NTTとNECの提携、通信安全保障との関連性は?(1/2 ページ)

NTTとNECが2020年6月末に発表した資本業務提携と共同開発は、NECにとってのメリットこそ分かりやすいが、NTTはどのような恩恵を得られるのだろうか。背景には「通信安全保障」というキーワードが見え隠れする。

» 2020年06月30日 05時00分 公開
[三木泉@IT]

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 「オープン化は、世界に出ていく最後のチャンスかもしれない」。NECの新野隆社長は、共同記者会見でこう話した。

 NTTとNECが2020年6月25日、資本業務提携に基づき、通信関連製品を共同開発すると発表した。NECにとってのメリットは分かりやすい。一方、NTTはどのような恩恵を得られるのだろうか。

NECの新野隆社長(左)とNTTの澤田純社長(右)

 NTTとNECによる発表内容は次の通り。

 二社はまず、O-RAN Alliance仕様に基づく基地局装置の開発で協力する。NECがこれを世界で販売、将来的には世界シェアトップを目指すという。さらに共同開発は、フォトニクスネットワークへの移行を中核とするNTTの「IOWN(アイオン)」構想に及ぶ。海底ケーブルシステムの大容量・高機能・低コスト化、宇宙通信の大容量・低遅延・自動/自律化、インフラネットワークのセキュリティ確保に向けた技術の高度化を進めるとしている。

 また、NTTはNECの発行済み株式の4.8%を取得する。NTTはNECへの出資の理由を、「二社の協力が中・長期にわたり、内容も多岐にわたるため」と説明した。

NTTとNECの共同開発の内容

 二社間の共同開発で、当面の焦点となるのは基地局装置。この分野ではオープン化に向けた動きが具体化しつつある段階だ。これまでの調達モデルは垂直統合型であり、通信機器ベンダーは通信事業者との密接な協力の下で各事業者の仕様に即した設備を開発、一式を納入するというものだった。

 このため、基地局装置を中心とした移動体通信事業者のアクセス設備(RAN:無線アクセスネットワーク)市場でも、Huawei Technologies、Ericsson、Nokiaの3社が大半のシェアを握っている。こうした調達スタイルを変えようとする取り組みが進められてきた。

 前述のO-RAN Allianceは、2018年2月に、NTTドコモ、AT&T、China Mobile、Deutsche Telekom、Orangeの通信事業者5社が設立した団体。その後KDDI、ソフトバンクなども加わり、通信事業者のメンバーは2020年6月時点で26社、ベンダーを中心としたコントリビューターメンバーは約160社に達している。

 同アライアンスでは、RANを構成するハードウェア/ソフトウェア間の標準インタフェースを策定することで、構成要素同士のオープンな組み合わせを実現する取り組みを進めてきた。2019年2月には「O-RAN standard Open Fronthaul Specifications」という仕様を発表、さらに同年12月には、Linux Foundationと共同で、仕様の一部に準拠したソフトウェアの初めての参照実装をリリースした。

 ちなみに、O-RAN Allianceの活動は、RANの機能要素を大幅に汎用ソフトウェア化するOpen vRANの動きにもつながっている。楽天モバイルが実装を進めている「完全仮想化ネットワーク」は、RAN部分も基本的に仮想化/ソフトウェア化するのが特徴で、NECはこれにも協力している。

 冒頭に引用した新野氏のコメントにおける「オープン化」は、O-RAN Allianceによる標準化の動きを指している。垂直統合的な調達モデルの下で通信事業向け製品市場における存在感を失ってきたNECにとって、オープン化はゲームチェンジのための唯一のきっかけだと新野氏は認識しているのだろう。

 既述の通り、O-RAN Alliance仕様は登場してから日が浅く、市場に定着するかどうかも未知数の状態。こういう時期だからこそ、NECとしては実装をリードし、RAN市場攻略の突破口にしようとしていると考えられる。出資を後ろ盾に、機能開発、検証、さらには市場展開におけるNTT側の協力を得ることで、NECはゲームチェンジのための取り組みを加速させるつもりだ。

 なお、NTTの澤田社長は、「これほどまでに研究開発の能力を備えた通信事業者は、(NTTグループの)他に存在しない」と言い切っている。一般的な通信事業者と通信関連製品ベンダーとの関係を超え、NTTグループの小型光集積回路(DSP)やフォトニクスネットワークなどの技術を、この提携関係に持ち込むという。

RAN周辺に見られる政治関連の動き

 NECにとってのメリットは分かりやすいが、なぜNTTはこれほどまでにNECへの協力を進めるのか。理由の一つには、やはり政治的な情勢が考えられる。

 Huawei Technologiesなどを通信事業者向けインフラ市場から排除しようとする米国政府の姿勢は、日本を含む関係国の通信事業者における、設備機器調達に大きな影響を与えている。これに関連して、2020年5月にはRANに絡む象徴的な動きがあった。米国企業を中心とした「Open RAN Policy Coalition」の発足だ。

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