エンジニアはプロマネに、プロマネは顧客に、なぜ「助けてください」と言わないのだろう?――IT“業界”解説シリーズ、第6弾はベンダーの営業やプロマネの安請け合いを考えます。
複雑怪奇なIT“業界”を解説する本連載、第1弾はIT業界にまん延する多重下請け構造と偽装請負について、第2弾は多重下請け構造が起こる仕組みについて、第3弾はシステム開発プロジェクトには複数の契約形態が混在することを、第4弾はユーザーはなぜプロジェクトに協力したがらないのか、第5弾は「案件ガチャ」が起こるメカニズムを、説明した。
今回は、ベンダーのフロントの謎を解説する。彼らはなぜ、内実も知らずに(もしくは、知っているのに)「お任せください」と約束してしまうのか――。
私が裁判所でよく聞いた言葉の1つが、ITベンダーの「お任せください」でした。
プロジェクトの進捗(しんちょく)が徐々に遅れてきた、技術的な困難にぶち当たった、あるいはテストやレビューで予想外に多くの不良が見つかった――こんなときに、ベンダーがプロジェクトの不健全性を認めず、「お任せください」と言い続ける。やがて、どう頑張っても回復の見込みがないことを隠し切れなくなったときに、「実は……」とスケジュールや機能あるいは費用の見直しを申し出る。これが、法的紛争に陥る典型的な1つのパターンです。
ずっと隠しておいてどうにもならなくなってから言い出されたら、顧客は手を打てません。契約を解除して損害賠償を求めるか、そこまでいかなくても、大幅なスケジュール遅延と品質不全を抱えて、プロジェクトが破綻し、皆が不幸になってしまうことは避けられません。
このような、いい加減な「お任せください」には現場のエンジニアも泣かされます。
私もエンジニア時代、不具合の解消法がまだ分かっていないのに、客先訪問で同行した営業担当者が「大丈夫です」と胸を張るのを見て驚いたことがあります。1カ月はかかる仕事を「1週間でやります」と大見得を切る上司に半べそをかきながら抗議した思い出もあります。いずれの場合も、苦労するのはエンジニアですし、失敗して怒られるのも自分です。その場限りで調子の良いことを言っても、結局は皆が不幸になるだけです。
これらはつまるところ、プロジェクトマネジャー(プロマネ)がリスクや課題にうまく対処できなかった――つまり「プロジェクト管理能力不足」故の問題です。では、この能力を獲得するためにベンダーのプロマネたちに求められるのはどんなことなのでしょうか。そして、現場のエンジニアには何ができるでしょうか。
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