ユーザーはなぜ、自社のシステム開発に協力しないのか本業が忙しいから、お手伝いはできないよ(1/4 ページ)

「受け入れテストのデータを作ってください」「ウチがやるの?」――IT“業界”解説シリーズ、第4弾はユーザー企業の「なぜ?」を解説します。

» 2019年08月26日 05時00分 公開

 複雑怪奇なIT“業界”を解説する本連載、第1弾はIT業界にまん延する多重下請け構造と偽装請負について、第2弾は多重下請け構造が起こる仕組みについて、第3弾はシステム開発プロジェクトには複数の契約形態が混在することを説明した。

 今回は「ユーザー」の謎を解説する。彼らはなぜ、いつも当事者感覚がないのだろうか――。

お任せ体質ユーザーの末路

 私はこれまで、システム開発のトラブルに関する連載や研修などを行うために、さまざまなIT訴訟について調べてきました。

 悪い意味で印象的だったのは、ある清涼飲料水メーカーの在庫管理システム構築に関するトラブルです。ユーザー企業の担当者たちの知識不足、そしていわゆる「お任せ体質」がベンダーの作業を遅らせ、ついにはプロジェクトを破綻させてしまった事件でした。

 このプロジェクトは、「清涼飲料水を製造する工場で、製造に使うさまざまな原材料や部品の在庫を管理するシステムをリニューアルしよう」というものでした。担当者は、本社から移動してきたばかりの3人の管理職。彼らは清涼飲料水を作るプロセスをまるで知らず、在庫に関する基本的な言葉すらあやふやでした。

 要件定義でベンダーが在庫管理についてさまざまな質問をしても、まともな回答ができないばかりか、工場で使っていた「マイナス在庫」と言う費目について、「そんな言葉は知らない、システムはそんなものに対応する必要はない」と言い切ってしまう始末でした。

 知識も学習する意欲もなく、ITに関する知識も不足している。そんな彼らに有効な要件の定義や情報提供などできるわけもなく、いわゆる「ベンダーお任せ状態」になってしまったのです。

 当然のことながらプロジェクトは失敗し、まともなシステムを導入することのできなかったユーザーは、ベンダーへの支払いを拒みました。しかしベンダーは「失敗の原因はユーザーにこそある」と、費用の支払いを求めて裁判を起こすまでに至りました。結果は当然、ベンダーの勝利です。

 この例は極端かもしれませんが、通常の企業や組織でも、担当者のITに関する知識不足とモチベーションの低さから、その関与率が不十分となり、プロジェクトをベンダーに任せざるを得なくなるという姿は、よく見られるのではないでしょうか? いえ、もしかしたら、そうした姿の方が多数かもしれません。

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