マルチユーザーのAR環境にはリスクあり、ワシントン大が対応ツール開発仮想空間の一部をプライベートに

ワシントン大学のセキュリティ研究者チームは、マルチユーザー拡張現実(AR)環境向けのツール「ShareAR」を開発した。AR環境を複数ユーザーが共有し、プライバシーやセキュリティを犠牲にすることなく、一緒に遊んだり作業したりできる機能をアプリケーションに組み込むことができる。

» 2019年08月26日 15時00分 公開
[@IT]

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 現在は、個人がそれぞれ個別の拡張現実(AR)環境を利用する段階にある。AR環境内でのユーザー同士の相互作用はまだあまり進んでいない。だが、近い将来、グループで進める共同作業やクリエイティブなプロジェクトにARを利用するようになるだろう。

 ARを複数ユーザーが共有した場合、プライバシーやセキュリティに課題が生まれるという。ワシントン大学のセキュリティ研究者チームは、これらの課題に対応するツールキット「ShareAR」を開発した。AR環境でインタラクティブなコラボレーションを実行する機能をアプリケーションに組み込むことが可能だ。

「ARに固有な」セキュリティやプライバシーがある

 同大学のPaul G.Allen School of Computer Science&Engineeringで助教授を務めるFranziska Roesner氏によれば、今回の研究の背景にある考え方はこうだ。

 「サイバーセキュリティとプライバシーの研究では新興技術による将来のリスクを予測し、対処することが重要である」

 Roesner氏は「マルチユーザーARは多くの可能性を持っている。だがそこで起こり得るセキュリティやプライバシーに関する課題について、体系的なアプローチが存在しない」との認識を示す。

 同大学の学部学生でプレゼンテーションを行ったKimberly Ruth氏によれば、課題はこうだ。

 「仮想オブジェクトの共有は、クラウドベースのプラットフォームでのファイル共有に似ているが、大きな違いがある。ファイル共有はPCなどの画面上にリストとして表示されるだけだが、AR環境では、ARコンテンツが周囲の物理的世界に組み込まれる。そのため、ARに固有のセキュリティやプライバシーを考慮しなければならない」

 例えば、ユーザーが不適切な仮想イメージを公園などの物理的な公共空間に追加したり、教会に下品なメッセージを落書きしたり、他のユーザーの背中に「蹴ってください」という仮想の張り紙をしたりする可能性がある。

 「誰かがAR空間内で他人をいじめようとしたり、スパイしようとしたり、他のユーザーのARコンテンツを盗もうとしたり、破壊しようとしたりしたときに、ARテクノロジーがどのように反応するかを考えたかった。AR技術を使ってコンテンツを共有するという利点を生かしつつ、ARの開発者に機能とセキュリティの二者択一を迫ることは避けたかった」(Ruth氏)

 研究チームはこうした問題に対処するため、プロトタイプツールキットであるShareARを開発した。ShareARは、ユーザー間で共有されるオブジェクトをアプリケーションが、作成、共有、追跡できるよう支援する。プロトタイプでは「Microsoft HoloLens」に対応した。

プライベートな仮想コンテンツにも対応する

 マルチユーザーARではこの他にも対応しなければならない潜在的な課題がある。

 具体的には、ユーザーごとにプライベート仮想コンテンツの物理的な位置を示す方法が必要になる。これはAR開発者が対応しなければならない。

 なぜなら、他のユーザーが偶然に、プライベート仮想コンテンツを登録したユーザーとそのコンテンツの間に入ってしまうことを防ぐためだ。これは現実世界で視聴者とテレビの間に立ち入ってしまうことに相当する。そこで研究チームは、ShareARのために「ゴーストオブジェクト」を開発した。

開発したアプリの例 研究チームは、3つのケーススタディーアプリでShareARをテストした。Cubist Art(図上)では、ユーザーは仮想アートワークを作成し、他のユーザーと共有できる。Doc Edit(図左下)では、ユーザーは仮想メモやリストを作成し、共有するか、プライベートに保つことができる。左上隅にある半透明でグレーの板状の物体が、ゴーストオブジェクトの一例だ。ここでは、他のユーザーがプライベートにしておきたいドキュメントを表している。Paintball(図右下)では、ユーザーは仮想ペイントボール(塗料入りの仮想の弾丸)で遊べる。

 ゴーストオブジェクトには単にモノの位置を示す以上の役割がある。

 「ゴーストオブジェクトは、仮想オブジェクトのプレースホルダー(印)として機能する。仮想オブジェクトと同じ物理的位置を占め、ほぼ同じ大きさを持つ。だが、元のオブジェクトに含まれる機密情報は表示しない。このアプローチのメリットは、私がAR空間内で『仮想プライベートメッセージウインドー』を操作しているとき、他のユーザーがこっそり肩越しにのぞき見できないことだ。従来の手法では仮想壁を用いていたが、われわれの手法の方が優れている」(Ruth氏)

 なお、ゴーストオブジェクトは「仮想壁」とは異なり、どの角度から見てもプレースホルダーとして機能するという。

処理性能の低下は起きない

 研究チームはShareARを3つのケーススタディーアプリでテストした。どのような処理をすると計算負荷が高くなるかを調べるためだ。

 その結果、オブジェクトの作成と、アプリ内での権限設定の変更が、最も計算負荷の高いアクションだと分かった。だが、研究チームがユーザーや共有オブジェクトの数を増やして高い負荷をかけようとしても、ShareARの処理性能は十分だったという。

 タスクの完了には最大で5ミリ秒しかかからなかった。大抵の場合は1ミリ秒未満でタスクを完了した。

 研究チームは2019年8月14日、米カリフォルニア州サンタクララで開催された「USENIX Security Symposium」において、研究成果のプレゼンテーションを行った。ShareARは、HoloLensアプリケーションの開発者向けにダウンロード配布されている。

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