Red Hatの「IBMによる買収後」と、VMwareとの企業ITインフラ基盤を巡る競合Red Hat Summit 2020(1/2 ページ)

Red Hatが2020年4月末に開催した年次カンファレンスでは、IBMによる買収後の、ハイブリッドクラウド戦略が見えてきた。Red Hatはマルチクラウドを推進する一方、オンプレミスにおけるサーバ仮想化とコンテナ環境を巡り、VMwareとの競合を強めていくことになる。

» 2020年05月12日 05時00分 公開
[三木泉@IT]

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 Red Hatは自社の「オープンハイブリッドクラウド」戦略をIBMによる買収後、どう進めるのか。IBMはこれをどう支援するのか。Red Hatが2020年4月末にオンライン開催した「Red Hat Summit Virtual Experience 2020」から、これを探る。

 まず、IBMとRed Hatは今後、どのような方向に進むのか。2020年4月にIBMのプレジデント兼Red Hat会長となった、元Red Hatプレジデント兼CEOのジム・ホワイトハースト氏が今回のイベントで語ったことを意訳してまとめると、次のようになる。

 世界中の企業が、デジタル企業やその他のさまざまなコミュニティーによるオープンイノベーションを生かして自社の事業を変革したいと考えている。Red Hatはオープンソースコミュニティーが次々に生み出す新技術を製品化し、企業が安心して使えるハイブリッド/マルチクラウドのインフラ基盤およびITツールとして提供する。併せて同社は、先進企業の開発体制やベストプラクティスを一般企業に伝える。一方IBMは、Red Hatの基盤により、既存のアプリケーションやデータを含めた企業ITのクラウド化を推進する。その上で、企業の事業プロセスや個々の業界に対する理解を基に、AIや高度なデータ分析などを活用したビジネス課題の解決を支援する。

Red HatのCEO、ポール・コーミア氏(左)と、IBMのプレジデント兼Red Hat会長、ジム・ホワイトハースト氏(右)

 この発言は、IBMによるRed Hat買収の理由として、IBMが発信してきた「オープンハイブリッドクラウド」のメッセージとほぼ変わらない。

 IBMは今後も、「顧客のデジタル変革を支援する」という点で、自社のソフトウェアおよびサービスの企業顧客にとっての価値を最大化していきたい。そのための基盤は、以前のような垂直統合ではなく、コンテナによる水平統合でなければならない。

 さまざまなIaaS上で動くコンテナインフラ/アプリケーション運用基盤であるKubernetesを企業向けに製品化して提供するという点でリーダー的な存在のRed Hatを買収することで、IBMは俊敏性と管理性を提供する統合基盤を獲得した。つまり、同社は「IBM Cloud」という、場所としてのクラウドを提供してきたが、これに加えて、他のIaaSにも、顧客のアプリケーションを運用する基盤を展開できるようになった。

 IBMは顧客に、選択肢を狭められない(ロックインされにくい)、アプリケーションのモダナイゼーション基盤として「Red Hat OpenShift Container Platform」を推進する。併せて、自社のソフトウェア/ミドルウェアをOpenShiftへ包括的に移行し、この基盤上で動作を保証すると共に、顧客のアプリケーション構築を支援する。

 一般企業がオンプレミス環境にコンテナ基盤を導入したいと考えても、新しいアプリケーションの構築が進まない限り、この上で何を動かせばいいのかと悩むことが考えられる。OpenShift上でIBMが自社のソフトウェア群をサポートし、既存アプリケーションのコンテナへの移行を支援することで、この「コンテナで何を動かしたらいいのか」問題は軽減される。

 一方、顧客がIBM Cloud以外のクラウドサービスを今後のアプリケーション基盤として選択する場合でも、その上でRed HatがOpenShiftを展開し、さらにOpenShift上ですることで、その顧客との関係を継続、さらには旧来のアプリケーションを含めたクラウドネイティブ化を支援できる。また、必ずしも全ての新しいアプリケーションを一から開発できない企業のために、ITを事業に結び付けるためのソリューションやミドルウェアを提供する。

 その上で、IBM Cloudを、OpenShiftおよび自社ソフトウェアに最適なプラットフォームとして推進する。

 いずれにしろ、焦点は、「オープンハイブリッドクラウド」だ。Red Hatは、このキーワードを、少なくとも過去8年間にわたって繰り返してきたが、その具体的な意味は、過去数年で急速に、Kubernetesへ集約されるようになってきた。

Red Hatはオンプレミスのサーバ仮想化で、VMwareを侵食しようとしている

 Red Hatは例年、年次カンファレンス「Red Hat Summit」で、多数の発表を行う。だが2020年4月末に開催した「Red Hat Summit Virtual Experience 2020」では(バーチャルイベントとしての初の開催となったこともあるだろうが)、発表をOpenShift関連に絞った。

 具体的にはKubernetesにより、コンテナに加えて仮想マシンを統合運用できる「OpenShift Virtualization」と、主要パブリッククラウドのネイティブKubernetesサービスを含めたマルチKubernetesクラスタ管理機能の「Advanced Cluster Management for Kubernetes」を発表した。いずれもオープンソースコミュニティーにおける開発成果を製品化したもので、その意味ではOpenShiftだけの機能ではない。だが、どちらもオープンハイブリッドクラウドという観点からは、少なくともRed Hatにとって、大きな意味を持つ。

Red HatはOpenShift VirtualizationとAdvanced Cluster Management for Kubernetesで、「オープンハイブリッドクラウド」の進化を強調した

 Red Hat製品&テクノロジー担当シニアバイスプレジデントのマット・ヒックス氏は、特にOpenShift Virtualizationについて、「これは(進化ではなく)革命的な機能だ。顧客が(社内)インフラ運用のやり方を考え直すきっかけになるからだ」と話した。

 OpenShift Virtualizationは、対VMwareという点でのインパクトが大きい。これにより、Red Hatは「もう、社内で仮想マシンとして動作する既存アプリケーションを、無理にコンテナ化する必要がない」「VMware vSphereの撤廃を進めることができる」というメッセージを企業顧客に向けて発信していくことになる。

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