小規模なオフィスでは固定回線の利用を完全に止めて、5Gだけでイントラネットに接続するという使い方も可能だ(図3)。
ワイヤレスオフィス、ワイヤレスストアの誕生である。現在のLTEでも事例はある。筆者の運用する流通業のネットワークでは瀬戸内海の島や山峡の店舗があり、フレッツが引けないため、常時LTEだけでオンライン業務をこなしている。瀬戸内海の島では既に5年以上運用しているが、問題なく利用できている。ただし、フレッツほど速度は出ないので、フレッツを導入した店舗で提供している無料公衆無線LANサービスは提供していない。
5Gに変われば広帯域になるので、このような店舗でも公衆無線LANサービスを提供できるだろう。完全なワイヤレスストアに変えるには電話も5Gの回線でまかなわねばならない。フレッツならひかり電話を利用できるが、ルーターを使う5Gでは電話が使えない。ここは割り切って携帯電話を使うのが現実的だ。
5Gを企業ネットワークで使うときの注意点は電波の浸透率が低いことだ。現在のLTEではプラチナバンドと呼ばれる800MHz帯の他、1.7GHz帯、2GHz帯などをメインで使っている。複数の周波数帯域を合わせて高速化を図るキャリアアグリゲーションでは3.5GHz帯を使う。
これに対して5Gでは3.7GHz帯、4.5GHz帯、28GHz帯を使う。LTEよりはるかに周波数帯域が高いのだ。
よく知られているように電波の周波数が高くなると直進性が高くなり、建物の壁などを通る際の減衰率も高くなる。建物内部への浸透率が低くなるのだ。つまり、建物の奥まった場所では5Gの電波が届かない可能性がある。
図1で固定回線用のルーターと5G用のルーターを分けた理由がこれだ。光ファイバーはバックヤードに引き込むことが多く、5Gの電波が入らない可能性がある。5G用のルーターは店舗であれば公道に面した入口近く、例えばレジ回りに設置することが望ましい。
大きなビル内で5Gを使うとなると、ビルの隅々まで5Gの電波が届くことは望み薄である。連載第18回で紹介した「5Gインドアソリューション」が不可欠だ。
2020年3月から始まる5Gサービスのエリア展開の進展や5Gインドアソリューションの動向をウォッチしつつ、企業ネットワークでの5G導入を適切に進めたいものだ。
松田次博(まつだ つぐひろ)
情報化研究会主宰。情報化研究会は情報通信に携わる人の勉強と交流を目的に1984年4月に発足。
IP電話ブームのきっかけとなった「東京ガス・IP電話」、企業と公衆無線LAN事業者がネットワークをシェアする「ツルハ・モデル」など、最新の技術やアイデアを生かした企業ネットワークの構築に豊富な実績がある。企画、提案、設計・構築、運用までプロジェクト責任者として自ら前面に立つのが仕事のスタイル。『自分主義-営業とプロマネを楽しむ30のヒント』(日経BP社刊)『ネットワークエンジニアの心得帳』(同)はじめ多数の著書がある。
東京大学経済学部卒。NTTデータ(法人システム事業本部ネットワーク企画ビジネスユニット長など歴任、2007年NTTデータ プリンシパルITスペシャリスト認定)を経て、現在、NECセキュリティ・ネットワーク事業部主席技術主幹。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.