なぜプロマネや営業は、顧客に「お任せください」と言ってしまうのでしょうか。
他業種と比べて格段にリスクや課題が大きく、全く不具合のない状態など考えられない、というのはIT業界の常識です。しかし日本では「お客さまは神様」という意識が染み付き、お金をもらったからには決して迷惑を掛けるものではないという考え方が主流です。相手は神様ですから、「問題(リスク、課題、品質不良)」はあってはならないものであり、「迷惑を掛ける」のは信頼を落とすことです。だから、「悪い知らせはできない、自分たちだけで何とかしよう」という考えになるのではないでしょうか。
さらに、こうした見せかけの「お任せください」の裏には、ベンダーの「顧客を信頼しないメンタリティ」があるのではないか、と私は思います。
プロジェクトの実情を話したところで、自分たちにメリットはない。顧客は何もしてくれないばかりか、不安な顔で文句を言うか怒鳴るばかり。今後の付き合いを考えると「余計なこと」は言わない方が得だし、説明したり、それ用の資料を作ったりする工数だって惜しい。残業でも何でもして頑張って、顧客には気付かれないうちに何とか収めたい。
プロマネや営業には、こんな気持ちがあるのではないでしょうか。
エンジニアたちも、評価の下落や人間関係の破綻を恐れて本当のことが言えない。それはつまるところ、「たとえ失敗しても、プロマネや上司は分かっていてくれる」という信頼が欠如しているからでしょう。
私は現在、顧客側の立場で仕事をしています。こちら側に入って分かったのは、ユーザーは、ベンダーが困ったと言ってきたら、どうやったらプロジェクトを良い方向に転換できるのか一緒に考えたいし、落としどころ(分割リリースや機能削減、あるいは顧客が何かの作業を手伝うなど)を探したいと思うものだということです。
実際、顧客が怒鳴り散らすばかりで何もしてくれないケースも皆無とはいいません。そうした場合というのは、「1 自分たちが口を挟まないでも、最後はベンダーが何とかしてくれそうだと感じている」「2 このプロジェクトは壊れても仕方ないと見捨てている」「3 顧客企業は何もしないでもソフトウェアができると信じている」のどれかかと思います。
「2」や「3」の場合は、顧客が「プロジェクトを救うために何かできないか」とは考えてはいないでしょう。その場合は、そのプロジェクトの継続自体を再考した方がいいかもしれません。また、こうした顧客とは、今後の付き合い方を考え直すべきでしょう。
しかし、こうした顧客は少数派です。多くは、プロジェクトがピンチになれば、一緒に乗り越えたい、何か協力できないかと考えているものです。顧客のこうした気持ちをベンダーが信頼していないこと、これは失敗プロジェクトに見られる大きな特徴の1つです。
もちろん、この際、顧客担当者が物理的に怒鳴ったとか、怒っているとかは関係ありません。解決のために何かしてくれるか、そうでなくてもベンダーの申し入れを真剣に聞いてくれるか、が問題です。
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