今後の企業におけるインフラ&オペレーションに影響を与える10のトレンドGartner Insights Pickup(130)

これからのデジタルインフラのサポートに向けては、重要な技術とトレンドを押さえることが求められる。Gartnerが選んだ、インフラおよび運用に関するトレンドのトップ10(2019年版)をお届けする。

» 2019年10月25日 05時00分 公開
[Katie Costello, Gartner]

ガートナーの米国本社発のオフィシャルサイト「Smarter with Gartner」と、ガートナー アナリストらのブログサイト「Gartner Blog Network」から、@IT編集部が独自の視点で“読むべき記事”をピックアップして翻訳。グローバルのITトレンドを先取りし「今、何が起きているのか、起きようとしているのか」を展望する。

 今日の企業では、インフラ&オペレーション(I&O)は以前は無縁だった領域でますます重要な役割を果たすようになっている。I&Oの担当リーダーは守備範囲を大きく広げ、データセンターやコロケーション、クラウドといった技術的な要素を統括するだけでなく、「I&Oはどのようにビジネス戦略を支え、実現できるか」も追求するようになっている。

 「I&Oは今、劇的に進化している」と、Gartnerのシニアディレクターアナリストを務めるロス・ウィンザー氏は語る。

 「I&Oで肝心なのは、もはやハードウェアやソフトウェアではない。ビジネスニーズを満たすサービスを提供することが肝心だ。インフラの未来がどこにあるかについては、あらゆる可能性がある。それを決めるのは、ビジネスでインフラをどう使うかだ」(ウィンザー氏)

 ITリーダーは既存のオペレーションを維持するとともに、こうしたI&Oの新しい役割に適応しようと奮闘する中で、短期計画よりも長いスパンで先行きを展望する時間はなかなか取れない。ウィンザー氏はI&Oリーダーに、これからのデジタル・インフラストラクチャのサポートに向けて、10の重要な技術とトレンドの影響に備えるよう呼び掛けている。

(出典:Gartner)

トレンド1:サーバレスコンピューティング

 サーバレスコンピューティング、特に「FPaaS」(Function Platform as a Service)と呼ばれる機能は、インフラのプロビジョニングや管理を不要にする新しいソフトウェアアーキテクチャパターンだ。ユーザーはインフラの明示的なプロビジョニングや管理を行わなくても、関数として用意したコードを実行できる。FPaaSをとりわけ興味深いものにしている2つの特徴は、高速なスケーリングと、きめ細かな課金だ。サーバレスは、コンテナや仮想マシン(VM)に取って代わることはないが、ユーティリティーロジックの必要性や予測不能な需要、イベントドリブン方式の必要性に対応できる。

 このトレンドは、2020〜2022年に主流になる見通しだ。既にIT部門の10%がサーバレスコンピューティングを利用している。ウィンザー氏は、ITリーダーにサーバレスコンピューティングにおける機会と限界について学び始め、ベストプラクティスを見つけ、テストケースを試し、知識とスキルを身に付けることを勧めている。

トレンド2:AIの影響

 Gartnerによると、世界でAIによって生み出されるビジネス価値は、2022年には3.9兆ドル近くに達する見通しだ。ITリーダーはI&Oの観点から、次のことを考えなければならない。「担当者の新規採用がうまくいくとは限らないことを踏まえると、拡大するインフラのサポートにAIを活用することで、どのような価値を生み出すべきか」

 AIはI&Oにおいて、障害検知や予測分析などの機能を実現するために利用されると予想される。これにより、IT担当者はより多くのことをより迅速に行い、スタッフを必ずしも増やさなくても、インフラを拡張できるようになる。このトレンドは、2021〜2023年に本格化する見通しだ。

トレンド3:ネットワークのアジリティ(またはその不足?)

 ネットワークは、ITとビジネスが依存するあらゆるもの(クラウドサービス、IoT、エッジサービスなど)を支え、実現する。これからもそうだろう。ネットワークチームは、可用性の向上に精力的に取り組み、大きな成果を挙げてきた。だが、将来にわたって成功を収めるには、今後は、ネットワークオペレーションのより迅速な実行を推進する必要がある。AIの活用と、自動化およびオーケストレーションを通じた“ネットワークのアジリティ”の実現が、それを可能にする。

 ネットワークチームは2019年以降、ビジネス部門と密接に協力すべきだ。5G(第5世代移動通信システム)とエッジコンピューティングで新しい機会が生まれるからだ。同様に、クラウドの成熟化がネットワークを圧迫し、“モノ”とエンドポイントの規模が拡大しており、ネットワークは、こうした状況に伴って変化するニーズへの対応をサポートできるように進化しなければならない。

 企業は今、ネットワークのアジリティの実現に取り組むべき重要な時期を迎えている。

トレンド4:データセンターの終焉(しゅうえん)

