2018年から、開発コンテスト「Mashup Awards(MA)」とMAの「決勝戦」がメインとなっていた年末の一大イベント「FESTA」が生まれ変わった。本稿では、その概要と、プレゼンテーションが行われた11作品を紹介する。
職業や年齢を問わず「ものづくり」に魅せられたエンジニアが互いに成果を発表し、たたえ合う場として定着した開発コンテスト「Mashup Awards(MA)」。2018年には「MA2018 ヒーローズ・リーグ」という名称になり、さまざまな審査を勝ち抜いた受賞作11作品(1作品は賞の重複あり)が、2018年12月2日開催の「FESTA 2018 by MA」でお披露目された。
MAは2006年開催の第1回から数え、今回の「MA2018」が14回目の開催となった。2017年のFESTAにおいて「今後はより公共性のある形にMAの運営方法を変えていく」ことを表明していたが、2018年2月には、新たなMAの運営組織となる「一般社団法人MA」が設立。これまで、幹事的な立場にあったリクルートから運営を引き継いだ。
一般社団法人MAでは、「誰もが『つくる』を意識して生活するようになり、自ずと『つくる(ひと)』をリスペクトする世の中をつくる」ことをミッションに、イベントとしてのMAとFESTA、そして、ものづくりに関する情報共有サイト「ProtoPedia」の運営を軸とした活動を展開している。
これに伴い、MAの開催形式にも若干の変更があった。「ものづくりをする開発者、エンジニアの中からたくさんのヒーローを生み出すこと」を目標として、タイトルに「ヒーローズ・リーグ」を冠し、2017年までの「個人」「法人」といった部門の区分けや、審査委員による「最優秀賞」の選出を廃止した。
その代わりとして、「最終審査(2nd Stage)」に残った発表者が相互投票で選出する「みんなで選ぶヒーロー賞」、MA協賛企業が選出する「プロが選ぶヒーロー賞」、MAに技術を提供するパートナー企業や参加している個人がそれぞれに「賞をあげたい相手」に自由に賞を出す「俺が選ぶヒーロー賞」などが個別に選出される形となった。
また一般社団法人MAは、これまで、MAの「決勝戦」がメインとなっていた年末の一大イベントFESTAについても、内容をリニューアルした。MA2018で選出した「ヒーロー」たちと、その作品を披露する「ヒーロー任命式典」の他、参加者によるブース出展や、ピーバンドットコムが主催するハードウェア開発コンテスト「GUGEN 2018」決勝大会などもプログラムに盛り込み、より幅の広い「ものづくりの祭典」としての色彩を強めた。
本稿では、MA2018でプロが選ぶヒーロー賞、みんなで選ぶヒーロー賞に選出され、FESTAのヒーロー任命式典でプレゼンテーションが行われた11作品を、当日の発表順に紹介していく。
各作品についての詳しい情報は、前述のProtoPediaへのリンクで参照できる。
ProtoPedia:https://protopedia.net/prototype/29921001f2f04bd3baee84a12e98098f
@IT編集部の選出による「おばかアプリヒーロー賞」を受賞したのは「サンバイザーZ」。自転車に乗って街を疾走する妙齢のご婦人たちが、直射日光による攻撃から顔面を守るために仮面のごとく装着する「サンバイザー」。それを近未来のコミュニケーションアイテムへと進化させた作品である。
サンバイザーZのバイザー部裏面には、96個のフルカラーLEDが格子状に配置してある。接続されたAndroid端末を操作したり、音声で話し掛けたりすることでLEDを点滅させ、バイザー表面に電光掲示板のような形でメッセージを表示することが可能だ。
日本語での発話内容を英語に翻訳し、英字で表示させることもできる。スマートフォンからのコマンドによって矢印を表示できる「方向指示器機能」や、「グー」「チョキ」「パー」といったじゃんけんの手を記号に変換して表示する「じゃんけん機能」なども用意されている。
さらに、前方からイケメンがアプローチしてきた際に「イケメン……」とつぶやくと、音声コマンドにより、サンバイザーに組み込まれたモーターが始動。バイザー部が上方に開き、装着者の存在をアピールできる「自動バイザー開閉機能」も搭載する。「恥ずかしいけど目立ちたい」というアンビバレントなハートを持つレディにぴったりのコミュニケーションアイテムという触れ込みだ。何を言っているのかよく分からないかもしれないが。
