クラウドに対する淡い期待を5つ持っていませんか?――富士フイルム柴田氏が明かす、現実とのギャップの解消方法特集:日本型デジタルトランスフォーメーション成功への道(10)(1/2 ページ)

近年、既存システムのクラウド移行を検討する企業が増えている。移行のハードルも下がってきており、「データを外に出せない」「セキュリティが心配」といった不安は着実に解消されつつある。一方で、クラウドに移行したにもかかわらず、「コストが増えた」「手間が増えた」といった声が聞こえてくるのは、なぜなのか? 自社に最適なサービスを選択し、「コスト削減」「ビジネスへの寄与」を実現するには何から始め、何をすればいいのか? どうすれば移行を成功させ、社内できちんと成果を評価してもらえるのか? 富士フイルムホールディングスの取り組みから「成果につながるクラウド移行」実現のポイントを探る。

» 2019年04月26日 05時00分 公開
[齋藤公二@IT]
富士フイルムホールディングス 経営企画部 IT企画部長の柴田英樹氏

 最も大切なのは、ビジネスのニーズ、課題を把握できているか否かです。クラウドとオンプレミスのギャップを可視化し、戦略性を持って臨まなければ、リフト以降の打ち手は見えてきません――そう主張するのは、富士フイルムホールディングス 経営企画部 IT企画部長の柴田英樹氏だ。

 AI(人工知能)、IoT(モノのインターネット)をはじめ新規領域の取り組みを加速させる一方、グローバルのビジネス全体を支えるSoR(システムオブレコード)領域のITモダナイゼーションを推進している富士フイルムホールディングス。以前からプライベートクラウドを構築、運用してきたが、より柔軟かつ堅牢(けんろう)な「デジタル時代のインフラ」へと強化すべく、ハイブリッドクラウド化を進めている。

 だが、ミッションクリティカルシステムを含む既存システムのクラウド移行は、決して簡単なことではない。少なくともコスト削減、運用負荷の低減といった目標だけで効果の創出や付加価値の提供へつなげることは難しい。そのような中、富士フイルムグループはどのような考え方とアプローチでリフト&シフトを進めているだろうか。

 2019年2月に開催された@IT主催セミナー「リフト&シフトをどう進めるか? 先行企業に聞く、『既存システムのクラウド移行』で確実に『成果』を収める方法」の基調講演に、柴田氏が登壇。「戦略なき移行は、リフトで終わる――『成果』を出すクラウド移行、あらためて見据えるべき『5つのギャップ』とは?」と題して、リフト&シフトの勘所を披露した。

ICTの観点から3つの領域でデジタルビジネスを展開

 富士フイルムの現在の事業は、カメラなどのイメージングソリューション、複合機などのドキュメントソリューション、電子材料やグラフィックス、再生医療、ライフサイエンスなどのヘルスケア&マテリアルソリューションという大きく3つの事業に分けられる。売上高構成比は、日本が約42%で、米州約19%、欧州約13%、アジアその他約27%と、海外でのビジネスが多いという状況だ。

 その中でデジタルビジネスには、ICTの観点から大きく3つの取り組みがある。1つ目は、材料の側面からICT社会をバックアップするもの。具体的にはストレージ材料、液晶ディスプレイ材料、タッチパネル材料、半導体材料などだ。2つ目はICTに接続される機器の提供。例えばデジタルカメラ、レンズ、プリント装置、メディカル機器などだ。3つ目はICTを活用したサービスだ。具体的にはデータ保存サービス、写真関連サービス、医療関連サービス、エンジニアリング関連サービスなどとなる。

ICT戦略とデジタルビジネス(柴田氏の講演資料から引用)

 「これらそれぞれでICT戦略を立案し実行しています。ICT戦略は、経営の重点課題に基づき、ICTで目指すことを策定し、そのための重点目標を設定して進めていきます」

 具体的には、ICTで目指すこととして「新しい価値の創出」と「企業価値を守る」という2つがあり、それを達成するために「データ活用による企業競争力強化」「ICT活用による事業変革/業務効率化」「業務プロセス標準化の徹底」などの重点目標がある。

ICTに求められる役割と富士フイルムが注力する4分野

 柴田氏はデジタル変革については全社を挙げて取り組んでいる状況だとし、次のように説明した。

 「ソーシャル化、オープン化、サービス化、スマート化によってデジタル変革が加速しています。デジタル変革の波は予想以上に大きく、当社では、その波は3つあると捉えています。すなわち、サイバーフィジカルシステム(CPS)、デジタルトランスフォーメーション(変革)、デジタルディスラプション(破壊)です」

 サイバーフィジカルシステムは現実世界がデジタルデータ化され、現実世界とITの一体化が進む「デジタルツイン」のような世界だ。また、デジタルトランスフォーメーションにより、ビジネスプロセスは機械を前提としたものへと転換し、人間と機械の役割が見直され最適化されていく。これにより、数倍から数十倍のスケールでの価値創出やエコシステムの創出が期待される。その一方で、デジタルディスラプションにより既存の常識や既得権益は破壊されていく。これら3つの波は否応なく企業を飲み込んでいくという。

 「これからのICTに求められるのは、『急激な変化への柔軟性、迅速性』『爆発的に増加するデータ量への対応』『IT基盤のコスト削減と構造変革』の3つだと考えています。当社では、これからの情報化社会について、センサーによる実世界の情報蓄積とデータ分析による知識が連携して、在宅診断や自動運転などのような取り組みがあらゆる産業で進み、それが新たな価値を生み、新しいサービス機能が創出されていくと展望しています。企業の競争力の基軸は『良質なデータを収集し、それを価値に変える能力』です」

 こうした現状認識の下、富士フイルムでは全社のICTとAIの戦略を策定。戦略は大きく4つの領域で展開しているという。まずは、市場でのゲームチェンジを目指すものとして、製品サービスを革新する「ヘルスケアソリューション、創薬支援」、材料実験のデータや解析データ、社会実験のデータを活用した「産業ソリューション、新素材探索」の2領域がある。また、経営、企業活動の業務革新を行うものとして、RPA(ロボティックプロセスオートメーション)や業務プロセス最適化を行う「本社、間接業務のAI支援」、生産ラインの最適化などを行う「販売、生産のデジタル化」の2領域がある。

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