なぜ分散クラウドが次世代のクラウドコンピューティングを支えるのか。パブリッククラウド、ハイブリッドクラウド、エッジコンピューティングと比べた分散クラウドのメリットは何か。
ガートナーの米国本社発のオフィシャルサイト「Smarter with Gartner」と、ガートナー アナリストらのブログサイト「Gartner Blog Network」から、@IT編集部が独自の視点で“読むべき記事”をピックアップして翻訳。グローバルのITトレンドを先取りし「今、何が起きているのか、起きようとしているのか」を展望する。
パブリッククラウドモデルへの全面移行にコミットするのをためらう企業は、プライベートクラウドに触発されたコンピューティングとパブリッククラウドコンピューティングの組み合わせ(あるいはハイブリッド)を利用している。そのため、Gartnerに顧客から寄せられる「ハイブリッドクラウドについて相談したい」という要望は、ここ3年で15%増加している。
「クラウドコンピューティングは幾つかの重要なメリットを提案し、顧客がそれらの恩恵を受けることを約束する。こうしたメリットとしては、例えば、ハードウェアおよびソフトウェアインフラを運用する責任と作業がクラウドプロバイダーに移行することや、クラウドの弾力性とそれがもたらす経済性、パブリッククラウドプロバイダーと同じペースでのイノベーションが可能なことなどが挙げられる」と、Gartnerのアナリストでディスティングイッシュト バイスプレジデントのデイヴィッド・スミス(David Smith)氏は語る。
だが、ハイブリッドクラウドは、これらの非常に価値あるメリットを損なってしまう。ハイブリッドクラウドのある部分は顧客が、他の部分はパブリッククラウドプロバイダーが所有、設計、運用、管理するからだ。顧客は自らが手掛ける部分については責任を負うが、パブリッククラウドプロバイダーのケイパビリティ(スキル、イノベーションのペース、投資、技術など)を活用できない。
だが、新世代のハイブリッドクラウドソリューションパッケージは、ハイブリッドクラウドのこうした欠点の影響を軽減するのに役立つ。次世代のクラウドコンピューティングを支える分散クラウドは、クラウドコンピューティングのメリットを維持しながらクラウドの範囲とユースケースを広げる。CIO(最高情報責任者)は、分散クラウドモデルを利用して、将来必要になる場所に依存したクラウドユースケースを目指せる。
分散クラウドコンピューティングは、クラウドで提供されるサービスの物理的な拠点をその定義に盛り込んだ初のクラウドモデルだ。これまで拠点は、クラウドコンピューティングの定義とは無関係だった。実際、クラウドサービスでは、拠点は明示的に抽象化されてきた。そもそも、そのことが“クラウド(雲)コンピューティング”という用語が生まれるヒントとなった。
分散クラウドには3つの起源がある。パブリッククラウド、ハイブリッドクラウド、エッジコンピューティングだ。パブリッククラウドプロバイダーは長年、複数のゾーンとリージョンをサポートしてきた。ハイブリッドソリューションパッケージにより、パブリッククラウドサービス(多くの場合、必要なハードウェアとソフトウェアを含む)は、エッジなど、さまざまな物理的な場所に分散できるようになった。
ただし、分散クラウドでは、提供元のパブリッククラウドプロバイダーが、分散されたサービスの所有、運用、ガバナンス、更新、進化に関する責任を引き続き負う。これは、ほとんどのパブリッククラウドサービスのほぼ集中管理型のモデルや、一般的なクラウドの考え方に付随するモデルからの大きな変化だ。分散クラウドは、クラウドコンピューティングの新たな時代を開くだろう。
「分散クラウドは、エッジコンピューティングにすぎないのでは」と思われる方もいるかもしれない。この疑問への答えは、イエスでもありノーでもある。分散クラウドのインスタンスは全て、エッジコンピューティングのインスタンスでもある。だが、エッジコンピューティングの全てのインスタンスが分散クラウドとは限らない。エッジの多くのユースケースでは、パブリッククラウドプロバイダーがサービスの進化とその成果である環境の運用を管理するが、そうでない場合もあるからだ。
