東北大学災害科学国際研究所の研究グループは、AIによって衛星画像から洪水の浸水範囲を推定するアルゴリズムを構築した。過去の水害データを蓄積することで将来発生する未知の水害の被害範囲を推定できる。
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東北大学災害科学国際研究所は2020年7月16日、同研究所のErick Mas氏ら研究グループがAI(人工知能)によって衛星画像から洪水の浸水範囲を推定するアルゴリズムを構築したと発表した。2018年西日本豪雨水害のデータを学習させ、2019年台風19号の水害の浸水域を推定したところ、約8割の精度で把握できたとしている。
研究グループのメンバーには、東北大学災害科学国際研究所の教授である越村俊一氏と准教授を務めるErick Mas氏、ペルー国立工科大学日本ペルー地震防災センターの研究員で東北大学災害科学国際研究所の客員研究員でもあるLuis Moya氏が含まれる。
研究グループは、人工衛星が地表に照射するマイクロ波の散乱、反射特性を観測する合成開口レーダー(SAR)の画像を用いて浸水域を推定した。地表に照射されたマイクロ波は、その浸水度合いによって散乱特性が異なることを応用した。
例えばマイクロ波が建物付近に照射された場合、水害がない平時では、マイクロ波はまず地面に反射し、次に建物の壁で反射する。これに対して水害が発生して地面が水で覆われた場合、平時に地面で反射したマイクロ波は、水面で反射するため減衰度が平時とは異なる。完全に建物が水没した場合は、水面で反射したマイクロ波は、建物の壁で反射しなくなる。
研究グループは、2018年の西日本豪雨水害前後の特徴を、パターン分析に適した「SVM」(サポートベクターマシン)という機械学習モデルに学習させた。これを2019年台風19号の被害を受けた福島県郡山市に適用してAIの性能を評価した。
すると、AIが推定した2019年水害の浸水域は、国土地理院による調査結果とほぼ整合し、約8割の精度で推定できていた。研究グループは、過去の水害データを蓄積することで将来発生する未知の水害の被害範囲を推定でき、緊急観測による結果が得られれば迅速に高度な浸水マップが作成できるとしている。
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