サンバイザーZを開発したのは、某大手ITベンダーに勤める5人のメンバーで構成される「NETS」。仕事場は同じものの、完全な趣味の有志によるチームである。「サンバイザー」というアイテムの格好良さに魅せられ、「これをLEDで光らせたら、さらに格好良くなるんじゃないか」と考えたのが開発のきっかけだったという。
一見、完全なネタにも見えるが、クラウドの音声認識と翻訳APIを組み合わせた翻訳ツールとしての実用性もある部分は見逃せない。今後ますます増えることが予想される外国人観光客への応対ツールとしてのニーズも見込んでいるとか、いないとか。開発者にこの先のプランについて聞いてみたところ「まずは、小池都知事にサンバイザーZをかぶってもらうところから始めたい」とのコメントを得た。今後の展開に期待しよう。
ProtoPedia:https://protopedia.net/prototype/84c6494d30851c63a55cdb8cb047fadd
「VUI」は「Voice User Interface」の略。デバイスとの情報のやりとりを人間の「声」で行えるスマートフォンやスマートスピーカーなどが注目を集める中で、その効果的な実装例として「VUIヒーロー賞」を受賞したのが「だらしないマネージャを救うスマートスピーカアプリ『けいこさん(仮)』」だ。
けいこさん(仮)は、会社に勤める管理職にとって、重要だけれど面倒な仕事の一つである「申請承認」の作業をVUIで行えるようにするアプリ。起動すると、デバイスが案件を一つずつ音声で読み上げてくれるので、承認者は「いいよ」「ダメ」「保留」などと答えるだけで、承認処理を進めていくことができる。ちなみに「けいこさん」というのは、開発者の会社で実際にバックオフィス業務を行ってくれているスタッフの名前なのだそうだ。
承認システムにVUIを適用する最大のメリットは、音声を利用することで、他の作業をしながらの「ながら承認」が可能になること。また、重要案件が未承認の場合にアラートを出すことも可能という。運動中でも、Twitterを眺めながらでも、ソファで寝転がった状態でも「承認」ができるので、ついつい承認作業をためてしまい、周囲に迷惑を掛けてしまいがちな管理職にとっては大変魅力的なアプリである。
現時点では、勤怠管理サービスの「AKASHI」に対応した勤怠承認アプリとして運用されているが、「一覧」「承認」「却下」「保留」「詳細」の5つのアクションに対応したAPIがあれば、それ以外のさまざまなサービスと連携させることも可能という。今後は、認証に関する機能を組み込んだり、プリセットの対応サービスを増やしたりなどの機能強化を行いながら、より多くの「承認地獄」に苦しむ管理職を救済したいとしている。
ProtoPedia:https://protopedia.net/prototype/204da255aea2cd4a75ace6018fad6b4d
「APIヒーロー賞」を受賞した「Pixela」は、GitHubの「Contribution Graph」(通称「草」)のようなデータ可視化機能を、さまざまな用途、場所で使えるようにするサービス。
GitHubの「草」は、ユーザーがリポジトリにコードをコミットした頻度や数を示す分かりやすい指標の一つであり、個々のユーザーにとっても、自分の成果物が緑色のタイルとして並べられていくことで「モチベーションアップにつながる」と評価されている。Pixelaでは、コードのコミット数に限らず「1日に歩いた歩数」「毎日の体重の変化」「飲酒した日」など、数値でカウントできることであれば、何でも記録し「草」として可視化できる。
Pixelaでは、一連の機能はAPI群として提供している。可視化したデータはSVG形式で返すため、ユーザーはWebサイトやブログページなどに容易に組み込んで表示できる点もポイントだ。配色も「緑」だけではなく、自由にカスタマイズできる。開発者は「ぜひ世界中のユーザーに使ってもらい、さまざまなアイデアで草を生やしてほしい」と語った。