分散クラウドでは、パブリッククラウドプロバイダーのクラウドサービスは、特定のさまざまな物理的な拠点に“分散”される。クラウドサービスの機能を必要とするユーザーに物理的に近い地点でサービスが運用されるので、低遅延のコンピューティングが実現する。また、こうしたサービス運用により、一貫したコントロールプレーンによって、パブリッククラウドからプライベートクラウドまでのクラウドインフラストラクチャを管理し、両環境にわたって一貫した拡張性の確保が可能になる。これらのおかげで、遅延問題の解消によってパフォーマンスが大幅に向上するとともに、グローバルネットワークに関連するサービス停止のリスクや、コントロールプレーンの非効率性のリスクが軽減される。
こうした分散クラウドでは、クラウドコンピュート、ストレージおよびネットワーキング機能を提供するサブステーションが構築され、戦略的に配置される。サブステーションは、クラウドで疑似アベイラビリティゾーンとして機能し、共有される。Gartnerが“サブステーション”という用語を使うのは、例えば、人々がサービスを利用するために集まる地元の郵便局の店舗のような“支店”のイメージを呼び起こすためだ。
分散クラウドのサブステーションは、提供元のパブリッククラウドプロバイダーが責任を負う。そのため、生産性、イノベーション、サポートに関して、クラウドが提案する価値ある重要なメリットはそのまま維持される。実際、2024年までにほとんどのクラウドサービスプラットフォームは、少なくとも何らかの分散クラウドサービスを、必要とするユーザーの近くで実行し、提供するようになる見通しだ。
分散クラウドは、他にも次のようなメリットをもたらす可能性がある。
今後、分散クラウドの使い方は2段階で進化する見通しだ。第1段階では、ハイブリッドクラウドの代替としての導入が進む。企業がハイブリッドクラウドと同様の効果と遅延に起因する問題の回避を目指し、クラウドサブステーションを購入すると予想される。
こうした顧客は、「自社のサブステーションを地理的または業種的に近隣のユーザーに開放する」という考え方を当初は受け入れず、サブステーションをオンプレミスに置いて自社で使用するだろう。このやり方を取り、パブリッククラウドプロバイダーに全ての責任を任せることで、真のハイブリッドクラウドの実現が期待できる。
次世代クラウドへと向かう第2段階では、公共サービス企業や大学、市役所、通信会社などがクラウドサブステーションを購入し、近隣ユーザー向けに開放する。これにより、「分散クラウドが次世代クラウドコンピューティングの基盤である」という考え方が定着し始めるだろう。また、こうした企業や機関の動きは、分散クラウドが広く行き渡る必要性の表れでもある。次世代クラウドは、クラウドサブステーションがWi-Fiホットスポットのように、至る所にあるという前提で機能する。
「どちらの段階でも、拠点は再び透過的になる。分散クラウドでは、顧客はプロバイダーに、例えば、『ポリシーYを順守し、遅延Zを抑えるためにXが必要だ』と運用条件を指定し、プロバイダーに自動的かつ透過的に構成をしてもらえる。将来のクラウドでは、こうしたやり方が一般的になる可能性がある」(スミス氏)
分散クラウドモデルが広く普及するためには、このモデルにおける幾つかの問題をクリアする必要がある。
CIOにとって、分散クラウドの考え方はクラウドの今後の進化の道しるべになる。分散クラウドは、特に、分散した環境で顧客にリーチする新たな機会を求めるCIOや、特定の拠点向けに低遅延のサービスが必要なCIOに恩恵をもたらす。
分散クラウドの第1段階では、これまでのハイブリッドクラウドの代替としてクラウドサブステーションを利用することで、クラウドが提案する価値あるメリットを犠牲にしない真のハイブリッドクラウドコンピューティングが実現する。
第2段階では、クラウドサブステーションを近隣ユーザーに開放する取り組みが広がり、分散クラウドが次世代クラウドコンピューティングのより強固な基盤を形成していく。
出典:The CIO’s Guide to Distributed Cloud(Smarter with Gartner)
Manager, Public Relations
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