ユーザー企業が契約範囲外の作業を行わせたり、不合理な方針変更をしたりして頓挫したプロジェクト。だがユーザー企業は、責任はベンダーにあるとして、20億円の支払いを要求した。
この度は、弊社のプロジェクト管理および品質保証の不備により、システム開発の進捗(しんちょく)が著しく遅延していること、誠に申し訳なく、心より謝罪を申し上げます。今後は体制の見直し強化、メンバーへの教育の徹底を行い、お客さまにご迷惑をおかけすることのないよう責任をもって対応させていただきますので……
皆さんは、ベンダーがユーザーに出すこうした文章を目にしたこと、あるいは自分で書いたことはあるだろうか。進捗が著しく遅れたり、ソフトウェアに重大な欠陥があったり、作業に大きなミスがあったりした際などに、その後の対応計画などとともにこうした「わび状」を出すことは、よく行われる。
特に日本では「お客さまは神様」という考えが根強く、システム開発の現場でも、何か問題があれば、「まずは謝罪、口頭で足りなければわび状を」という対応がよく見られる。私も根っからの日本人なので、何か不都合があるなら、頭を下げて自分の非を認めることが、結果として組織やプロジェクトの円滑な運営に資する場合があることは否定しないし、まずは自身を振り返り反省するという姿勢は美徳であるとも考える。
ただ、この謝罪をやり過ぎてしまうのは問題だ。本当に謝るべきところは謝るが、システム開発プロジェクトでどちらかが過度な責任を負うのは、その後の作業に負担がかかって危険だし、裁判になれば、その謝罪を証拠に「全面的に非を認めている」と責められかねない。
IT訴訟事例を例にとり、トラブルの予防策と対処法を解説する本連載。今回は「謝罪」が問題になった裁判を見ていただきたい。ベンダーの出したわび状は、責任を認めた証拠になるのだろうか――。
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