初期のMAは、企業などが公開しているAPIを利用して、新しいアプリケーションやサービスを生み出す「マッシュアップ」に主眼を置いた開発コンテストとしてスタートした。一方で、近年ではマッシュアップによる開発を支援する目的で作られたAPIやツールがエントリーされ、受賞することも珍しくない。「Pixela」は、そういった意味でも、近年のMAにおける「開発」の裾野の広がりを感じさせてくれる作品の一つだ。
ProtoPedia:https://protopedia.net/prototype/b3b43aeeacb258365cc69cdaf42a68af
学生個人および、学生のみで構成されたグループの手による作品の中から選出される「学生ヒーロー賞」を受賞したのは「Hapbeat」。首にかけて利用するコンパクトなウェアラブルデバイスで、音楽や映像の「音」を振動に変換し、臨場感を体験できるというものだ。
音に含まれる重低音の成分を物理的な振動に変換して、視聴時の臨場感を増すデバイスはこれまでにもいろいろと登場しているが、Hapbeatの特長は「小型」かつ「高出力」であること。一般的な「重り」ではなく「モーターと糸」による独自の振動生成機構によって、デバイスのコンパクトさからは想像できない程の力強い振動を表現できるという。
Hapbeatの振動生成の仕組みについては既に特許を取得しており、今後はVRアミューズメントスペースのような大型施設、ゲームセンターのような小規模施設での導入を働きかけていく他、家庭用ゲーム機の周辺機器や個人向けの音響機器として、コンシューマー市場にも展開したい意向だ。「事業化に向けたビジネス開発パートナーを募集中」とのことだった。
ProtoPedia:https://protopedia.net/prototype/b59a51a3c0bf9c5228fde841714f523a
「テクノロジーの力で社会を少しでも良いものにしていこう」という視点を持った作品に与えられる「シビックテックヒーロー賞」を受賞したのは「elet(イーレット)- 簡単電気共有プラットフォーム」。
モバイルPCやスマートフォンを持ち歩いて活用する人が増えている現在、街中でどうやって「電源」を確保するかに神経を使っている人も多いのではないだろうか。最近では「コンセント利用OK」のカフェやワーキングスペースなども少しずつ増えてはいるものの、どこでも自由にコンセントが使えるような状況ではない。だからといって、店舗内にあるコンセントから勝手に電力を取れば「犯罪」になってしまう。個人で経営している飲食店などでは、コストや回転率などの問題から、簡単には「コンセントを自由に利用OK」に踏み切れないという事情もあるだろう。
「elet」は、より簡単に電力の売買を実現するためのIoTプラットフォームと銘打たれている。本体はコンセント型のデバイスとなっていて、電力を売りたい側は、このデバイスを設備のコンセントに接続するだけでいい。電力を買いたい側は、elet本体にあるQRコードを読み込めば「LINE Pay」による料金支払で、eletから支払額に応じた分の電気を得られる。現状、ペイメントやメッセージングの仕組みについては「LINE」のサービスを活用しているが、他の仕組みやサービスも利用可能だという。
開発チームは、電気工事士の免許も取得しており、今後はコンセント型だけではなく、埋め込み型やコード型、電気自動車や自転車の充電器型などへの拡張も視野に入れながら「こうした仕組みを社会インフラの一部にしていきたい」と話す。ハード、ソフト両面での完成度の高さが評価されての受賞となった。
ProtoPedia:https://protopedia.net/prototype/6d3a1e06d6a06349436bc054313b648c
アートとテクノロジーを融合して、ユーザーがワクワクするような「体験」を生み出したチームに与えられる「Interactive Designヒーロー賞」を受賞したのはスマートフォンアプリ「SPELL MASTER スペルマスター」を開発した「カタコト」。
「SPELL MASTER」は、ひと言で表すと「英単語学習アプリ」なのだが、そこに至るまでのストーリー立てや舞台装置がとても面白い。ユーザーは、まず「魔方陣」のような模様が描かれたメモ紙の中心に英単語を記入する。その紙をスマートフォンアプリでのぞき込むと、画面上に英単語に対応した「モノ」のポリゴンモデルが派手目のエフェクトとともに「召喚」される。例えば「APPLE」と書けば、リンゴのポリゴンモデルを召喚できる。もし、つづり(スペル)が間違っていたら、召喚は失敗してしまう。
