快適なテレワーク環境を構築するために、何を用意すべきなのだろうか。音楽制作業を営む山崎潤一郎氏が快適なリモートミーティングを実施するための知見を「松・竹・梅」の投資額別に解説する。
この記事は会員限定です。会員登録(無料)すると全てご覧いただけます。
コロナ禍が続く中、テレワークで勤務している人も多いだろう。テレワークともなると、リモートミーティングの機会も増大しているはず。本稿では、トラブルフリーで快適なリモートミーティングを実施するためのノウハウを筆者の経験をベースにまとめてみた。
あくまでも筆者の経験ベースなので、これが絶対と言い切れない部分もあるが、参考にしていただければ幸いだ。以下、筆者のリモートミーティング環境だ。
ただ、上記は、通常ミーティングにおける基本型であり、いわば普段着感覚のセットアップだ。一般的なミーティングや取材はこれでトラブったことはない。
その一方で、音楽制作業を営む筆者は、高音質音声が必要とされる状況もある。その際は、外付けオーディオインタフェースにマイクを接続し有線ヘッドフォンを使用している。以後、音質面の向上に向けた投資額を「松」「竹」「梅」に分けて解説したい。
ちなみに、今回は、画質については触れない。理由は単純で、ほとんどのミーティングでは資料などを大きく映し、自分の顔は他の参加者に小さく表示される。画質にお金と労力をかけても残念感が漂う。筆者の場合、MacBook Proの内蔵カメラで十分だというのが正直なところ。使用ソフトウェアは、頻度の順で、「Zoom」「Microsoft Teams」「Google Meet」「Cisco Webex Meetings」を経験しているが、ここでは最もポピュラーなZoomを事例として取り上げている。
先ほど、トラブルの経験はない、と書いたが実は、一度だけGoogle Meetが強制終了したことがある。もともと、Google Meetは、PCのリソースを多く食うことで知られているが、そのときは、バックグラウンドで動作するLogicoolマウス用の「Logi Options Daemon」の負荷が異常に上昇していた。
理由は現在調査中だが、Logi Options Daemonは、映像系や音楽系の作業をしているときに、なぜか負荷が高まり、MacBook Proのファンが高速回転を始めることが多々ある。Google Meetを利用する際には、負荷に注意したい。
なるべく良い音質でリモートミーティングを行う際の基本は、イヤフォンかヘッドフォンを使うことだ。ただし、ここでいう音質は、音楽でいうような音質ではなく、ブチブチとした音の途切れや、音声圧縮やエコーキャンセリングなどに起因する音声の乱れをなるべく少なくすることを指している。
内蔵マイクと内蔵スピーカーを使用すると、エコーキャンセリング機能がフル稼働するので、筆者の場合、少しでもコンピュータリソースを節約するためにイヤフォン(AirPods Pro)を必ず利用している。ただ、無線である必要はない。AirPods Proのバッテリー残量が心配なときは、実売3000円程度の有線のカナル型イヤフォン(PHILIPS SHE9701)をMacBook Proのヘッドフォン端子に接続して利用している。
ちなみに、当初は密閉型のヘッドフォン(SONY MDR-CD900ST)を使用していたが、1時間を超えて使用していると耳が痛くなるのでやめた。AirPods Pro以外の他社製イヤフォンを使う場合は、MacBook Proの内蔵マイクを利用することになる。
次に気にすべきは、宅内のネットワーク環境だ。筆者は、USB-Cとギガイーサの変換アダプターを使用してMacBook Proをイーサネットでルーターに接続している。Wi-Fiよりも安定感に違いを感じる。しかも、ルーターへの接続は、ハブを介すことなく、フレッツ光のNEC製ルーターのイーサネットポートにじかにつないでいる。ハブを介したら特に不安定になるとは思わないが、さらなる安心感を得るという意味でそうしている。
「梅」の予算は、千円以内から数千円を想定してある。実は、先にイヤフォンを導入しようと述べたが、それが、梅コースのことだ。音楽を聴くわけではないので、有線の千円以内の安価なものでもまったく問題はない。JVCケンウッドやパナソニックといったメーカー製であっても、千円前後で購入することができる。
