比較サイトComparitech.comは、顔認識技術利用状況を調査した結果を発表した。日本を含む世界99の国と地域を対象とした調査だ。政府機関や学校など用途別に得点を付けた結果、侵害的に広く利用している国のトップ3は中国、ロシア、UAEだった。ただし、これに続いて日本、チリ、インドが同点で並んだ。
比較サイトComparitech.comは2021年6月8日、顔認識技術の利用状況を調査した結果を発表した。日本を含む世界99の国と地域を対象とした調査だ。
ITやカメラを用いた顔認識技術は現在、さまざまな場面で使われており、多くの人にとって日常生活の一部となっている。専門家によると、2020年に38億ドル規模だった世界の顔認識技術市場は、2025年には85億ドル規模に成長する見通しだ。
Comparitechは、人口が多い上位99の国と地域を対象に、政府機関や警察、空港、学校、銀行、職場、バス、電車で顔認識技術がどのように利用されているかを調査、分析した(100カ国を当初の調査対象としたが、北朝鮮は、明確なデータがないため除外した)。
調査結果はカテゴリーごとに0〜5の6段階評価で示し、得点の合計を各国の総合得点とした。点数が高いほど顔認識技術の「悪用」が少ないことになる。
加えてComparitechは、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミック(世界的大流行)下における顔認識技術の利用状況も調べ、その採点を含めた総合得点も算出した。例えば、多くの政府機関や組織がCOVID-19対策として、できるだけ多くのサービスを非接触型にするために、顔認識技術を利用している。
調査の結果、顔認識技術が利用されている証拠が見つからなかった国は、99カ国中6カ国だけだった。厳しい法律や市民の反感があるからではなく、予算や技術不足が理由ではないかと思われる。
顔認識技術を禁止していることが知られている国は、ベルギーとルクセンブルクしかない。なお、ルクセンブルクは人口が約60万人と少ないため今回の調査対象外だ。
この他、Comparitechは、データを入手できた99カ国に関する主な調査結果として、次のようなデータを挙げている。どのような場面で顔認識技術が使われているのかが分かる。
各国の総合得点は0〜40点の範囲にあり、得点が少ない国ほど、顔認識技術を広く、侵害的に利用している。次に挙げる22カ国は総合得点が最も少ない。
中国は顔認識技術の最大の利用国としてしばしば名前が挙がる。中国の政府機関と警察は顔認識技術を広範に、そして多くの場合、プライバシーを侵害する監視手法とともに利用している。
例えば、蘇州市は顔認識技術を利用して、パジャマを着て外出した7人を特定し、市の「WeChat」アカウントで画像を公開した。中国のある公園は顔認識技術を用いて、人々がトイレットペーパーを盗むのを防いでいる。学校が顔認識技術を使って、生徒がどの程度熱心に授業を聞いているかを把握している場合も多い。生徒が集中していないように見えると、成績が下がってしまう。
8つのカテゴリー全てにおいて、ロシアで顔認識技術が利用されていることは明らかだった。最近では、ロシアの反体制派指導者アレクセイ・ナワリヌイ氏の収監に対する抗議デモの前に、顔認識技術によって抗議者が特定され、勾留されたとのうわさが流れた。
上位22カ国の多くと同様に、UAEは多くのカテゴリーで「プロセスのスピードアップ」と「詐欺防止」のために、顔認識技術を導入している。政府サービスへのアクセスから学校の出席登録まで、顔認識技術は幅広く利用されている。アブダビの警察もパトロールカーをアップグレードして顔認識技術を導入し、不審者や指名手配者の特定に役立てている。
これらの国は、全てのカテゴリーで顔認識技術をある程度利用している。
最も懸念される事項として、日本では顔認識技術と市民のソーシャルメディアアカウントを組み合わせて、犯罪者の追跡に用いていることが挙げられる。国家公安委員会は約1000万人の日本人の顔画像を保管しており、警察がデータベースにアクセスできるようにした。顔認識技術とともに利用できるようにするためだ。
チリでは2022年までに市民の大部分が、顔認識技術を利用した電子IDカードを持つようになる。インドでは、中央政府と州政府で、約16種類の顔認識技術システムが使われており、さらに17種類の顔認識技術システムが開発されている。
オーストラリアの警察は、物議を醸しているClearviewの顔認識技術を使っていることが明らかになった。同社はソーシャルメディア画像を使ってデータベースを作成していたことが判明している。ブラジルでは政府機関と警察による顔認識技術の利用はまだ普及していないが、増加している。学校と公共交通機関で、顔認識技術は既に広く実装されている。
首都ブエノスアイレスでは顔認識技術が、未成年の注意人物を含むデータベースとリンクされているとの報道があった。リアルタイム顔認識技術システムによって誤って特定、勾留された人々に関する記事も幾つか出ている。アルゼンチンではバスと学校を除く他のほとんどのカテゴリーでも、顔認識技術が利用されている。
フランスと英国、ハンガリーは、学校を除く全てのカテゴリーで、マレーシアはバスを除く全てのカテゴリーで、顔認識技術を利用している。この4カ国は、政府機関や警察、銀行、空港で、顔認識技術が広く利用されているか、または利用が増加している。公共交通機関でも利用が進んでいる。
メキシコの学校では、顔認識技術の利用例は知られていない。だが、メキシコでもバス以外の他のカテゴリーでは、顔認識技術が広く利用されているか、または利用が増加している。米国でも顔認識技術の利用が増加しているが、バスにはまだ導入されていない模様だ。
この4カ国は、ほとんどのカテゴリーで顔認識技術の普及が進んでいるが、まだ導入されていないカテゴリーがある。導入されていないカテゴリーは、ルーマニアでは公共交通システム、スペインでは学校、台湾ではバスだ。
これらの国では大抵の場合、顔認識技術の普及度はカテゴリーによってまちまちだ。なお、スウェーデンでは、学校における顔認識技術の利用は禁止されている。
前述したように、顔認識技術の利用について証拠がなかった国が6つあった。その内訳はブルンジ、キューバ、ハイチ、マダガスカル、南スーダン、シリアだ。
なお、ベルギーでは顔認識技術の利用が禁止されているものの、例外的に警察が特定の訴訟事例に限って顔認識技術を利用できる。
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