バックエンドでは「Google Cloud Vision API」「Google Poly」といったサービスを呼んでおり、これらが対応していれば、どんな英単語から、どんなモデルを呼び出すこともできる。「この単語では何が召喚される?」「○○のモデルを出すためにはどんな単語を使えばいい?」といった形で、子どもの英単語学習だけではなく、大人も使い方を工夫して楽しめる「おもちゃ」としての性格も持っている。
受賞したカタコトのメンバーは「はじめて英語を学んだときに、単語が呪文のように見えたことを思い出し、ならばいっそ英単語を呪文として書けば楽しみながら覚えられるのではないかと考えた。ぜひ、親子でコミュニケーションしながらの勉強にSPELL MASTERを役立ててほしい」と話した。今後は英語だけではなく、海外の人向けに「日本語」を呪文とした召喚などにも対応していきたいという。
ProtoPedia:https://protopedia.net/prototype/d9731321ef4e063ebbee79298fa36f56
音楽を聴くためのメディアやデバイスは、この数十年ですっかり様変わりした。今では音楽データを保存したスマートフォンやデジタルプレーヤーをヘッドフォンや外部スピーカーにつないで聞くスタイルがほとんどなのだろうが、かつてはCDやMD、そしてアナログレコードや「カセットテープ」などが音楽のメディアとして大きなシェアを誇っていた時代もあった。
「もし、スマートフォンがこの世に生まれていなかったら、僕たちは今、どうやって音楽を楽しんでいるのだろうか?」という思考実験から生まれたというデバイスが、「IoTヒーロー賞」を受賞した「Cassettify」だ。Cassettifyの外観は、懐かしのカセットテープそのもの。しかし、その内部にはWi-Fiチップや磁気ヘッド、小型バッテリーなどが組み込まれており、カセットプレーヤーに挿入して再生ボタンを押すことで、インターネット上のストリーミング放送を聞くことができる。
本来のカセットテープは、内部の磁気テープに音楽データが記録されており、プレーヤーのヘッドがそれを逐次読み取って音を出す。Cassettifyでは、Wi-Fiで受信したストリーミングデータを電気的にアナログ変換し、磁気としてヘッド部に出力している。そのため、プレーヤー側では従来のカセットテープと同じ仕組みで音を鳴らせるのだ。既に使わなくなってしまったものの、捨てられずにしまい込んであるカセットタイプのポータブルオーディオ、カーステレオのカセットプレーヤー、学校の放送室にあるカセットデッキやラジカセなどから、ネットのストリーミング放送を流せるというのは、なかなかのインパクトだ。
Cassettifyへの充電はmicroUSBケーブルで行う。容量は100mAhで、フル充電で30分間ほど動作するという。既に3種のプロトタイプを作成済みであり、再生時間の延長やコストダウン、カセットケースから取り出すことで自動的に電源が入る仕組みの実装など、着実に改良を続けている。開発者は「発表後の反響が大きく、手作りでも少しずつ量産していくことを検討したい」と話していた。かつて、FMラジオやCDから選りすぐった「俺ベスト曲集」をカセットテープに収めて持ち歩いていたような世代だけではなく、アナログレコードやカセットといったデバイスに「レトロ」な格好良さを感じる若い世代にも新鮮な驚きを与える作品ではないだろうか。
ProtoPedia:https://protopedia.net/prototype/96de2547f44254c97f5f4f1f402711c1
過去にMAを含むコンテストでの受賞歴がない個人、もしくはチームの中から「MAをきっかけに人生が変わるポテンシャルを持つ」と主催者が判断したエントリーに贈られる「ルーキーヒーロー賞」。受賞したのは「チョコボール統計研究所」による「Chocoball Detector」だ。
遠足やティータイム、勉強や仕事のお供として定番といえる森永製菓のお菓子「チョコボール」。日本人なら一度は買って食べたり、店頭で目にしたりしたことがあるはずのチョコボール。「おもちゃのカンヅメ」が欲しくて、金と銀のエンゼルを手に入れるために毎月のお小遣いで少しずつ買っていたのに、結局出てこなくて悲しい気持ちになったチョコボール。ところで、このチョコボール。1箱に何個入っているのか、気になったことはあるだろうか。
