お客さまは神様です。どんなにムチャを言われても応えるのがベンダーの努めです――IT訴訟事例を例にとり、システム開発にまつわるトラブルの予防と対策法を解説する人気連載。今回は「ベンダーの義務」を考える。
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私はIT関連の仕事に約30年間従事し、前半3分の2をベンダーサイドで、残りの3分の1をユーザーサイドで働いてきた。ユーザーサイドに来て初めて分かったのは、ユーザーは素直なベンダーに対するイラ立ちを感じている、ということだ。
ユーザーは、自分たちが無理な要求をした場合にプロの目線でよく吟味し、拒絶したり代替案を提案したりすることや、プロジェクト管理の面や開発環境の準備、受け入れテストの際にも、ユーザーが間違っていたら異議を唱え、ときには言い争いをしながらもプロジェクトを成功に導く姿勢という付加価値をベンダーに求めている。
しかし、顧客であるユーザーのワガママや無理な要求を何でも受け入れることこそが顧客満足度を上げ、次の受注につながると考えるベンダーが多い。ウチの取柄は、お客さまのワガママに融通の利くこと――このような弁を私は何度も聞いてきた。
しかしそうしたベンダーは、ユーザーにとって、(仮にプロジェクトが成功しても)ただ言われたことをやってくれるだけの「作業者」であり、付加価値を提供してくれる「パートナー」とはなり得ない。
何でも我を通せば良いというものではないが、ユーザーは、自分たちが素人であることを踏まえ、プロとしてのプライドを持って提言をしてくれるベンダーの方が頼りになると考えることが少なくないのだ。
今回は、ユーザーのワガママをベンダーが唯々諾々と受けた揚げ句、失敗してしまった案件の裁判を解説する。まずは、判決文を読んでいただこう。
あるユーザー企業がベンダーに経営情報システム(本件システム)の開発を委託したが、プロジェクトが遅延し、結果としてユーザーはシステムの検収を行わずに、契約を解除した。
ユーザー企業はベンダーの債務不履行を理由に、損害賠償として、既に支払った一部代金の返還と現状回復費用の支払いを求めて訴訟を提起したが、ベンダーは契約解除が無効であるとして逆に作業費用など7000万円の支払いを求め、反訴を提起した。
少し補足すると、契約解除時点で、スケジュールの遅れはあったものの、システムは一応、受け入れテスト段階までは進んでいた。しかし、ユーザーが行った受け入れテストでたくさんの不具合が検出され、「納期遅延した上、これだけの不具合があったのでは費用の支払いはできない」とユーザーが判断し、契約解除に至ったということだ。
しかし判決文を見ると、ユーザーがベンダーの作業をかなり混乱させた節が垣間見える。
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