結局、VMwareはKubernetesで何をやろうとしているのか。これまでの顧客層にアピールするだけなのか。同社のCEOであるパット・ゲルシンガー氏とCOOのラグー・ラグラム氏に直接聞いた。
「Kubernetesは今日のマルチクラウドの世界における事実上の標準APIだ。20年前のJavaのように、Kubernetesはあらゆる人々を結び付ける稀有な技術だ」
VMware CEO(最高経営責任者)のパット・ゲルシンガー(Pat Gelsinger)氏は2020年9月末、同社の年次イベント「VMworld 2020」における基調講演で、これまでにないほどKubernetesを持ち上げた。背景にはもちろん、Kubernetes製品群「VMware Tanzu」の本格リリースを発表できたこともある。
Tanzuは「VMware vSphere」との高い統合度を特徴とする製品群。今回VMwareは4種の「エディション」を発表したが、ここに同社の狙いの一端が読み取れる。最下位のエディションはコンテナベースの商用アプリケーションを動かす基盤としての機能に特化したもの。一方最上位エディションは他社とも連携し、CI/CD、DevOpsなどツールを含めた統合的な開発・運用基盤としての性格を持つ。こうした製品構成により、企業が段階的に、クラウドネイティブへの取り組みを進められるようにしている。
VMwareは単なるKubernetesベンダーになろうとしているのか。それともKubernetesへの取り組みはvSphereユーザーを引き留めておくための手段でしかないのか。本記事ではゲルシンガー氏と、プロダクトおよびクラウド サービス担当COO(最高執行責任者)のラグー・ラグラム(Raghu Raghuram)氏に直接聞いたことをお届けする。
まず、ゲルシンガー氏に聞いた。
――基調講演であなたはこれまでにないほどの強い表現で、Kubernetesを称賛した。VMwareはこの新たな市場にどうアプローチしようとしているのか。
企業のCIOたちが集まる場で、『KubernetesにITの将来があると確信している人はいますか?』と聞くとほぼ全員が手を挙げる。Javaと同様に、Kubernetesに関しては明確な支持がある。次に『御社のIT環境ではKubernetesの運用がうまく回るようになっていますか』と聞くと、あまり手は挙がらない。つまりやりたいとは思っていても、大規模に提供する能力はまだ備わっていないということだ。
VMwareがKubernetesとコンテナをvSphereに組み込むことを発表したとき、当社は幾つかの問題を一挙に解決することを狙った。
第1はスキルギャップだ。Kubernetesは複雑で、多くの人は運用をどうしていけばいいか分からない。CIOにとっては人材が十分に獲得できない。そこで私たちは、『vSphereを運用できるなら、Kubernetesを運用できますよ』と言えるようにした。これで人材問題を解消した。
第2はモダンアプリケーションの開発者が抱える問題だ。自らはコンテナアプリケーションを開発していても、一方で既存のアプリケーションや仮想マシンがある。そこで当社は、業界標準の手法で、双方を統合できるようにした。これで、必ずしも既存のアプリケーションをリファクタリングしないで済むようになった。つまり、コンテナと仮想マシンの間のギャップを解消した。
第3はマルチクラウドの問題の解決だ。特定のクラウドでアプリケーションを構築すると、クラウドごとのサイロができてしまう。だが、Kubernetesでは、全てのクラウドが共通のAPIで利用できる。VMware Tanzuが提供するインタフェースで、Google Cloud Platform、Microsoft Azure、Amazon Web Services(のKubernetesクラスタ)を管理できる。
つまりVMwareは、あらゆる人々が同意する技術であるKubernetesについて、「スキルおよびインフラ」「コンテナと仮想マシン」「マルチクラウド」で橋渡しをすることで、活用に向けた3つの重要な課題を解消している。これが同社の戦略だ。
――だが、CIOやインフラチームと開発チームとの間には、考え方のギャップがあり得る。VMwareが従来通り、主にCIOやインフラ/運用チームを相手にし続けるなら、この人たちが所属企業にとって正しい判断ができると言い切ることができるのか。
それはとてもいい質問だ。VMwareは、インフラチームがKubernetesおよびコンテナの言葉を話せるようにした。CIOは開発チームに対し、「あなたたちはKubernetesやマイクロサービスを動かせますよ。私たちがインフラを提供できます」と言える。
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