Google Cloudの新CEO、トマス・キュリアン氏は今、何を考えているのか。何を目標に事業をけん引しようとしているのか。他の主要パブリッククラウドとはどのように異なる戦略を描いているのか。Google Cloud Platform(GCP)大阪リージョンの発表のため、同氏が2019年5月に来日した機会を捉え、できる限り詳しく聞いた。
2019年4月に開催された「Google Cloud Next ’19」は、2018年11月にGoogleのクラウド事業部門であるGoogle CloudのCEOに就任したトマス・キュリアン(Thomas Kurian)氏のお披露目イベントとなるはずだった。だが、同イベントでキュリアン氏は、それほど多くのことを話したわけではない。
キュリアン氏は今、何を考えているのか。何を目標に事業をけん引しようとしているのか。他の主要パブリッククラウドとはどのように異なる戦略を描いているのか。Google Cloud Platform(GCP)大阪リージョンの発表のため、同氏が2019年5月に来日した機会を捉え、できる限り詳しく聞いた。
――キュリアンさんは「Google Cloud Next ’19」で、「クラウドはゼロサムゲームではない」と話していましたが、「Amazon Web Services(AWS)、Microsoft Azureに大きく引き離されて3番目の存在」というのは、素晴らしいとは言えないと思います。エンタープライズITバイヤーの多くは、実績や勢いを重視しますから。これについて、どう考えていますか?
キュリアン氏 第1に、どのアナリストが書いたレポートでも、「いずれかのクラウドへ移行したのは企業におけるITワークロードの5%以下」とされています。つまり、クラウドへの移行は、まだまだ初期の段階にあります。
第2に、ほぼ全ての企業が、「複数のクラウド事業者からのソリューションを使う」という意味でのマルチクラウドを望んでいます。この動きは日本も海外も同じです。Google Cloudは、真の意味でのマルチクラウドソリューション(筆者注:「Anthos」のこと)を提供し始めた最初のクラウド事業者です。
第3に、メディア企業最大手10社のうち9社、小売企業最大手10社のうち7社、エネルギー業界最大手10社のうち6社、銀行最大手10社のうち5社、その他主要な製造企業、通信事業者などがGoogle Cloudを採用しています。大手企業は、当社のサービスを既に使っているのです。また、デジタルネイティブ企業による利用も急拡大しています。Spotify、Twitter、Snapなど最大手の企業に加え、成長中のデジタルネイティブ企業による利用も好調に拡大しています。
現在、成長戦略として重視していることは、競合他社に比べてまだまだ規模の小さい、営業体制やパートナーシップ、カバー範囲の拡大で、これをかなり急いで進めているところです。
――「エンタープライズIT」は全て同一であるかのように、過度に一般化して語られがちです。しかし、各企業の属する業界やIT活用の経緯などによって違いがあります。また、事業部門と情報システム部門の間に緊張関係があるなど、社内の状況はさまざまです。こうした多様性に、どうアプローチしているのでしょうか?
キュリアン氏 当社では、企業内の4種類の人々に向け、ソリューションを提供していきます。
まず、CIO(最高情報責任者)に向けたソリューションとして、高度にスケールするインフラ、SAPをはじめとしたアプリケーションの移行支援、セキュリティ確保の支援など、CIOが意思決定権を持つ事項に関するソリューションを提供しています。
次に、Chief Digital Officer(CDO:最高デジタル責任者)、Chief Analytics Officer(CAO:最高分析責任者)、あるいはChief Innovation Officer(最高イノベーション責任者)に対しては、分析基盤や機械学習/AI機能を提供しています。
CDOは、例えば消費者のオンライン購買の仕方を変えようと考えます。当社はWalt Disneyに協力し、ユーザーがオンラインストア上で、写真を出発点として買いたい商品を選べるようにする機能を開発しました。これは、同社のCDOからの依頼が発端でした。
第3のグループはCMO(最高マーケティング責任者)です。既に広告では付き合いがありますが、こうした人々は、Google Cloudの分析機能を通じて広告支出と電子商取引の売り上げ、サプライチェーン関連情報などを結び付け、顧客の購買行動をより良く理解したいと考えています。このため、「Cloud for Marketing」と呼ぶソリューションなどを提供しています。
最後に、CEO(最高経営責任者)がいます。CEOに対しては、デジタルトランスフォーメーションへの取り組みを具体化する支援を、数多く手がけてきました。例えば小売業界では、多くの企業がオムニチャネル対応を進めています。そこで多くの場合、会社をどう変えていくか、さまざまなチャンネルを通じ、どのような価格戦略で、どう効率的に商品を販売していくかなどにつき、CEOと話し合うところからスタートします。日本でのいい例は、ファーストリテイリングです。同社との関係は柳井さん(代表取締役会長兼社長の柳井正氏)との会話から始まりました。
あなたが言うように、私たちのサービスのバイヤーは多岐にわたります。このため、私たちはそれぞれに向けたソリューションを推進しています。
――今挙がった人々のうち、Google Cloudではまず、(最高情報責任者以外の)CEO、CDO/CAO、CMOに注力しているのでしょうか?
キュリアン氏 業界によって異なります。メディア、小売業、ヘルスケアといった業種では、CIO(最高情報責任者)を絡めて、CEO、Chief Innovation Officer、CDOと話すことが多いです。一方製造業で、例えばロジスティクスの責任を担っているのは、多くの場合CIOやCEOではありません。製造責任者です。業種に応じ、顧客側の調達責任者は異なります。
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