Zoomの基本的なオーディオ設定は以下の通り。ただし、ここは、イヤフォンを使った「梅」コースの設定だ。「松」「竹」の設定については、それぞれの項目内で変更が必要な部分に限って特筆する。
内蔵マイクを利用するときは、このオプションにチェックを入れている。これは、その名が示す通り、ボリュームコントロール機能。Zoomのこの機能はとても優秀で、話し始めのしゃくり上げやクシャッとひしゃげたような現象は起きない。小さ過ぎたり、逆に大きくして音がひずんだりすることを考えると、音量調整はソフトウェアに任せた方が安心できる。
これもその名の通り、ノイズキャンセリング機能だ。これも「自動」にしている。ここを、「低(かすかな背景音)」にすると、筆者の仕事場の場合、エアコンの吹き出し口の音(決して大きくはないのだが……)を拾い、そこに圧縮ノイズがのって、終止「シュワシュワレロレロ」という耳障りな音が発生する。けっこう気になる。継続的な背景音が発生している場合は、「自動」=「高」になる場合がほとんどなので、ならば最初から「自動」でいいじゃないか、という考え方だ。
ちなみに、音楽など途切れのない音源をライン入力やPC内の仮想ルーティングで配信する場合は、「低(かすかな背景音)」を選ぶのが正解だ。背景音のことを気にしなくていいのだから。
筆者は、このチェックを外している。この設定は、テレビ会議機器用のマイクやスピーカーなど、機器自体に、エコーキャンセリングやノイズキャンセリング機能が搭載されている場合に「オン」にする。そのような機器を利用する場合、ハードウェア側で処理を行ってくれるので、PCのリソースを消費しなくて済む。
筆者のMacBook Proの内蔵マイクは、そのような機能がないようなので、これにチェックを付けると、背景音のノイズが気になるので、チェックを外している。
「竹」コースは、「AKG Lyra」「Blue Microphones Yeti Nano」といったUSBマイクを紹介する。USBマイクというのは、マイク本体内にオーディオインタフェース機能を内蔵しているので、USBでPCやモバイル端末に直接接続して音声のデータ化が可能だ。両機種には、イヤフォン端子も付いている。最大の特徴は、手軽に良質な音声をキャプチャーすることができる点にある。実際、MacBook Proの内蔵マイクより、音質はバツグンに優れている。
AKG(エー・ケー・ジー)は、言わずと知れたオーストリアの老舗マイク、ヘッドフォンメーカー。同社の銘器として名高い「C414」は、筆者の業務上の録音でも大活躍している。AKG Lyraは、2020年4〜5月の緊急事態宣言時は、一時品薄になるほどの人気だった。音質は折り紙付きだ。小型のコンデンサーマイクが4つ入っており、前方だけでなく、無指向性に近いイメージで前後の音も収録可能。
もう1つのBlue Microphones Yeti Nanoも、同様のUSBマイク。Blue Microphonesは1995年創業のニューカマー。「Bottle」と呼ばれる100万円近くする個性的な音のコンデンサーマイクが有名だ。ロックアーティストに愛用者が多い。Yeti Nanoはそんな、とんがったマイクメーカーが作ったUSBマイク。
「梅」コースと異なる部分は、「マイク音量を自動調整します」のチェックを外しておくこと。音量は、USBマイクに付いたレベル調整つまみや専用のユーティリティーソフトウェアで行うようになる。また、部屋が静かであれば、「背景雑音を調整します」を「低(かすかな背景音)」に設定してもよい。ただ、マイクの感度が優れているので、周囲のいろいろな音を拾う。会合中におならをしようものなら、一瞬でばれるので気を付けよう。背景雑音の調整は、自分でモニターしながら環境に合わせて設定するようにしたい。
また、「ミーティング内オプションを表示して“オリジナルサウンド”を有効にする」にチェックを付け、Zoomミーティング画面の「オリジナルサウンド」をオンにすると、USBマイク本来の音質が生きる。ただ、「背景雑音を調整します」の設定が無効化され、周囲の音をよく拾うようになる。部屋が静かであれば、「オリジナルサウンド」をオンにするのがベストだ。ここも部屋の環境に合わせて、選択してほしい。
