Next Gen Statsは放送などでリアルタイムに表示する他、専用Webサイトでさまざまなデータや分析を公開している。また、NFLチームは、これを選手のトレーニングやスカウティングに生かしているという。NFL選手の健康に関する今回の共同発表は、この関係をベースとしているという。
今回の取り組みにおける軸の一つとなるのは、コンピューターシミュレーション。AI担当バイスプレジデントのマット・ウッド(Matt Wood)氏は、「選手への負担をかけない形で、調査を進めることが重要」といい、そのための有力な手法としてシミュレーションを採用すると話した。
NFLは、一部のスタジアムに「True View」と呼ばれる、最多で38台のビデオカメラによる動画撮影システムを導入、これらによるさまざまな角度からの試合映像を膨大に蓄積している。一方、Next Gen Statsでは、選手の装着しているRFIDタグのデータから、精度の高い位置情報、速度、加速度などが取得できる。これらを合わせ、選手の動きをきめ細かくスケルトンとして表現する。例えば衝突の角度は、脳へのインパクトに大きな影響を与えると考えられているが、このスケルトンでは角度を忠実に再現できるという。
その上で、「インバースダイナミックス(Inverse Dynamics)」と呼ばれる手法を適用し、外形の動きから、体内における力の働き方を算出する。これを基に、前述の衝突角度をはじめとした条件をさまざまに変えてシミュレーションを実行し、脳への影響を算出するなどが可能という。
こうしたシミュレーションを含む分析で、「選手の動きとけがの関係を、推測するのではなく定量化するという、今までには不可能だったことができるようになる。既に、けがにつながる動きとつながらない動きを見分けられることができるようになっている」と、NFLエンジニアリング委員会委員長のジェフ・クランダル(Jeff Crandall)氏は説明した。NFLとAWSは、こうしたシミュレーションと症例データを組み合わせることも検討しているという。
シミュレーションから得た知見は、さらに安全なヘルメットの開発の他、例えば危険なプレーを防ぐためのルール改正や、選手が自身を守るために心がけるべきプレー方法、チームの指導方法についてのアドバイスなどにつなげていくという。また、将来的には、脳損傷に加え、NFLにおけるけが全般に、対象を広げていきたいとしている。
NFLはさらに組織の壁を越え、高校や大学のアメリカンフットボールチームや、アメリカンフットボール以外のスポーツへの働きかけも進めていきたいという。
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