紛争での「差」とはどんなことだったのだろうか。
ユーザー企業からは多くの事象が不具合として提示されている。代表的な2つだけ例示してみるが、これだけを読むと、少し首を傾げたくなる指摘でもある。
「1」出荷、仕入れ伝票同時起票において入力可能期間の設定がない
ユーザー企業が「出荷、仕入れ伝票同時起票」アドオンを使用した場合、入力可能期間の設定がないことから、自由な日付で伝票入力が可能となってしまう。ユーザー企業では、この伝票の起票ができる期間が定められており、この範囲を超えての入力は許されないのだから、これも不具合だとユーザー企業は主張している。
「2」出荷品ごとに設定したはずの値引きが1つにまとめられてしまう
ユーザー企業は商品を出荷する際、出荷/納入伝票を発行するが、代金を顧客に請求を行う際には複数の伝票を1つの請求書にまとめる場合がある。この時、各出荷伝票にはおのおのに異なる値引き率が設定されているものの、1つにまとまった請求書では値引きも1つにまとめられてしまう。ユーザー企業は出荷伝票ごとの値引きを請求書でも明細ごとに印字すべしとして、これを不具合と主張している。
ユーザー企業が主張する不具合は他にもたくさんあるが、おおむねここに挙げたようなSBOの仕様と実際の業務の差を不具合と主張する「1」か、SIベンダーの持ち込んだアドオンとの差を不具合とする「2」である。
皆さんは、この主張をどのようにお考えだろうか。正直、裁判のこの部分だけを切り出すと、私にはユーザー企業のワガママばかりが目に付いてしまう。パッケージソフトウェアが想定する業務が自社のものと違うことは、冒頭述べたように当然のことである。
裁判所の判断を見てみよう。
(「1」について)
アドオンの外部設計レビューの際に、「デフォルト表示は当日の日付を表示する。変更したい場合にはその都度手入力する」という要件が示されたものと推認されることに照らせば、入力可能期間を設定することが、「出荷、仕入れ伝票同時起票」アドオンの納品後も引き続き必須の要件になっていたものとまでは認められないから、これを瑕疵(かし)に当たるものということはできない。
(「2」を含むその他について)
ユーザー企業が主張する各不具合(「1」を除く)は、いずれも被告の業務処理方法とSBOの標準機能との差異をいうものと認められる。
(中略)
差異があると判断された業務要件は、要件の見直しを行い、SBOの標準機能に合わせるか、作り込み(アドオン開発)を行うか、又はシステム化しないか(運用で対応する)のいずれかを選択することとなる(中略)ため、アドオン開発を行わない場合には、SBOの仕様に合わせるべく、現場の業務の改革、改善が必要となるものであり、(中略)業務処理方法とSBOの標準機能との差異が瑕疵に当たるものと直ちに認めることはできない。
裁判所はこう述べ、ユーザー企業の主張を退けた。
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