普通は「気にならない」ものなのだろうが、それが気になって気になって仕方がなく、日々購入したチョコボールの中身を計測し、時に統計的な分析を加えているのが「チョコボール統計」というブログだ。それによれば、チョコボール1箱当たりの個数には粒のサイズによって14〜19個前後のバラツキがあり、さらにその平均的な個数が明確に変化する周期があるのだという。その他、「味ごとの重量傾向やパッケージ印刷からエンゼルの出現を予測できるか」といったことまでを、計測と統計分析によって明らかにしていこうとしている。
このブログを運営する「チョコボール統計研究会」が、さらに広範なサンプル取得のために作り上げたツールが「Chocoball Detector」だ。このサイトに、チョコボールが撮影された画像をアップロードすると、その画像の中に何個のチョコボールが写っているのかが自動的に検出される。日々の計測に当たり「1箱の中に何個入っているのかを数えるのが面倒くさかった」ために作ったツールだそうだが、そのバックエンドでは、チョコボールのイメージを検出する機械学習のモデルが動いている。この「Chocoball Detector」において、多くの人からチョコボールの画像を募ることで、より大規模な統計に役立て「チョコボールの秘密をみんなで確かめたい」というのが開発の動機だ。
それに何の意味があるのか。その技術や知識は、もっと他のことに使うべきではないのか。そんなツッコミを入れたくなるモヤモヤ感が、いかにもMAらしい作品でもある。賞を選定した運営事務局も、ひと目見るなり「ヘンタイ来た!」と躍り上がったという「Chocoball Detector」。開発者の言う「チョコボールの秘密」に興味がある人は、ぜひ、その解明に参加してみてはどうだろう。
ProtoPedia:https://protopedia.net/prototype/c88d8d0a6097754525e02c2246d8d27f
「誰のためでもなく、とにかく自分が欲しい」ものにこだわって作品を作り上げた開発者に贈られる「オレトクヒーロー賞」。その栄誉を手にしたのは、さまざまな公開データから、日本に隠された「とがった地形」を機械学習のアプローチで見つけ出す「先端発見!」だ。
島国である日本には、丘や山といった陸上の先端部が、平地や海、湖などへ突き出した「とがった」地形が多く存在する。そうした場所は景勝地であったり、何らかの神話的な逸話が残される「パワースポット」となっていたりすることも多い。福井県の「東尋坊」や京都の「天橋立」といった観光地は有名だが、日本には、まだまだ知られていない「とがった地形」があるのではないか。それをデータ分析から見つけ出そうという試みである。
「先端発見!」では、国土地理院提供の標高APIや、Flickrの写真データ、RESAS(内閣府提供の地域経済分析システム)など、多様なソースから得られたデータを分析し、独自の採点システムを用いて、日本にある「突端地形」をリストアップし、ランク付けしている。さらに、その地域の観光や人口に関するデータを組み合わせることで「観光度」を算出。「先端度」が高く「観光度」が低い地形が身近にあれば、そこが「あまり知られていないとんがりスポット」である確率が高まるというわけだ。
「先端発見!」でリストアップされた地形と場所はGoogleマップ上で確認でき、現地まで行く方法を示した「駅すぱあと」の検索結果、関連写真やストリートビューなども呼び出せる。サイボウズの「kintone API」を使った独自のコメントシステムも用意しており、実際に訪れた「突端地形」に対するコメントを残すこともできる。開発者の「とがった地形」に対する並々ならぬ思い入れと、それを見つけ出すためのロジックや実装に関するこだわりが認められての受賞となった。
ここから、MA2018における「2nd Stage」進出者の相互投票によって選ばれた「みんなで選ぶヒーロー賞」第3位から第1位までのプレゼンテーションに移る。
第3位には「Cassettify」が選ばれた。プロが選ぶ「IoTヒーロー賞」とのダブル受賞となっている。
