外出自粛要請期間中、携帯関連各社が提供する人流分析データが、接触削減目標の達成における目安として盛んに活用された。では、「ポスト外出自粛要請期間」に、人流データは役に立たないのだろうか。
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新型コロナ禍に伴う緊急事態宣言および外出自粛要請の動きを受けて、NTTドコモ、KDDI、そしてソフトバンク子会社のAgoopが、人流に関するデータやリポートを厚生労働省やメディア、一般に提供し、これを基にしてさまざまな議論が戦わされた。特に東京や近県では、「接触8割削減目標」に照らして渋谷や新宿の繁華街から地域商店街に至るまで、外出自粛の前後の人出の減少率がチェックされ、目標達成の目安として扱われた。
当然だが、外出自粛要請の解除後は、人流データの出番が激減した。「夜の街」で感染者が増えたというニュースに合わせ、新宿歌舞伎町周辺の人出の戻り具合を示したメディアがあるくらいだった。
本記事執筆時点では東京都内の感染判明者数が再び大幅に増加している。だが、外出自粛要請が出されない限り、新型コロナに関して、人流データはもう用済みなのではないのか。人々の行動を抑制せずに政府や自治体が対策を進めるには、接触追跡アプリなど、各個人レベルでの情報に頼るしかないのではないか。
Agoop社長兼CEOの柴山和久氏は、これを否定する。
「これからは、経済的な回復の分析が必要になる。今までは、『コロナに感染しないように、人出を減らしましょう』だった。これからは、経済回復のために人出を戻さなければならないが、これには感染拡大のリスクもある。従って、『都道府県』『市』『区』といった単位ではなく、細かな単位でリスク分析を行い、これに基づく経済対策をしていく必要がある」(柴山氏、以下同)
どこにどれくらい人出を戻すか、きめ細かく制御あるいは誘導すべきだと柴山氏は続ける。
「例えばある駅の周辺の飲食店といっても、ソーシャルディスタンスを保てる店とそうでない店がある。人との距離が保てる店であれば、人出が戻っていいという判断ができる」
では、人流分析で、ソーシャルディスタンスを保てる店かそうでない店かを判断するのか。Agoopでは最小50メートルメッシュで人流を分析しているというが、それでも店の種類に人流をひも付けるには粒度が粗すぎるのではないか。
「漫然と人の数を見るだけでなく、時間帯と滞在時間、どこから来ているかなどを見ればいい。これをPOI(Point of Interest:店舗や施設、目標物)情報と結び付ける。例えばナイトクラブが密集しているメッシュに夜間、ある程度の人数が長い時間滞在しているとすれば、感染リスクが高いといえるのかもしれない。感染リスクの高まる条件を見いだすためにも、こうした分析をしていく必要がある」
同様な分析によって、メリハリのある経済対策の検討もできる、と柴山氏はいう。
「例えば同じ歌舞伎町であっても、50メートルメッシュで見れば、外出自粛解除後に人出が半分くらいしか戻ってきていないところがある。このメッシュに一般の飲食店が密集している場合、これらの店は経営が厳しいことが想定できる。一方、住宅エリアに近い商店街の飲食店などは、弁当で外出自粛時から潤っているケースが多い。今後再び外出自粛要請や休業要請をしなくてはならなくなる可能性もあるが、自治体が税金を賢く使って飲食店に対する支援を効果的に行うために、一律ではなく、家賃も高い渋谷などで大きな影響を受けている飲食店を重点的に支援することなどが考えられる」
国や自治体だけでなく、私企業も自衛策を考えなくてはならない。大企業が在宅勤務を今後も継続するならば、その周辺の飲食店は長期にわたり、売り上げが戻らない可能性もある。こうした判断のための指標として、人流分析を活用できるという。
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