近年、IoT機器などを使用して収集した「ビッグデータ」を格納する手段として磁気テープが再注目されている。約60年間磁気テープを製造する富士フイルムの大月英明氏に、最新の磁気テープについて話を聞いた。
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今、筆者の手元に、オープンリールテープがある。アナログ録音をするための磁気テープだ。1980〜90年代初期の音楽の制作現場を経験している筆者が、デジタル録音に移行した今でも大切に保管している当時のマスターテープである。もっとも当時使っていた、オタリやTechnics(テクニクス)のオープンリールデッキは、故障したまま修理されることなく倉庫でほこりをかぶっている。再生することはできない。
30年以上前、音楽の録音や編集で磁気テープと毎日格闘していただけに、デジタルデータの大容量記録メディアとして磁気テープに再び注目が集まっているという話を小耳に挟んだ瞬間、思わず「話を聞きたい!」と反応した結果が今回の取材記事だ。対応してくれたのは、1959年に業務用のビデオテープを開発して以来、約60年間連綿と磁気テープに関わっている富士フイルムの大月英明氏。
磁気テープ復権の理由を探ると「ビッグデータ」というキーワードが浮上する。IoTの時代となり、機器の動作状況や各種の環境情報など、現実空間のあらゆる事象を各種センサーや高精細カメラを利用してデータ化する動きが活発化しているのはご存じの通り。ストレージの単位容量あたりコストが下がり続けているとはいうものの、IoT機器が常時吐き出す大量のデータをためるとなるとその容量とコストはばかにならない。
大月氏が「アクセス頻度が低い大容量データを低コストで長期的に保存することに向いている」と、磁気テープの特徴を説明するように、IoTやビッグデータが磁気テープの復権を後押ししているともいえる。実際、あるシステムインテグレーターのトップは、「企業経営におけるデータ活用の重要性が増しているのだから、“使う使わないに関係なく、とにかくデータをためておけ、将来必ず利用価値が出る”と顧客に説いている」と力説する。つまり、デジタルツインが本格化する時代に備え、今からデータをためておくことで、AIによるデータ解析などを導入した際には、DX推進で優位に立てるというわけだ。
また、大容量と低コストだけでなく、セキュリティ面にも注目が集まっている。後にその構造を詳述するが、カートリッジ式でオフライン保管が可能なので、外部からの不正アクセスには強い。そのあたりの優位性を評価され、磁気テープはMicrosoft Azureのストレージサービスに採用されているという。
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