可能であることとユーザーテストを進行するモデレーターを被験者の側におけるからだ。
このモデレータは、被験者(被験者)に操作方法は教えず、適切にユーザーの思考を聞き出し、スムーズにテストを進める重要な役割を担う。専門的なスキルや経験が必要なので、可能な限り専門家や専門の業者をアサインするのが望ましい。
また、被験者の質も重要になる。ターゲットユーザーに合った人を集めることも重要だが、経験値の高い被験者は心理状態を話しながら自然と操作してくれるため、原因特定のために有用だ。ただし、このような「管理されたユーザーテスト」にはコストがかかるため、プロダクト仕様全体を行うのは難しい。
そのような場合は、UXデザインの専門家が課題に当たりをつけるヒューリスティック法で、評価項目を絞り込むと良い。
ただし、問題発生の頻度や深刻度を把握することは専門家でも難しいため、絞り込まれた評価対象に対してユーザーテストを行うのがいい。もちろん開発プロジェクトにUXデザイナーが参加している場合は、UXデザイナーがユーザーテスト業者と相談することで効果的かつ限定的なテストケースを組むことができる。
また最近は、オンライン環境の充実により、ユーザー行動を「管理しないリモートユーザーテスト」を行いやすくなった。これはクラウドソーシングなどを利用して被験者を集め、操作してもらい評価を得る方法だ。条件によっては、体験中の結果をビデオ撮影などを行ってもらうことも可能だ。
ただし、モデレータのいる「管理されたユーザーテスト」に比べると、相互のやりとりができないため、1被験者当たりの得られる情報量は落ちる。それでも安価に実行可能なため、体験中〜体験後の使い勝手を評価をするにはとても有効な手法だ。また体験後の感想や記憶に残った印象を得るためであれば、アンケートも有効な手法だ。
A-Bテスト、アクセスログ、ヒートマップなど実行量を実データから測る手法については、「プロダクトリリース後のUX評価・検証・改善」の話として回を分けて連載後半で説明する。
図3はこれら仮説評価型手法の比較表だ。
今回は、まずはニーズを集めるためのユーザー調査法を説明した。これらの手法の根幹である「ユーザー行動の観察」は、“デザイン思考”でも起点となる重要な部分だ。「デザイン思考」「人間中心設計」「UXデザイン」との関係性については、機会があれば別の回で触れたいと思う。
また、仮説を評価・改善するためのユーザー調査法も説明した。代表格であるユーザーテストについては「なぜ、管理されたテストルームでのテストが体験中のUX品質評価に有効なのか?」を覚えておきつつ、迷ったら図1を参考に適切な評価方法を選んでほしい。
次回は、最も有名な人間中心設計手法の1つである「ペルソナ」を紹介する。
土屋 晃胤(つちや あきつぐ)
秀玄舎 ITコンサルタント
大手メーカーでの社内エンジニア、プロジェクトマネジャー、ゲーム機のホーム画面やお知らせなどメイン機能のプロダクトマネジャーを経て、プロジェクトマネジメントコンサルタントとして現職に転職。ビジネスの課題をIT・マネジメント・デザインの融合により解決し「あらゆるシステムをユーザーが思うままに使える世界」を実現するため、活動の幅を広げている。
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