Google Cloud CEOのトマス・キュリアン氏に、何を考えているかをできるだけ詳しく聞いた何を達成しようとしているのか(2/3 ページ)

» 2019年05月23日 05時00分 公開
[三木泉@IT]

――CIO(最高情報責任者)は、CEOなどからプレッシャーを受けながらも、急速な自己変革がなかなかできないと考えますか。

キュリアン氏 CIOは、自分たちが変化を進めるためのツールを必要としています。CIOはイノベーションや新たな機能の提供だけでなく、既存システムを安定的に稼働し続ける責任を担っています。そこで私たちは、CIOたちが物事をシンプルに考えられるようにする支援を進めています。CIOは、従来と同じか、さらに少ない人数で、より多くのことをこなすことを期待されていますが、これは非常に困難です。

 (2019年4月の)Google Cloud Next ’19では「Anthos」を発表しました。このサービスを開発した理由は、CIOがクラウドに関して抱える最大の課題に、スキルギャップがあるからです。

 多くのCIOは、「3、4種類のクラウドに関する運用スキルをスタッフに習得させるのに苦労している」と言います。そこで当社は、「IT部門のスタッフに1つのことを教えるだけで、既存の社内クラウド、Google Cloud Platform(GCP)、AWS、Azureなど、どこにでも適用できるようなツールを提供すべきだ」と考えました。

 Google Cloudは、CIOにとって物事が面倒になるようなことをしたいとは思いません。逆に物事をやりやすくしようとしています。(複数クラウドを利用する場合でも)1つのことについて訓練すればいいようにし、さらにGoogle Cloudのセキュリティや信頼性を活用することで、顧客におけるIT運用の複雑性を低減できるようにしたいと考えています。

 関連して、Google Cloudが高いアップタイムを達成していることは重要です。CIOが何らかのシステムをクラウドに移行し、ダウンタイムが発生すれば、社内ユーザーから文句を言われることになるからです。Google Cloudはこうした責任を引き受け、CIOの負担を軽くしたいと考えています。

クラウド事業者が推進する「マルチクラウド」の説得力とは

――(Anthosなどで)Google Cloudが打ち出している「マルチクラウド」というメッセージは心地よく響きますが、一方でクラウド事業者に強いリーダーシップを求めている顧客は多いと思います。例えばAWSは、強いリーダーシップを発揮して顧客を吸引してきました。Google Cloudの戦略を、こうしたAWSのやり方とどう対比しますか?

キュリアン氏 AWSとは、3つの点で根本的に異なると思っています。

 第1に、顧客は何のロックインもなく、複数のクラウドにワークロードを展開できる選択肢を持つべきです。Anthosを構成する技術は100%オープンソースソフトウェア(OSS)です。AWSはマルチクラウドを実現するサービスを提供していません。また、彼らの技術はオープンソースとして利用できません。

 第2に、顧客からは「インフラ基盤だけでなく、Googleが社内で使っている最高の技術を提供してほしい」という要望を受けてきました。これに応えてGoogle Cloudが提供している機械学習/AIサービスは、「最高なものの中でも最高」だと、事実上あらゆる人たちから評価されています。私たちはこれをAnthosの上で提供します。これによって顧客は、Google Cloudの機械学習/AI機能を、自社のデータセンター、GCP、その他のクラウドで活用できます。

 また、クラウドの世界で最終的に勝ち残るプラットフォームは、顧客に最大限の選択肢を提供するところだと考えています。これについての良い例は、Google Cloud Next ’19におけるOSS企業とのパートナーシップ発表です。

 顧客からは、「GCPのインフラはとても気に入っているが、(MongoDBなど)使いたいデータベースは決まっている。そこで、Google Cloudとの取引関係を通じ、このデータベースを直接使えるようにしてくれないか」と言われてきました。そこで、これを実現しました。これは競合他社のやり方とは異なります。他社は「データベースを使いたいなら、私たちのサービスとして使え」と言います。当社のパートナーとのエコシステムの構築方法は、競合他社とは大きく異なります。

 第3に、当社では非常に奥の深い、業界特化型のソリューションを提供しています。

 例えばヘルスケア業界では、デジタルヘルス関連の活動を推進しつつある多数の医療機関が、Google Cloudを採用しています。医療機関では、電子カルテや先進医療検証プログラムなど、複数システム間で情報が散在しています。Google Cloudでは、医療機関に対し、これらの情報を一括管理でき、これを基盤に単一の医療ワークフローを構築できるシステムを提供しています。こうした他社と異なるアプローチに、関心を示してくれる顧客は多数存在します。

――しかし、この記事の読者の多くは、「パブリッククラウドに求めるのは、自分たちが素早く立ち回ることを、抽象化された体験によって助けてくれることだ、そのためならある程度、ロックインと見られるようなことがあっても問題ない」と考えていると思います。これについてどう答えますか?

キュリアン氏 ロックインを避けながら、同じような素早さで立ち回れるとしたらどうでしょうか?

Anthosは、クラウドにおけるJavaのような存在

――では確認させてください。Anthosは、あなた自身、Google Cloud、そしてGoogle Cloudの顧客にとって、どれくらい重要ですか?

キュリアン氏 とてつもなく重要です。インターネットが利用され始めた頃、Webサイト構築ツールは全て、「ColdFusion」などのプロプライエタリなものでした。開発者は、プラットフォームごとに別のツールを習得しなければならないことに不満を抱いていました。そこに、「あなたは単一の技術だけを習得すればいい、それで好きなアプリケーションサーバにデプロイできますよ」というメッセージをひっさげ、Javaという開発言語が登場しました。その後のJava人気は、ご存じの通りです。

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