世界経済は需要、供給とも、2度の世界大戦以来の大幅な落ち込みが懸念されている。新型コロナウイルスの流行が原因だ。しかし、世界IT/ビジネスサービス市場が今後受ける影響は地域によって異なる。米州地域は0%台の成長で耐えるものの、欧州、中東、アフリカ地域は落ち込みが著しい。
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IDCは2020年4月15日(米国時間)、世界ITサービスとビジネスサービス市場について、2019年の成長率と、2020年、2021年の予想成長率を発表した。同市場は2019年まで3年連続で成長してきた。成長率自体も2017年が対前年比4%増、2018年が4.2%増、2019年が5%増と年々上昇していた。2019年には景気が鈍化し、全世界のGDP成長率が3%強にとどまったにもかかわらずだ。
この間に大手サービスベンダーのBBレシオ(出荷額に対する受注額の割合)はほぼ常に1を上回り、利用企業が先行きについて楽観的な見通しを持ち、デジタルトランスフォーメーション(DX)に意欲的であることを示していた。
しかし、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の世界的な流行とこれに伴う景気低迷を背景に、見通しが悪化している。世界経済は需要、供給とも、2度の世界大戦以来の大幅な落ち込みが懸念されている。
こうした経済状況の影響を考慮し、IDCは世界サービス市場が2020年は1.1%減となり、2021年も1%強の成長にとどまると予想している。この最新予想は、「Economist」誌の調査部門Economist Intelligence Unitが発表した「2020年の実質GDPは第1、第2四半期に急減し、後半に持ち直すものの、通年で2%以上のマイナス成長になる」という見通しを踏まえたものだ。
供給側(少なくとも企業向けサービスの)への影響は比較的小さい見通しだ。サプライヤーは、リモートワークやソーシャルディスタンシング(社会的距離の確保)により、経済社会状況の変化に迅速に対応している。また、COVID-19危機の影響で、企業と消費者のオンライン利用が一段と進みそうだ。その結果、生産性が向上し、新たな機会が開ける可能性もある。
だが、需要側は大きな打撃を受け、厳しい先行きを予想した。ほとんどの地域が2020年はマイナス成長となるが、地域によって深刻度はまちまちだ。アジア太平洋地域が成長を維持する一方、米州は微減となり、欧州、中東、アフリカ(EMEA)は最も悪影響を受けると予想した。
米州地域のサービス市場は、2019年の対前年比5.2%の成長から一転し、2020年は0.2%成長にまで落ち込む。IDCによれば、2021年には成長傾向が強まり、最終的には3%以上になると予想している。しかし、5年間の年間平均成長率(CAGR:Compound Annual Growth Rate)は以前の予測よりもかなり低くなるだろう。
2020年の米国市場の規模は対前年比で0.18%減となる見通し。米国の政府機関と民間セクターは、市場の先行きが不透明なことを理由に、自由裁量下にあるサービス支出の決定を遅らせている。これを受け、プロジェクト指向の市場(コンサルティングやカスタムアプリケーション開発、システム統合など)は2020年に0.4%減少する見通し(2019年は7.4%増)。マネージドサービス市場も2020年は0.7%減となり、サポートサービス市場は横ばいと予想した。
カナダ市場も2020年は縮小する。だが、中南米市場が若干のプラス成長となり、これを部分的に相殺する見通しだ。中南米市場の2019年の成長率は7.2%増だった。
欧州、中東、アフリカ(EMEA)地域のサービス市場は2020年には対前年比4.3%減と2019年の4.4%増から減速し、2022年まではプラスに戻ることはないと予測した。しかし、IDCによれば、国や小地域によって回復率が大きく異なる。
主要西欧諸国はCOVID-19の感染者数と死者数が非常に多く、経済活動の縮小の長期化による景気悪化から、企業は現金確保に注力している。この動きが短期的に、ほぼ全ての基幹的市場に打撃を与える。中東欧諸国も過去2年間の急成長から一転して、2020年はマイナス成長となる。中東欧市場のほぼ3分の1を占めるロシアは、原油価格下落の影響もあり、2020年は20%減と予想した。中東、アフリカも主に原油価格下落の影響により、市場がやや縮小する見通しだ。
アジア太平洋地域のサービス市場は減速し、2019年の対前年比5.5%に対して、2020年は1.9%の成長にとどまると予想した。
最大の影響を受けるのは中国だ。中国のサービス市場の成長率は2019年に7.6%増だったが、2020年は2.4%増にとどまる見通し。2020年前半は落ち込むが、後半に経済が堅調に回復し、政府の景気刺激策も奏功すると予想した。中国以外の地域は、2020年が4.6%増、2021年が4.5%増の見通し。2019年の5.9%増からは伸びが若干鈍ることになる。
これは他の地域と比較して、確認された症例や死亡者数の報告から、パンデミックの抑制が示唆されており、アジア太平洋地域の潜在的な成長性の見通しは、より楽観的であるとIDCが判断したためだ。
IDCのワールドワイドセミアニュアルサービストラッカー担当リサーチマネジャー、リサ・ナガマイン氏は、「COVID-19は、世界のサービス市場の需要に打撃を与えるだろう。だが、地域、業種、サービス商品、プロバイダーによって、課題も機会もさまざまに違ってくる」と述べている。
IDCのプログラムディレクターのシャオフェイ・チャン氏は、「COVID-19は世界のサプライチェーンに長期的に深い影響を与えるだろう。騒ぎが終息したら、サービスベンダーは、顧客の構成や、顧客における優先順位が変わっていることに気付くかもしれない。新しい状況に対応したデジタル機能を提供することが必要になる」と指摘している。
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