「ミーティング内オプションを表示して“オリジナルサウンド”を有効にする」にチェックを付けたら、「高忠実度音楽モード」にチェックを付けておきたい。192Kbpsの帯域幅の音質を確保できる。ただし、Wi-Fi接続では、不安定感が増すので、イーサネット接続は必須だ。
「松」コースは専用のオーディオインタフェースとマイクを用意することになるが、通常のビジネスミーティングでは、ほとんど宝の持ち腐れかもしれない。ただ、「RIVERSIDE」(https://riverside.fm/)のような、高画質・高音質リモート環境を利用するような場合には、ぜひ、導入したい機材だ。これがあれば、リモートミーティングの様子をYouTubeでライブ配信したり、ポッドキャスト収録を実施したりする場合でも十分満足のいく音質で行うことができる。ただ、この分野、上を見るときりがないので、2〜3万円強の投資に収まる機材を選んでみた。
安心と安定のヤマハ製オーディオインタフェース。これもコロナ禍で一時品薄になった人気機種。これなら、ミーティング中も手元の操作で楽器演奏や他の音源をミックスするなどして、ラジオDJ的なサウンドづくりも可能だ。
音質を追求するなら、1万〜1万5000円程度のコンデンサーマイクという手もあるが、筆者の経験では、そのクラスのマイクは、耐久性に課題を残すものもある。それにコンデンサーマイクは、湿気に弱いので扱いに気を使う。従って、少々乱暴に扱っても壊れないダイナミックマイクをオススメする。「SHURE SM58」や「AUDIX OM2」は、アーティストがステージなどでも使っている定番中の定番マイクだ。特に、AUDIX OM2はダイナミックマイクにしては、音がクリアでナチュラルなので好感度が高い。
オーディオテクニカあたりの数千円の有線ヘッドフォンでも十分な音質でモニターが可能だ。もう少し投資したもいいというのであれば、「SONY MDR-7506」が、音もまろやかで長時間モニタリングしていても、聞き疲れせず使いやすい。
当然ながら、マイクとオーディオインタフェースをつなぐ、マイクケーブルは必須。マイクスタンドに関して、筆者は、カメラ三脚で有名な、「Manfrotto」のミニ三脚を利用している。ただ、カメラ用なので、そのままでは、マイクホルダーがつかない。そこで、「カメラ三脚→マイクホルダー変換アダプター」というものを利用している。1/4インチのものを3/8インチのネジに変換するアダプターだ。アマゾンなどで販売している。
基本的に、「竹」コースと同じ考え方でOKだ。ただ、ミーティング中に演奏やBGMをステレオで配信したい場合は、「ステレオオーディオ」にチェックを付けておこう。「高忠実度音楽モード」を「ステレオオーディオ」を配信する場合は、上りのネットワーク環境にも気を付けよう。イーサネット接続が必須だ。間違っても、iPhoneのテザリングで済ませてはならない。
音質にこだわったZoomミーティングの技を披露したが、最後にちゃぶ台返しを述べるようで申し訳ないが、Zoomの音声圧縮コーデックは、一定以上の「音質」を求めた場合どうしても限界がある。特に音楽のように音が連続的に再生される音源では、圧縮ノイズが目立ってしまう。また、インターネットのスループットなどにも影響を受けるので、ユーザー側ではいかんともしがたい部分もある。ただ、そうは言っても、少しでも良いサウンドで快適なリモートミーティングを行いたいものだ。本稿がみなさんの快適テレワークのお役にたてば幸いだ。
音楽制作業の傍らIT分野のライターとしても活動。クラシックやワールドミュージックといったジャンルを中心に、多数のアルバム制作に携わる。Pure Sound Dogレーベル主宰。ITライターとしては、講談社、KADOKAWA、ソフトバンククリエイティブといった大手出版社から多数の著書を上梓している。また、鍵盤楽器アプリ「Super Manetron」「Pocket Organ C3B3」などの開発者であると同時に演奏者でもあり、楽器アプリ奏者としてテレビ出演の経験もある。音楽趣味はプログレ。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.