ヤフーの集めるデータを活用すると、一般企業は何ができそうかセブン&アイ、USJ、江崎グリコ、西武鉄道の例

ヤフー検索をはじめとしたデータが活用できると、一般企業にとってどんないいことがあるのだろうか。セブン&アイ・ホールディングス、ユニバーサル・スタジオ・ジャパン、江崎グリコ、西武鉄道が行った実証実験の内容をお伝えする。

» 2019年02月21日 05時00分 公開
[三木泉@IT]

 ヤフーが2019年2月中旬に内容を説明した「DATA FOREST」は、同社が運営するサービスを通じて獲得する情報を加工し、企業や自治体向けにこのデータを分析する環境を提供するデータソリューションサービス。では、ヤフーの検索をはじめとしたデータが活用できると、一般企業にとってどんないいことがあるのだろうか。

 ヤフーは2018年、参加組織を募って新サービスの実証実験を行った。2019年2月の説明会では、実証実験に参加した企業や自治体の取り組み内容が一部紹介された。本記事ではその中から、セブン&アイ・ホールディングス、ユニバーサル・スタジオ・ジャパン、江崎グリコ、西武鉄道の実験内容をお伝えする。

セブン&アイ、気付きにくいニーズを知る手がかりをつかむ

 セブン&アイ・ホールディングスはデジタル戦略を積極的に推進している一社。同社執行役員でデジタル戦略部シニアオフィサーの清水健氏によると、デジタル戦略の中核にデータ戦略を位置付け、「量」「多様性」「価値」を軸に取り組みを進めてきたという。

 同社は、セブンID/アプリに加え、2018年6月にはANA ホールディングス、NTT ドコモ、東京急行電鉄、東京電力エナジーパートナー、三井住友フィナンシャルグループ、三井物産などと企業間データ連携のための研究会「セブン&アイ・データラボ」を発足させている。

 それでもデータは多い方がいいという考えで、DATA FORESTの実証実験に参加したという。「やってみると真のニーズを探る手がかりになる」と清水氏は話す。「本質的問題」「意外な悩み」「前提の変化」「隠れたニーズ」の4点で、手応えがあったという。

検索関連データは、ユーザー像を想定した上で関連検索、時系列推移などを分析できる

 「本質的問題」とは、「消費者にとってのより深い課題は何か」ということのようだ。清水氏は、新婚家庭の食関連ニーズを例に、これを説明した。

 2、3カ月前に婚姻届けや入籍についての検索を集中して行っていたヤフーユーザーを「新婚家庭」ととらえると、こうしたユーザーの検索トップ20のうち大部分はレシピ関連が占める。しかもその検索は、料理のメニューではなく、材料をキーワードとしているケースが多いことが分かった。買ってしまった食材を処理するのに困っている姿が思い浮かぶという。

 「これはミールキットの在り方を考えるきっかけにもなる」(清水氏)

 ミールキットは献立を調理する材料一式をセットにしたものだが、例えば「ホイコーローのミールキット」ではなく、「キャベツのためのミールキット」としてキャベツ抜きのホイコーローミールキットを企画すれば、単価が下げられると同時に、一部のニーズを満たせるかもしれないという発想が出てくるという。

 「意外な悩み」としては、例えば冬の服装関連検索で、忘年会用の服装を検索している人が数年で3倍に増えていることが分かったという。これに基づき、店舗などで忘年会のコーディネートを提案することも考えられるという。

 「前提の変化」の例として清水氏が挙げたのはおせち料理。おせちは重箱に多様な料理を詰め合わせたものという固定観念でとらえがちだ。だが、Yahoo!における「おせち」の検索を分析すると、20代、30代では「おせち おしゃれ」「おせち インスタ映え」といったワードが使われているケースが多いという。

 「おせちは『人に見せるためのもの』という考えが広まりつつある。単品で目立つような部品を商品化することも考えられる」という。

 「隠れたニーズ」の例としては、大みそかのレシピ検索で、鍋ではかに鍋、中華料理ではエビチリが多いといったことが分かった。こうした気付きにくいニーズを客観的につかむ手段として、ヤフーの情報を活用できるのではないかと清水氏は話した。

USJ、リピート率を高めるためのきっかけを模索

 ユニバーサル・スタジオ・ジャパン(USJ)は、テーマパーク来場者のリピート率向上を目的に、ヤフー検索における来場者の興味、関心の移り変わりを調べた。その結果、来場の3か月前から興味や関心が高まり、検索が増えていることが分かった。また、ホテルやチケットの手配前に、アトラクションやキャラクターについての関心が高まることが分かったという。とはいえ、競合パークに比べるとUSJは来場者の下準備の期間が短い。

 また、来場者が具体的にどのようなことを考えているのかを探るため、USJ関連検索を分析すると、園内のサービスに関してはベビーカー関連が多く、特にレンタルに関する関心や不安が大きいことが分かったという。

 USJでは、こうした情報を活用し、コミュニケーションの最適化やサービス改善を進めようとしているという。

江崎グリコ、具体的な商品開発のヒントをあぶり出す

 江崎グリコでは、女性のダイエットに関するYahoo!検索のトレンドを分析しているうちに、ある栄養素をキーワードとした検索が増加傾向にあることに気づいたという。

 江崎グリコ執行役員マーケティング本部商品開発研究所長の宮木康有氏によると、その栄養素の同時検索キーワードは「ダイエット」「女性」「筋トレ」関連が多く、「この栄養素を検索する人物像(検索傾向)は一般とは全く異なっていた」という。このように特定セグメントと一般母集団の過去検索ワードを比較することで、セグメントの特徴を把握できるという。

 宮木氏は、ヤフーのデータを活用することのメリットとして、「興味関心を定量化できる」「従来の方法に比べ時間が短縮できる」「現時点以前のデータが活用できる」を挙げた。

 江崎グリコは従来の市場調査の方法を捨てるわけではない。だが、消費者自身も意識していない未知のニーズを探知できる可能性があるとし、これに挑戦していきたいという。同氏はまた、商品研究所の研究員が携わることで、消費者理解への意識が高まったとしている。

西武鉄道、駅の混雑状況を予測

 西武鉄道は今回の実証実験で、西武球場前駅混雑状況をヤフーのデータから予測する取り組みを行ったという。同駅の混雑状況は、イベントの有無や種類により多様で、シンプルに予測することは難しい。だが、今回の実証実験で、「Yahoo!乗換案内」の前日時点の検索数と30分ごとの降車人数に高い相関があることが見いだせたという。

 これに基づき、同社では2019年秋以降、アプリを利用したテスト施策を実施する予定という。

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