変わる「リフト&シフト」の意味――既存システムのクラウド移行、成功のポイント各種クラウド機能の適用基準とは(3/3 ページ)

» 2018年09月06日 05時00分 公開
[文:斎藤公二/構成:荒井亜子/インタビュー:内野宏信,@IT]
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クラウドを使ったサービス開発の内製化は進むのか

── 一方で、デジタルビジネスに対応するために、多くの企業で内製化が見直されていると思います。この点で、「Cloud Foundry」などPaaS環境構築ソフトウェアを使ったり、「Docker」「Kubernetes」などを使ったCaaSの運用環境を自社内に構築するなどして、内製を加速させる動きは進むと思いますか。

福垣内氏 一部のWeb系のような先進的な企業がオンプレミスにPaaS環境を構築するケースは増えると思います。ただ一般的な企業においては、プライベートなIaaS環境でアプリケーション開発環境を構築するケースは増えると思いますが、PaaS環境までは現時点では必要としていないのではないでしょうか。

伊藤氏 そうしたPaaS環境はサービスのスピーディーな開発、リリースに向いていますが、難しいのは管理者が触れられる領域が限られることです。何か問題が起こり、どうしてもパラメーターの値を変えたいといった場合でもすぐに変更することは難しい。パフォーマンスの保証やチューニングにも一定のスキルが必要です。その点で、DevOpsの実践環境を整えるなら、自社におけるサービス開発・運用の在り方に合わせてオンプレミスに自由度の高い環境を築く他、クラウドサービスを利用する方法もあるわけです。これについても目的やニーズに合わせて使い分ければいいでしょう。

福垣内氏 あるお客さまは、開発は社内のCloud Foundryで行うが、テストと本番はAWSを使っています。Cloud FoundryはJava、Node.js、Ruby、MySQL、PostgreSQLなどを容易に組み合わせることができます。開発段階でJavaやRubyといったプログラミング言語ごとに動作速度や反応速度などをいろいろと試して、実際にはAWS上でテストをするというやり方です。いずれにせよ開発・運用ともに「インフラを積極的に選択するスタンス」は着実に強まっていると言えるでしょうね。

デジタルビジネスをいかに創出するか、クラウドをいかに生かすか

── 近年はデジタル変革の取り組みを専門的に担う部署を設置し、クラウドを利用して新サービスの内製に取り組む企業が増えつつあります。貴社も「アクセンチュア・イノベーション・ハブ 東京」を開設し、そうした取り組みを支援していますね。

伊藤氏 デジタルイノベーション推進室のような部署を作る動きは、金融を中心に増えています。外部環境の変化に合わせて、デジタル変革で自らを変革しつつ、新しいビジネスを起こしていこうしています。「アクセンチュア・イノベーション・ハブ 東京」では、業務部門とIT部門の方に一緒にこの拠点に来ていただいて、共にアジャイルのアプローチでプロジェクトを進め、実際にプロダクトを作る取り組みを支援しています。

 特長としては、デザインシンキングからプロトタイプ化、テスト、本番といったステップまでをこの拠点で完結できるようにしていることです。そのために、デザインシンキング、画像認識などの新たな技術、アジャイル開発など、各分野の専門家を集めており、分からないことがあればすぐに専門家とディスカッションし、その場で問題を解決できる体制としています。アナリティクスのプロジェクトだったらデータサイエンティストを呼んできたり、動画を使いたければ映像クリエイターを連れてきたり。日本風に言えば、「町屋」に住んで「出島」でプロトタイプを作るといったイメージでしょうか。

── デジタル推進室のような組織を作っていても、実際にやり方を体験してみないとサービス開発にアジャイルのアプローチを取り入れるのは難しいといわれています。実際、推進室を立ち上げていてもMVP(Minimum Viable Product)をなかなか作れないような例もあるようです。その点、専門家とのオープンなコラボレーションを柔軟かつスピーディーに図れる環境は、取り組みを後押ししてくれそうですね。

伊藤氏 はい。ただ先進的なITサービス開発が中心ではありますが、それだけではありません。例えばクラウドを使った開発の導入をきっかけに、内製化を進めたプロジェクトもあります。まず社内で若手エンジニアを集め、半年かけてわれわれとクラウド上でシステムを開発し、運用に入ったら今度はそのエンジニアが自分たちだけでクラウドを運用できるようにする。クラウド活用のスキルアップと内製化のプロセス導入を併せて行ったわけです。

── デジタル変革は、技術の活用だけではなく、人材のスキルアップ、開発・運用・業務プロセスの変革、さらには社内カルチャーの変革まで含めた全社的な取り組みとすることが重要とされています。その点、「リフト&シフト」の検討とは、業務とシステムを包括的に見直すことであり、変革に向けた第一歩になるものだと思います。自社だけでの変革は難しいものですが、社外の力を“変革の伴走者”として利用することも一つの方法と言えるのでしょうね。最後に、デジタル変革を推進していきたい企業に向けてアドバイスを。

伊藤氏 企業は今後、変わっていかなればなりません。変わると言っても過去の成功体験を否定するのではなく、経験の蓄積と自社の強みを大事にしつつ、新しい常識に応じて「変わることが当然」というスタンスに切り替えることが必要だと考えます。もちろん新たなニーズを開拓したり、応えたりする上では新たな技術の積極的な活用も不可欠です。その意味で、自社のビジネス目的をしっかりと認識し、それに応じたシステムのあるべき姿を主体的に検討できるようになることが肝要だと考えます。

福垣内氏 前述のように、今回のテーマであるクラウドも「目的」ではありません。新しい技術は次々と登場してきますが、技術の新旧を問わず、その選択・採用基準はあくまでビジネスにあります。新たな技術をキャッチアップしながら、「ビジネスのためにクラウドを使う」という視点を忘れずに変化に対応していくことが、今後は一層大切になっていくと思います。

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