学生の就職活動を支援するための「人材」サービスが、本人の権利利益をないがしろにして己の利益のためだけに野放図に使っていたことこそが、問題だ!(by厚生労働省)――リクナビ事件の問題点を、鈴木正朝、高木浩光、板倉陽一郎、山本一郎の4人がさまざまな角度で討論した。※本稿は、2019年9月9日時点の情報です
2019年9月9日(月)に一橋講堂で一般財団法人情報法制研究所主催の「第2回JILIS情報法セミナー in 東京」が開催された。
学生の就職活動(就活)を支援する大手企業が、行動履歴などを人工知能(AI)で分析し、5段階にスコア化した「内定辞退予測」を一部本人に無断で企業に販売していたことが広く報道され、社会的に問題となった他、行動履歴などを分析し販売する「信用スコア」を問題視する声も聞かれていた。
本稿は、本セミナーの冒頭で行われた4人の有識者による討論(プライバシーフリーク・カフェ)の模様をお伝えする。
山本一郎(以降、山本) われわれは「プライバシーフリーク・カフェ(PFC)」という名称で5年にわたって活動しております。情報法と社会についてのいろいろなお話を、主に新潟大学の鈴木正朝先生、高木浩光先生、そして板倉陽一郎先生と私山本一郎の4人でやらせていただいているものでございます。
今日は台風にもかかわらず500人もの方にお越しいただいて、このような場が持てたことは非常な喜びであります。今回の就活情報にまつわる問題については、われわれも非常に重視しています。しかし、リクナビだけの問題と捉えて、声を大きくして「リクナビはイカンのではないか」と話すだけで終わるものではないとも思っています。
今回はその辺りを、依田高典先生や倉重公太朗先生にもお話をいただくのですが、その前さばきとして、われわれがリクナビ事案の概要と問題点、テーマについてお話ししながら、この問題がどういう奥行きがあるのか、さらに経過や処分を含めたあるべき方向性について考えながら進めていきます。よろしくお願いいたします。
まずは事実関係について、高木先生からお話を伺います。リクルートキャリアの問題は非常に大きな騒ぎになりました。概要、事実関係をお話しいただけますか。
高木浩光(以降、高木) リクナビの事例は、図の左側にある「Webサイトの閲覧履歴(就活生が閲覧したもの)をリクルートキャリアが取得し、これを基に分析した結果、一人一人が内定を辞退する可能性を5段階で評価し、求人企業に提供していた」ということです。
当初、38社という数字がありましたが、後の会見では、34社に提供していて残り4社は事情があって提供しなかったというものだったようです。内定辞退予測スコアをどうやって算出していたのかは、まだ完全に明らかになっていないように思えます。
山本 同業他社でも手掛けているとされる、今までの「エントリーシートを機械学習をさせて辞退率を割り出す方式」に加えて、「学生が過去にどのようなWebを閲覧したのかを、Cookieの名寄せをして個人突合をして、その学生が内定後に企業の採用ページに行ったところを捕捉し、採用可否に関する情報として提供した」のではないか、という報道が幾つかありました。ただ、これに関しては公式な回答が出ていないと思うのですが、いかがでしょうか。
高木 山本さん話を急ぎ過ぎです(笑)。順に説明していきます。
日本経済新聞が報じたリーク資料によると、折れ線グラフが出てきます。辞退の可能性が上がったり下がったりしていく情報を随時提供するものだったようです。Webの閲覧履歴と本人とをひも付けるために、データを購入する求人企業に一定の作業をしてもらわないといけないので、その作業方法を説明する営業用の説明資料のようです。ここには「貴社から配布するアンケート内に個人IDをひも付ける」などと書かれています。
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