上記の調達手法については、今後も検討や改善を継続するとしていますが、従来の政府によるIT調達方式とクラウドサービスの利用形態とのギャップについてはひとまず対応ができたようです。記事の冒頭で、アマゾン ウェブ サービス ジャパンが「幅広い公共機関によるクラウド利用のひな型になる」と説明したことを紹介しましたが、内閣官房IT総合戦略室と総務省行政管理局による報告書にも同様な表現が見られます。
しかし、問題はこれからだと言えます。「第一期の政府共通システムには移行があまり進まなかった中央省庁の既存システムが新プラットフォームに移行するのか」「コスト最適化を積極的に進めていけるのか」「共通基盤を生かしたシステム間連携やシステムの共通化が進めていけるのか」「システムのモダナイゼーションは進むのか」「新たな機能を迅速に開発できるような体制が組めるのか」などの問題は。プラットフォームにAWS、あるいは他のパブリッククラウドを採用したからといって自動的に解決されるわけではありません。
民間でも同じことですが、パブリッククラウドはさまざまな関係者が協業する基盤として機能しやすく、新しいことに対するチャレンジに要する時間や手間、スピードのリスクを低減してくれます。
しかし、こうした特徴をどう生かすかは、当然ながらユーザー側に委ねられます。政府では省庁横断で編成された組織が推進することになっていますが、実現に当たっては、政府側に立って移行支援を行う業者の存在が大きな役割を担うことになります。
今回の新プラットフォーム関連では、「プラットフォーム提供」「運用」「工程管理」「移行支援」の4業者に分けて、単年度での調達が進められています。これには、単一の事業者にシステムを人質に取られることを防ぐ狙いがあると考えられます。
具体的には、クラウド基盤提供側で。上述のサービス提供業者(中間業者)である日立システムズ、および運用業者としてNECが選ばれました。一方、ユーザー側に立って、政府を直接支援する業者としては、工程管理担当としてNTTデータが選定済みです。唯一、まだ選定が完了していないのが、移行支援事業者です。この移行支援事業者が、クラウドの良さを生かすという点で、重要になるはずです。この事業者に移行作業を白紙委任してしまえば、リフト&シフトで事足れりとするのが受託業者にとっては楽なはずで、クラウドの良さが生かされる可能性は低いからです。
政府はこれを見越して、クラウドならではの機能を生かした移行支援を行う業者を選定しようとしているようです。
「政府共通プラットフォームでのクラウド移行検討促進のための技術的支援業務の請負」に関する調達概要書では、まず同調達の対象となる「技術的な移行支援」を、「各府省のクラウド化意欲を見極め、重点的に移行支援を行うべき案件を選定し、基盤のみならずアプリ層にまで踏み込んだクラウド化のためのアーキテクチャの提案などの技術的移行支援等を初期段階から行うこと」と定義しています。
さらに、同調達の目的について、次のような記述があります。
「今後、第二期政府共通PF(編集部注:「プラットフォーム」の意)への移行を円滑に進めるためには、各府省のクラウド化意欲を見極め、重点的に移行支援を行うべき案件を選定し、基盤のみならずアプリ層まで踏み込んだクラウド化のためのアーキテクチャの提案などの技術支援等を初期段階から充実する必要性がある。このため、クラウドへの移行支援実施に当たっては、専門的・技術的な知見に基づく支援に加え、可能な限り実例に基づいた現実的な支援が必要となる。なお、官民問わず、オンプレからクラウドへの移行については実績が少なく、そういった移行に長けた技術者も限られており、政府内にクラウド移行に関するノウハウも蓄積されていないことから、総務省が現時点で想定している移行支援内容よりも効率的で効果的な移行支援内容やクラウドCoE を技術面から支えるクラウドに詳しい技術者の参画について、企画競争により幅広く民間事業者からの提案を受けて、政府におけるクラウド移行を推進する必要がある」
ここでカギとなるのは「クラウドCoE」という言葉です。「CoE」というのは「センター・オブ・エクセレンス」のことで、IT製品との関連では、企業がその利用ノウハウを蓄積し、全社的に推進するためのエンジンとして機能する部署横断的な仮想組織を指すものとして使われています。
第二期政府共通プラットフォームに関して、政府は省庁横断的な組織としてクラウドCoEを構築し、これを通じて移行支援業者からの技術的な支援を受けていくつもりのようです。そして、他の模範となるような移行プロジェクトから優先的に進め、その過程で獲得するノウハウをクラウドCoEに蓄積して、以降のプロジェクトにより主体的に関われるようにしていく考えが、この調達概要書には述べられています。
では、この取り組みに、AWSはどう関与することになるのでしょうか。アマゾン ウェブ サービス ジャパン 執行役員パブリックセクター統括本部長の宇佐見潮氏にあらためて電子メールで聞いてみました。
宇佐見氏は、「AWSとしては、『AWS Migration Acceleration Program』(編集部注:AWSによるクラウド移行に関する方法論)をエンドユーザーとパートナーに広く紹介し、顧客の狙いと現在のシステムの状況に最も適当なジャーニープランを選択してもらえるよう支援する体制を構築している。また、パブリックセクターにおけるクラウド利用先進国の事例を示しながら、クラウドに移行することで最大限のメリットを享受するために、そのノウハウをどのように蓄積し、普及させていくのかなどのテーマについて随時情報提供する活動を行っている。総務省が進めている第4の調達(編集部注:移行支援事業者の調達)は、まさにそのようなCoE機能の実現を狙ったものと理解しており、AWSとしてはCoE機能に必要なノウハウを、受託するパートナーに対して提供する考え」と答えています。
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