 Gartnerは、2025年までに企業の80%が、従来型のデータセンターを閉鎖するだろうと予想している。実際、既に10%の企業が閉鎖している。このデータポイントは、全てがクラウドに移行するということを意味しているわけではない。だが、ITリーダーは、現在および将来のワークロードをどこに配置するかを、技術の観点からではなく、ビジネスの観点(顧客エンゲージメント、GDPR規制など)から考え始める必要がある。

 「企業は、オンプレミスとクラウドの両方でアジャイルインフラ環境を構築する必要がある。そうすべき重要な時期は2021〜2025年だ」(ウィンザー氏)

トレンド5:エッジコンピューティング

 ほとんどの人は「エッジコンピューティング」と聞くと、こんな疑問がわく。「エッジコンピューティングとは何か」「なぜ気にしなければならないのか」「自分にどんな影響があるのか」。エッジコンピューティングでは、特定のビジネス課題の解決を目的に、ワークロードを顧客の近くに配置できる。エッジコンピューティングは物理法則や、経済的および地理的条件に関係する。これらはいずれも、エッジをいつ、どのように使用するかを左右する要因になる。

 例えば、「Web企業は、Webページがブラウザに表示されるまでに2秒かかるだけで、表示が遅いという理由で顧客を失う」という調査がある。エッジコンピューティングは、レイテンシの低減に利用でき、今後、高品質のデジタルエクスペリエンスを求める需要に対応するために、ますます使われるようになるだろうと、ウィンザー氏は見る。このトレンドは、2020〜2023年に本格化する見通しだ。

トレンド6:デジタルダイバーシティの管理

 デジタルダイバーシティ(多様性)管理は、人に関するものではない。モダンデジタル企業で使用されるさまざまな資産や技術が爆発的に増えており、デジタルダイバーシティ管理は、それらの管理を指す。「ビジネスに直接影響を与える、あるいはビジネスを直接サポートするこうした資産や技術の特定、発見、モニタリングの重要性を軽視してはならない」と、ウィンザー氏は語る。

 このトレンドから生じる課題として、“分析まひ”からの脱却、正確なインベントリの維持、可視化不足による膨大な無駄の回避、資産管理が挙げられる。このトレンドは、2020〜2025年に本格化する見通しだ。

トレンド7:I&O部門での新たな役割

 このトレンドは、I&Oがクラウドサービスをサポートする役割を担うようになり、アグリゲーション、カスタマイズ、統合、ガバナンスに関するスキルが要求されるようになっていることに関係する。クラウドサービスにおける最大の課題の1つは、予想外のコストが発生する可能性があることだ。企業がI&Oにコストの最適化や複雑さの簡素化を期待する中、I&Oは、多くの新タイプのサービスに関するブローカー、サポート、ガバナンスの機能を進化させなければならない。

 このトレンドは、2019年から本格化している。

トレンド8:SaaSの拒否

 SaaSは、早くから多くの企業で使いたいという要望が多かった。だが、ほとんどのIT担当者はまだ、IaaSやPaaSソリューションの提供とサポートに非常に力を入れている。「SaaSへの移行は、I&Oのしっかりしたサポートによって支えられなければならない。I&Oスタッフは、セキュリティとコンプライアンスの観点からSaaSを掘り上げて把握し、自社が期待するエンタープライズ統合やサービスデリバリーの機能を提供する必要がある」(ウィンザー氏)

 このトレンドは、2019〜2021年に本格化する見通しだ。

トレンド9:人材管理が極めて重要に

 ITスタッフは従来、管理対象の技術分野に基づいて縦割りで編成されてきた。企業は依然として深い技術やノウハウを必要としているが、ITスタッフがチーム間で横断的に仕事を行い、より良く協力することも求めるようになっている。

 ITスタッフに、自分の担当する技術分野を超えて考えてもらうのは難しい。従来モデルでは、ITスタッフは特定の技術分野の専門家として報酬を得ているからだ。そのため、ITリーダーはカルチャーハックによって、スタッフが殻を破るように後押ししなければならない。「ハイブリッドインフラの成功は、それを支える人材にかかっている」と、ウィンザー氏は語る。このトレンドは、既に本格化している。

トレンド10:グローバルインフラストラクチャの実現

 企業の顧客基盤とサプライヤーの陣容が世界規模に拡大すると、I&Oリーダーは、“インフラをどこでも”提供する必要がある。そこで問題になるのが、「I&Oリーダーは、どうすれば現実的な予算内でそれを実現できるか」だ。

 企業のデジタル化も大規模に進んだ場合、I&Oチームとそのパートナーにとってはハードルが上がる。リーダーは、適切なパートナーシップ戦略を見極め、充実した機能とサポートを提供するエコシステムを構築しなければならない。

 「パートナーは賢明に選択する必要がある。今後、インフラを進化させ、スケーリングする上で、パートナーからの支援は大きな役割を果たすからだ。Bチームと組んではならない」と、ウィンザー氏はアドバイスする。このトレンドは、2020〜2023年に本格化する見通しだ。

出典:Gartner Top 10 Trends Impacting Infrastructure & Operations for 2019(Smarter with Gartner)

筆者 Katie Costello

Manager, Public Relations


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