ケケン試験認証センターとNTTは、高性能半導体レーザーを用いてカシミヤ毛に含まれる元素の安定同位体比を分析し、産地を割り出す技術を開発。同技術で、市場に流通するカシミヤ製品の産地を推定する「カシミヤ品質検査システム」の共同実証を始める。2019年夏以降のサービス化を目指す。
繊維製品の品質検査などを手掛けるケケン試験認証センター(ケケン)と日本電信電話(NTT)は、NTTのレーザーガスセンシング技術を活用して、科学的に産地を推定する「カシミヤ品質検査システム」の実証実験を2018年12月に開始する。
NTTのレーザーガスセンシング技術は、高性能半導体レーザーを用いて、食品や繊維などの原料となる動植物に含まれる水素、酸素、炭素などから産地や品質を推定する技術。動植物の組織を構成する元素である水素、酸素、炭素などには、質量が異なる安定同位体がわずかに存在し、その比率は生育した地域によって異なるため、産地の判別に利用できる。
この技術をカシミヤの品質検査に応用する場合、レーザーガスセンシング装置でカシミヤを燃焼し、カシミヤに含まれる元素を水蒸気(H2O)、二酸化炭素(CO2)などのガス(気体)にする。これに半導体レーザー光を照射し、同位体の違いによるわずかな吸収波長の差やその吸収量をモニタリングすることで、ガスに含まれる元素を同位体レベルで分析できる。
ケケンとNTTは、このレーザーガスセンシング技術を用いて、カシミヤに含まれる元素の安定同位体比とカシミヤ山羊の生育地や飼育環境に相関関係があることを明らかにし、安定同位体比データと産地情報(地理情報や飼育情報含む)を関連付けたデータベースを構築した。
今回の実証実験では、実際の品質検査工程で、従来の光学顕微鏡検査でカシミヤ毛の外見的特徴を分析する検査と併せて、レーザーガスセンシング技術による安定同位体比分析を行い、データベースと照合することで、カシミヤの産地を科学的に推定する。
高級獣毛であるカシミヤ製品は、近年、さまざまな流通経路から手ごろな値段で手に入れられるものが出回る一方、品質低下の懸念から、アパレル企業や販売店では、正しく品質表示されているかどうかなど、厳しい検査が行われている。また、カシミヤ原産国では、消費者に安心して高品質な製品を供給するとともに、ブランド化による生産者保護につながるトレーサビリティーの確保に向けた管理体制づくりが進められている。
こうした背景から、ケケンとNTTでは、実証実験を通して、市場に流通しているカシミヤ製品を対象に産地推定を行い、表示産地と比較することで、参照データとして必要な蓄積データ数や推定精度など、品質検査システムの実用性を検証し、2019年夏以降のサービス化を目指す。
また、今後は産地の確実なカシミヤ原毛の採集を引き続き行い、蓄積データを拡充し、産地推定の精度向上を図る他、海外の牧場(原産地)から消費者までの流通過程で商品に対する信頼性向上につながる検査システムの構築を目指すとしている。
将来的には、産地や品質など、商品の履歴が保証され、トレーサビリティーが確保された高度な品質管理体制を通して、海外のブランド地区の生産者を保護するとともに、アパレル企業や販売店が品質が保証されたカシミヤ製品を消費者に提供できるように取り組んでいくという。
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