ほとんどの企業は、計画的、体系的にマルチクラウド化を進めるのではなく、結果的にマルチクラウドを利用するようになる。では、マルチクラウドを効果的に導入し、活用するには何が必要なのだろうか。
ガートナーの米国本社発のオフィシャルサイト「Smarter with Gartner」と、ガートナー アナリストらのブログサイト「Gartner Blog Network」から、@IT編集部が独自の視点で“読むべき記事”をピックアップして翻訳。グローバルのITトレンドを先取りし「今、何が起きているのか、起きようとしているのか」を展望する。
マルチクラウドの効果的な導入、活用には何が必要かを考えてみよう。マルチクラウドは、テーブルトークRPG(※)の『ダンジョンズ&ドラゴンズ』に出てくるゼラチナスキューブ(自らの通り道にあるものを全て飲み込み、全ての有機物を消化する立方体状のスライム)のような存在だ。
※テーブルトークRPG(「会話型RPG」とも呼ばれる)は、ゲーム機やPCなどの機械を使わずに、プレイヤー同士が紙や鉛筆、サイコロなどを用いて、会話しながらルールブックに従って遊ぶロールプレイングゲーム。
ほとんどの組織は、計画的、体系的にマルチクラウド化を進めるのではなく、結果的にマルチクラウドを利用するようになる。一般的に、組織のマルチクラウド化の背景には、次のような複合的な要因が働いている。
ほとんどの組織では、マルチクラウド化は避けられない。クラウドIaaS+PaaSは非常に広範なIT機能をカバーしているため、組織が長期にわたって1社のクラウドプロバイダーだけを利用し続けると考えるのは、実情にそぐわず、非現実的だ。
企業が、全ての10ではないにしても少なくとも3つは持っているのと同様に、マルチクラウド化の誘惑に抵抗することはないだろう。マルチクラウドは複雑で管理が難しく、管理コストを大きく押し上げるとしてもだ。多様なビジネスニーズを持ち、単一のプロバイダーを一貫して使用し続けられる組織はまれだ。
この先、われわれが巨大なスライムと格闘する羽目になり、苦戦を余儀なくされることが見えているものの、われわれが準備とガバナンスを整え、賢明な行動を取るためにできることはある。
まず、マルチクラウドに関する戦略とスタンスを、しっかり検討して選択するとよい。プロバイダーを階層に分類し、どんな状況でどのプロバイダーの利用を承認するかを決定し、どのプロバイダーが望ましいか、あるいは戦略的かを指定する。
さらに、階層ごとに、プロバイダーとの連携を通じてクラウド活用に注力する度合いを決めるとよい。例えば、「プライマリー戦略的プロバイダーとの連携によるクラウド活用については、完全なガバナンスとオペレーションを実施する。セカンダリー戦略的プロバイダーとの連携の活用については、省力化アプローチでマネージドサービスプロバイダー(MSP)に依存する。他のプロバイダーに関しては、小規模な取り組みにとどめる(あるいは、基本的なリスク管理しかしない)」といった具合だ。
その後、明示的なワークロード配置ポリシーを作成するとよい。このポリシーには、アプリケーションオーナー/アーキテクトが統合の容易さや技術的な親和性などを基に、特定のアプリケーションをどこで実行するかを判断するためのアルゴリズムを組み込むようにする。
コストに基づいてプロバイダーを選択したり、長期的なワークロード配置を決めたりするのは、ひどい考えであることに注意する必要がある。このやり方は推進派の調達マネジャーと反対派のクラウドアーキテクトの間で、常に議論の争点となっている。このやり方は、「IaaSはコモディティであり、プロバイダーの価格優位性は短期的なものではなく、長続きする」という誤った考え方に根差している。コストをベースにワークロードを配置すると、長期的なTCO(総保有コスト)が高くつく場合が多い。“データの重力”、ひいてはデータ管理が大きく混乱し、アプリケーションの統合が不安定になるのは言うまでもない。
出典:The multicloud gelatinous cube(Gartner Blog Network)
VP Distinguished Analyst
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