カリフォルニア大学サンタバーバラ校教授でGoogleのリサーチサイエンティストを務めるジョン・マーティニス氏の研究グループが、53個の量子ビットを持つ量子コンピュータにより、量子超越性を実証した。
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カリフォルニア大学サンタバーバラ校の教授で、2014年からGoogleのリサーチサイエンティストを務めるジョン・マーティニス氏の研究グループが、53個の量子ビット(qubit)を内蔵する量子プロセッサ「Sycamore」を内蔵した量子コンピュータを使って、従来の古典的コンピュータでは困難と考えられていた問題を解決し、「量子超越性(Quantum Supremacy)」を実証した。
研究グループのメンバーである大学院生のブルックス・フォクセン氏によると、同グループの量子コンピュータは、従来のスーパーコンピュータでは1万年かかると推計される計算を200秒で実行した。約15億倍高速に計算したことになるという。
この成果をまとめた論文が2019年10月23日付で科学誌「Nature」の電子版で発表された。
研究グループのメンバーであるもう1人の大学院生ベン・キアロ氏によると、同グループは、量子コンピュータの強みを強調するアルゴリズムを選択した。量子コンピュータが膨大な量の複雑な非構造化データを保持し、高速に操作する能力を実証するためだ。
「われわれは基本的に、全ての量子ビットを包含するもつれ状態を、できるだけ高速に実現したいと考えた。そこで、複雑な重ね合わせ状態を生成する演算シーケンスを決定した。この重ね合わせ状態は、測定時に、その特定の重ね合わせを準備するために使われた演算シーケンスによって規定される確率で、出力(ビット列)を返すものだ」(キアロ氏)
さらに、キアロ氏は次のように説明する。「われわれは、53量子ビットを『量子もつれ』によって複雑な重ね合わせ状態にする所定の演算を実行した。この重ね合わせ状態は、確率分布を符号化する。量子コンピュータでは、この重ね合わせ状態の準備は、数十の制御パルスのシーケンスを各量子ビットに対して数マイクロ秒ずつ適用することで実現した。われわれは、量子ビットを200秒間に100万回測定することで、この分布を標本化できる」
また、フォクセン氏は次のように説明する。「従来のコンピュータでは、こうした演算の実行ははるかに難しい。2の53乗通り(量子ビットの数)の状態のいずれについても、出現確率を計算しなければならないからだ。もともと、こうした膨大な規模の演算に対応できることが、人々が量子コンピューティングに関心を持つ理由だ。こうした演算は行列乗算を必要とするが、従来のコンピュータでは、行列の規模が大きくなると、コストがかさんでしまう」
論文によると、研究グループはクロスエントロピーベンチマーキングという方法を使って、量子回路のビット列と、「従来のコンピュータ上のシミュレーションで計算した対応する理想確率」を比較し、量子コンピュータが正しく機能することを確認した。
今回の実験は、量子コンピュータの概念実証として選択したものだ。今回の成果からは、非常に実用的で価値ある乱数ジェネレーターが得られたことになる。暗号化の鍵が推測できないことはもちろん、巨大なデータ集団から得られたサンプルが真に代表的であることを保証し、複雑な問題と堅牢な機械学習アプリケーションのための最適なソリューションにつながる成果だ。
量子回路がランダムなビット列を生成する速度が極めて高速であるため、システムを分析し、“だます”時間はないという。
フォクセン氏は今後について、「近い将来、“ノイジー”な量子ビットの改良が進み、熱化現象など、量子力学の興味深い現象のシミュレーションが可能になったり、素材や化学といった分野の大きな可能性が探索されたりするかもしれない」と述べている。
だが、長期的には、研究者は引き続きコヒーレンス時間を改善し、エラーの検出、訂正にも取り組んでいく。量子ビットのエラーに対応するためには、チェック対象となる量子ビットごとに多くの追加的な量子ビットが必要になる。こうした取り組みは、これまでも量子コンピュータ自体の設計、構築と並行して行われてきたものだ。
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