ProtoPedia:https://protopedia.net/index.php/prototype/99adff456950dd9629a5260c4de21858
第2位に選出されたのは「GameControllerizer」。ゲームコントローラーとして振る舞う独自のハードウェアと、ビジュアルプログラミング環境(Node-RED/makecode)の組み合わせから成るミドルウェアとして構築されており、これを利用することによって、さまざまなデバイスを「ゲームの入力デバイス」として機能させることができる。
「ゲームコントローラー化」できるデバイスは、プログラミング部にNode-REDを使う場合、HTTPやMQTT、WebSocketなどを送信できる機器であれば何でも構わない。Makecodeを使う場合は、micro:bitに搭載されたボタンやセンサーを利用できる。デバイスのセンサー類やボタンがとる“状態”を、ゲームコントローラーの、どの操作に対応させるかなどをプログラミングしておけば、後は独自デバイスがその操作状態をエミュレートして、PCやゲーム機へと送信する仕組みだ。会場で流されたデモ動画では、スマートフォンやソニーの「MESH」タグ、加速度センサー、スマートスピーカー、カメラに映る魚の動き(!)などを利用してゲームをプレイしている様子が次々と流された。
「MAのエントリー作品の中でも、ゲームをハックするものは非常に人気があり、魅力的。しかし、アイデアを形にする段階で大きな課題になるのがコントローラーの扱いだ。それぞれに手間がかかるコントローラー周辺の課題を解決することで、もっと多くの人に『ゲームをハックしよう!』と思ってもらいたかった」というのが開発動機だ。「これを使えばアイデアを簡単に形にできそう」と感じさせる可能性を秘めたプロダクトであることと、目の当たりにした多くの人に「欲しい!」と認めさせた結果としての第2位受賞となった。
ProtoPedia:https://protopedia.net/prototype/02f039058bd48307e6f653a2005c9dd2
みんなで選ぶヒーロー賞の第1位に輝いたのは「『Facelot』写真で撮るだけでエントリーできる抽選システム」だ。
日常生活の中には「残ったおやつを誰が食べるか」「ゼミの発表順番はどうするか」など、ちょっとした「決めごと」が案外多いもの。そんなときに「じゃんけん」「あみだくじ」などの方法を使っている人も多いかもしれないが、それをスマホで「写真」1枚撮るだけで完結させてしまおうというサービスが「Facelot」だ。
抽選参加者が集合写真を撮影すると、自動的に顔認識が行われ、その中の1人が「当選者」として選ばれる。面白いのは「Microsoft Face API」を利用して顔の表情や属性を認識できる点。例えば「一番笑顔の人」「一番真顔な人」といったお題を設定しておくと、そのお題に最も近い顔の人を選び出すといった使い方もできる。パーティーや結婚式の抽選会で、時間のかかるビンゴなどの代わりとしても使えそうだ。ちなみに60人ほどが参加したパーティーで利用した際には、約90%の人を参加者として正しく認識した実績もあるという。
「顔認識で抽選」というアイデアや、バックエンドで使われている技術については、それほど目新しいものでも、奇抜なものでもなかったかもしれない。しかし、サービスとして実装した際の見せ方や、使い方のデザインが群を抜いていたことが、相互投票による「みんなで選ぶヒーロー賞」の首位を獲得することにつながったという。
以上、MA2018 ヒーローズ・リーグの受賞作11作品を駆け足で紹介してきた。運営体制とともに、コンテストの開催スタイルも変わり、新たなステップを踏み出したMashup Awards。FESTAにおけるヒーロー任命式や、100を超える個性豊かな作品展示を見ると、さまざまなアイデアや技術を持った人たちが“ものづくり”に気軽に参加し、発表し合うことで感じた“驚き”や“称賛”を高い熱量で交換し合う場としての性質は変わらず引き継がれているように感じた。
次回は、どんな作品がどんな“驚き”を与えてくれるのだろうか。2019年も、年末を楽しみに1年間を過ごしたい。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.